「来年の日本アカデミー賞で会いましょう!!」恩師・黒沢清監督の鼓舞に大九明子監督、感無量「映画にしがみついてきて良かった」『勝手にふるえてろ』公開記念トークイベント

「来年の日本アカデミー賞で会いましょう!!」恩師・黒沢清監督の鼓舞に大九明子監督、感無量「映画にしがみついてきて良かった」『勝手にふるえてろ』公開記念トークイベント
提供:シネマクエスト

日時:1月17日(水)
場所:新宿シネマカリテ スクリーン1
登壇者:黒沢清監督、大九明子監督

松岡茉優主演映画「勝手にふるえてろ」が公開中だ。原作は、01年に「インストール」でデビュー、「蹴りたい背中」で第130回芥川賞を受賞した作家・綿矢りさによる同名小説。東京国際映画祭観客賞受賞、公開初日満足度第1位(12/15 Filmarks調べ)、そしてネット上でも「2017年邦画No.1」との呼び声も高く、海外映画祭への出品も決定している痛快エンターテイメントだ。1月17日(水)に黒沢清監督をゲストに迎え、大九明子監督との登壇によるトークイベントが実施された。

大九監督が映画美学校に第一期生として通っていた際の講師をつとめていた黒沢は「久しぶりに大九の映画を観たが、とても素晴らしい作品を撮ったなと思った。今日はトークイベントにお呼びいただき、光栄です。」と挨拶。続けて、「師弟関係ってほどでもないんだけどね(笑)。映画美学校で『大いなる幻影』(99)を撮った際に、女優として出てもらったことがあるので、大九といえば女優という印象。今も女優やればいいのに!」と語り、大九監督を照れさせた。

本作の感想を尋ねられ、「ラブコメディとして、とても軽い良い口当たりで楽しく見始めるけど、だんだん引き込まれていくというか、これぞ現代の娯楽映画だなと思った。完全にほぼ一人称の映画で、主人公が全編出ずっぱりですよね。通常、主人公が出ずっぱりだと窮屈でかなり極端な私小説になりがちで、それはそれでおもしろいけれど、本作は場所の選び方や展開のさせ方が上手いんだろうね、どんどん世界が広がっていく。それがこの作品の面白いところだと思います。」と熱弁。ロケ地選びについて大九監督は「撮影期間が限られていたので、ポイント、ポイントでここが良いなという所を中心に考えて、それ以外の場所はその近隣という条件で選びました。」と話す。

「身近とはいえ、ヨシカが短期間のうちに結構いろんなところに出没しているよね。会社と家の往復でも、改札があって、バスがあって、釣りのおじさんが居て、と必ず決まった所、何か所に行く。ロケ場所が変わっていくというのも撮影をする上で結構大変ですよね。」と分析する黒沢に対し、「あれでも(ロケ場所を)結構絞った方なんですが、心躍るようなところもいっぱい作りたいなと思っていたので、ロケ場所は多くなってしまいました。」と大九監督は自身のこだわりを語った。また、本日改めてスクリーンで観て気付いた点として、黒沢が「水」にこだわったのではと尋ねると、「ヨシカは深海に潜っているかのように、そこを安全地帯にしている人物なんですが、いつまでも安全地帯にはいられないとも分かっているということをどこかで匂わせたいなと思い、水の音を意図的に効果音として使っています。」と大九監督は明かした。黒沢は水の使い方に対し、安心するような危険なような、どっちに転ぶのだろうかと不安を感じさせられたと話し、特に印象に残っているシーンとして、物語の終盤に登場する「赤い付箋」が水を含んでいく様を挙げた。そのシーンにも大九監督のこだわりが詰まっており、「タバコの火が音を立てながらスーッと変わっていくような様を付箋でやってみたいとシナリオを書いている時に思いついて、結構いろいろな紙で水の吸収具合も研究して撮影したんです。撮っていくうちに、恋愛の高まりのようなものを暗示するような表現になればいいなと思うようになっていきましたね。」と撮影秘話を語った。

また、黒沢は「昨年公開された映画『モアナと伝説の海』(17)が好きで、特に歌い出すシーンが僕は大好きなんですが、それに匹敵するぐらい良いなと思いました。」とお気入りのシーンとして、主人公が歌うシーンを挙げ、「歌い出してからメロディがついてくるというのが良かった。メロディを先行させると嫌味みたいな印象を受けるんだよね。」と独特のこだわりを打ち明けると、「歌唱シーンは全て同録で撮影したので、それぞれのカット毎に松岡さんに歌ってもらったんです。テンポとか狂っている箇所もありますが、それもまた良かったと思っています。」と大九監督も満足いく仕上がりになったと自信をのぞかせた。黒沢はキャストについても絶賛し、「松岡茉優さんももちろん素晴らしかったのですが、二を演じている渡辺大知さんが、一貫して二なのが良い!途中でカッコよくならず、何をやっても、ダメだこりゃという感じで最後までいくのがよかった。」と熱く語ると、場内には笑いが起きた。松岡さんとどのように役作りをしていったのかという質問に対して大九監督は「クランクインの前日に3時間ぐらいガッツリと話しました。ヨシカという人物はとても振り幅の広い役柄ということをお互い共有しましたね。(原作の)綿矢りささんの言葉をそのまま生かすために、モノローグにするのではなく、映像の中で登場人物が喋っている風に描きたかったので、独特の話し方になっている箇所もあります。」と答えた。

本作がヒットしている実感があるのかという話になり、大九監督は「当初、プロデューサーの方とは、ヨシカ的な人に向けて、狭いところにだけ届くように丁寧に作りましょうと、ヒットなんてまずないと話していたんです。男の人たちは全員、私たちのことを嫌いになるでしょうというつもりで撮った作品だったので、東京国際映画祭にノミネートされた時には青天の霹靂でした。」と心境を吐露。黒沢が「今まで撮り続けてきて良かったね。」と感慨深そうに話すと、大九監督も「映画にしがみついてきて良かったです。」と笑顔を見せた。「代表作をバーンと出しちゃうとこのあとが大変だよ。違うタイプを撮影したら“違う”と言われ、似ているタイプだと“同じじゃないか”!と言われるから」と黒沢が茶化すと場内は爆笑。大九監督は恩師からのひと言に苦笑しつつ、「10年前に対談した際には、女の人が暴れ倒す映画を撮りたいとお話しましたが、それはもうやり切ったなという感じなので、今後はおじさんを描きたいと思っています。おじさんが出てきてちょっと寂しい感じの映画がありそうでないかなと。」と今後の構想を明かした。また、本年度の日本アカデミー賞の優秀監督賞に選ばれたことを祝われた黒沢は「日本アカデミー賞は初めて頂いたんですけど、芸能人がいっぱいいる授賞式に出席しないといけないので、今からそわそわしているんです。」と照れながらも、「来年の日本アカデミー賞の授賞式で会いましょう!」と大九監督に語り、早くも来年の日本アカデミー賞へ『勝手にふるえてろ』がノミネートされることを期待し、場内からは大きな声援と拍手が沸いた。

最終更新日
2018-01-19 12:00:19
提供
シネマクエスト(引用元

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