映画『台風家族』尾野真千子 単独インタビュー

映画『台風家族』尾野真千子 単独インタビュー
提供:シネマクエスト

老夫婦が銀行強盗事件を起こしたあと失踪して10年が経ち、財産分与と仮想葬儀のために4人の子どもたちが集まる――そんな一日を描いた、ブラックユーモアたっぷりのファミリーコメディーがこの映画。『箱入り息子の恋』で知られる市井昌秀監督が長らく温めてきた、オリジナルの脚本だ。先の読めない展開、草彅剛演じる長男をはじめとした個性の強い兄妹たちの中にあって、常に冷静さを失わない長男の嫁を演じた尾野真千子さんに話をうかがった。

ストーリーの大半が家の中で展開するアンサンブル劇は、まるで舞台のようですね。栃木県でのロケの思い出はありますか?

■尾野真千子:真夏のロケだったので、とにかく暑くて……。キャストの皆さんと固まって出番を待ちながら、「暑い、暑い」って言ってました。

尾野さんが出演する作品には家族がテーマのものが多いように思えますが、意識しているのでしょうか?

■尾野真千子:わたしが(脚本の)おもしろさを感じる部分、「伝えたい」と思うのがそこなのかもしれないですね。高校生まで田舎育ちでしたから、家族を大切にするという意識が身体に染みついているのかもしれない。ずっと一人ではなかったですから。家族でなくても、必ず近くに誰かがいましたし。

最近は母親役もよく演じていますが、今回は高校生の娘がいる役ですね。

■尾野真千子:確かに高校生の娘は(自分の年齢では)ちょっと大きすぎるかな、と思いました(笑)。でも、早く結婚していればいてもおかしくないし、あまり気にせずやってます。

家族みんなのシーンが多い中、娘を諭すふたりきりのシーンはひとつの見せ場のように思いました。

■尾野真千子:年頃の娘がお父さんを毛嫌いして、その存在が「あり得ない」と思ったときに、「お父さんは、あなたのためを思ってやってきたんだよ」と真実を伝えないといけない。彼女にしてみれば、「やっと母親らしいことをしてあげられる」って思うシーンですね。

そこはお気に入りのシーンですか?

■尾野真千子:気に入ってるのは、ぜ~んぶ!!

この物語は、市井昌秀監督が長らく温めてきたものだと聞きましたが、監督の演出にも熱い思いを感じましたか?

■尾野真千子:市井監督は、すごく説明するんです。細かいところまで、慎重に。自分の気持ちをとても大切にされていると思いました。「とりあえず、やってみて」という演出方法ではない。「そのやり方、いいですねー」と演技を認めながら、さらに良くなるように付け足したり。決して役者さん任せではなく、ちゃんと芝居の良さを見てくれたうえで、さらに上を求めてくる感じでした。

ところで、NHKの朝ドラ(2011年の「カーネーション」)での経験は、その後の演技に大きく影響しましたか?

■尾野真千子:朝ドラはいろんなことを鍛えてくれました。どうしたら苦しいときに乗り越えられるかとか、精神力の面でも成長させてくれたドラマです。半年という長期間ですから、その分成長できるんです。表面的なことだけでなく、心から「自信がついた」と言えるようになりました。

その前後、いくつものいい映画やドラマに出会っていますね。

■尾野真千子:あの頃の作品はどれも手応えがありました。周りの評価は別にして、自分もこんな役が出来るようになったんだって、仕事に納得ができるようになっていました。それが成長なのかもしれないですね。「火の魚」(2009年)や「Mother」(2010年)など、好きな作品も多いんです。

『クライマーズ・ハイ』(2008年)の新聞記者役はすごく良かった。

■尾野真千子:『クライマーズ・ハイ』の撮影中は、怒られて怒られてどうしようもなかったんです。「どうしてできないんだろう」って、何度も心が折れかけた。でも、怒ってくれたからこそ愛情も理解できました。チヤホヤされながら演じるのと違う、みんな命を懸けて映画を作っている素敵な現場でした。

『殯の森』(2007年)も印象的な一本です。尾野さんが大切にしている河瀨直美監督からの“教え”はありますか?

■尾野真千子:芝居の中で、泣くにしても笑うにしても発する言葉でも、それは本当に自分の中から出てきてるものなの? 本当に悲しいの?嬉しいの?って問われるんです。芝居に“ウソ”が出たとき、河瀨さんは見破るんです。だから私もウソが嫌い。河瀨さんにそう言われて鍛えられたから。ウソで演じたとたん、顔が浮かぶくらい影響力は大きい。だからこれからも芝居の気持ちにはウソをつきたくないんです。そのためにいろんな経験をして、たくさんの人に出会いながら自分の気持ちを鍛えていきたいと思います。

取材・文 川井英司

最終更新日
2019-09-09 12:00:54
提供
シネマクエスト(引用元

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