映画感想・レビュー 103/2564ページ

第9地区:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-17

この映画「第9地区」は、ピーター・ジャクソン製作、ニール・ブロムカンプ脚本・監督で、公開以来大いに話題を呼び、作品賞枠が10本に拡大された米アカデミー賞にノミネートされて、一躍名を上げた異色SF作品ですね。

南アフリカ、ヨハネスブルグ上空に出現した巨大宇宙船からの「難民」であるエイリアンたちが、被差別民的に暮らすスラム街、第9地区。

このエイリアンたちを、別の専用居住地区へ強制移住させるための現場監督を任せられた職員を主人公にして、フェイク・ドキュメンタリーのタッチで現実社会における人種隔離や差別、文化の衝突を風刺的に描きつつ、B級魂が炸裂するアクション・アドベンチャーになっていると思います。

テーマ、スタイル、エンターテインメントのユニークな融合と、映画好きの心をくすぐるディテールや笑える設定、描写山盛りのサービス精神に思わず顔がほころんでしまう快作だ。

冷たい熱帯魚:P.N.「pinewood」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-17

🐌今朝のNHKラジオ深夜便の片岡鶴太郎のトークショー,guestは本篇で怪演の,でんでん。コンスタントに映像分野で活躍中,卓球に凝って居るとかー。中野駅前で軽やかに自転車から降りるダンデイな姿,居酒屋で上機嫌な姿など何度かお見掛けし

ディア・ファミリー:P.N.「ige」さんからの投稿

評価
★★★★
投稿日
2024-06-17

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町工場のオッサンが娘の命を救う映画と思いきや世界で17万人の命を救う医療器具を開発した感動作。
本年度ベスト!!

娘を救う事が出来なかった父親。
他界した娘との約束を成し遂げる素晴らしい作品だった。
そして実話ベースと言う事にも驚く!

心臓病で余命10年と宣告されたら娘の為、医療知識ゼロのオッサンが人工心臓を開発する感じで始まるストーリー。

大泉洋さん演じる坪井宣政が熱いお父さんだった。
娘の人工心臓を作ろうと奮闘する中、開発を断念せざるを得ない状況に陥る。
福本莉子さん演じる娘の佳美が自分以外の人を沢山救って欲しいと言う願いを成し遂げようとする展開。

そんな中、輸入に頼っているIABP(大動脈内バルーンバンビンク)での医療ミスが多く、松村北斗さん演じる医師の富岡が輸入品のIABPが日本人の体に合ってないとの考えにより、宣政が日本人の体に合った器具の開発に着手する展開。

宣政が娘を思う事に必死で自分の会社を差し置いていた印象。
従業員の事もあまり考えていない感じが気になりました( ´∀`)

蛇の道(2024):P.N.「ige」さんからの投稿

評価
★★★☆☆
投稿日
2024-06-17

ラストのサヨコの一言がメッチヤ恐ろしかった作品。
本年度ベスト級。

本作は柴咲コウさんの為に作られた作品だった感じ!
彼女の演技に加えフランス語や英語で喋る姿が凄かった!
(吹き替えじゃないよね?)

出だしから主導権を握る精神科医のサヨコ。
惨殺された娘の父親、アルベールの復習劇を手助けする感じ。
サヨコが何故そこまでするのか?
怪しい展開でサヨコが何かを企んでいることが推測されるけど全く予想が出来ない。
精神科医の立場を利用した展開と予想するも、そうでは無い感じだった。

アルベールが終始サヨコに操られている感じに違和感。
かなり回り道をした感じがしたけど、精神科医のサヨコのサイコパス感を表現していた感じ。
多くの拷問グッズが出てきてグロいシーンが来るかと思いきや肩透かしを喰らった感じだけど安心する(笑)

本当の復習劇のナルホド感は、途中から予想出来たので満足度は低め。

西島秀俊さんは何の為に出演していたのか?
良く解りませんでした( ´∀`)

オールド・フォックス 11歳の選択:P.N.「ige」さんからの投稿

評価
★★★☆☆
投稿日
2024-06-17

人生の勝ち組と負け組の違いを見せつけられた作品。
本年度ベスト級。

妻に先立たれ11歳のリャオジエと2人で暮らし自分の床屋の店を開くのを夢見るタイライ。

お金を貯め3年後に床屋を開業する事を目標にする中、物価の高騰で実現が困難となった感じ。

そんな中、人生の勝ち組の地主のシャとリャオジエが出会う展開。
シャのあだ名は「腹黒いキツネ」

腹黒いシャがリャオジエに対して親身になっているシーンが不思議なんだけど、後に解る理由に納得。
シャと対等に会話する11歳のリャオジエの演技が素晴らしかった!

シェが名言と思える様なセリフを度々喋るけど全く自分には刺さらず(笑)
腹黒い人って普段は優しい姿で本当にわからない所で残酷な事をする感じが印象に残る。

予告編で本作はドロドロの人間ドラマと思いきや、優しさに包まれた感じの意外性が良かった。
良い人が沢山登場する中「チクル(密告)」と言う言葉がキーワード。

ラストの展開はナルホドって感じで落とし所としては無難だった感じ。

エメラルド・フォレスト:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-17

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この映画「エメラルド・フォレスト」は、「脱出」「未来惑星ザルドス」の鬼才ジョン・ブアマン監督が大規模な自然破壊に警鐘を鳴らす、"脱ダム宣言先取り秘境アクション映画"の傑作だ。

南米アマゾンでダム建設に従事するアメリカ人技師(パワーズ・ブース)の家族が、妻のメグ・フォスターと二人の子供を連れてジャングルを観光中に、7歳の息子(チャーリー・ブアマン)をインディオに誘拐されてしまう。

執念の"捜索者"となった父は、以来10年、1日も休むことなく捜索を続けていたが、そんな父の前に、次代を担うリーダーとしてインディオの戦士に成長した息子が現われ、再会を果たすことになる。

文明社会への帰還を訴える父に、原住民に同化した息子に帰る意志はなく、「僕の家はここだ」と答えるのみだった。

父は断腸の思いでジャングルを後にするが、その父を見送る間に、彼の部族は悪徳白人と結託した戦闘部族に襲撃され、男たちは皆殺し、女たちは売春宿に送られてしまうのだった-------。

その後、部族の危機を救うべく立ち上がった息子が、父のもとに助けを請いに来る。 こうして、武器を手に入れた父子が、協力して悪の巣窟に殴り込む銃撃戦が凄い迫力で展開されるのだ。 二人の間に、"熱い絆"は消えることはなかったのだ-------。 南米で起こった類似の事件をもとに、鬼才ジョン・ブアマン監督が描く、執念の魂のこもったアドベンチャー大作で、ダムが完成するとインディオの生活が破壊されてしまうと悩む父の決断に、ジョン・ブアマン監督の主張が込められた作品だと思う。 主演のパワーズ・ブースは一世一代の名演で、息子役のチャーリー・ブアマンは、監督の実子ですが、その透明感のあるピュアな個性が光っていたと思いますね。

48時間:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-17

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このかつての仲間が黒人で、はみ出し刑事がアイルランド系の白人。
刑事は、自分の手と黒人の手を手錠でつないで走るのだが、次第に二人の信頼感で強まっていく。

もちろん、これは言うまでもなく、スタンリー・クレイマー監督、トニー・カーチス、シドニー・ポワチエ主演の「手錠のままの脱獄」のアイディアをいただいている。

アメリカの混乱を乗り切るには、白人と黒人が手をつなぐしかないという訴えは、あの時代より遥かに実感をもって迫ってくる。

と言ってもシリアスにそれを描くのではなく、時にアクションで振り回し、時に笑い飛ばして見せる若さは、リアリズムを基調にした訴えではなく、”寓話”としての面白さを創り出して見せてくれる。

いくらアメリカでも、仮出所の囚人に警察手帳や拳銃を貸すなんてことは絶対にあり得ないのだが、その気にさせてしまうあたりが、当時、ニューアクションの旗手と言われたウォルター・ヒル監督の腕前なのだろう。

はみ出し刑事のニック・ノルティのウドの大木的なムード、エディ・マーフィの小賢しさ。 ともに演技というより、キャラクターの面白さで大いに楽しませてくれる。 白人と黒人が手を握って、その一方の凶悪犯側はプエルトリコ系やネイティブアメリカン系の青年。 結局、時代からはみ出していくものは、いつの時代も時の弱小民族なのだろうか。 こんなあたりにも、当時のアメリカの姿が見えて、まことに興味深い映画である。

48時間:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-17

この映画「48時間」は、サンフランシスコの街を舞台に、脱獄した凶悪犯を追うはみ出し刑事が、刑務所に服役中の凶悪犯の仲間に48時間の仮釈放を与え、彼をパートナーとして大追跡を繰り広げる、ごきげんなポリス・アクション映画だ。

スピード感あふれるウォルター・ヒル監督の演出にのって、エディ・マーフィーが見事なデビューを飾った作品としても知られている作品だ。

看守を殺して脱獄した凶悪犯。彼は更に刑事二人を惨殺して逃亡を続ける。
そして、これを追いかけるのが、横紙破りのはみ出し刑事。

こうくれば、あの「ダーティハリー」を思い出すが、舞台は同じサンフランシスコでも、この後の物語の展開が何とも変わっているのだ。

はみ出し刑事は、凶悪犯のかつての仲間を刑務所から仮出所させ、情報を引き出しながら一緒に追跡して行く。
タイムリミットは48時間。

青春を賭けろ:P.N.「pinewood」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-17

❖深夜便の作家歌謡は中村八大特集,本篇の映画ソングの水原弘の大ヒット曲の黒い花びら,九重佑三子のコメットさん,坂本九の上を向いて歩こう,北島三郎の帰ろかな,坂本スミ子の夢で逢いましょうほか✦

エレキの若大将:P.N.「pinewood」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-17

🎸今朝のNHKラジオ深夜便ジャパニーズ・ロックは本篇出演の寺内タケシ特集,真夜中にエレキギターの金属音が響き渡って!ベートーヴェンのクラシックのアレンジ他何処か郷愁を誘う。フィンランドのアキ・カウリスマキ監督作品見たく恰好好い

生きてはみたけれど 小津安二郎伝:P.N.「pinewood」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

またキネマ旬報編の日本映画の黄金時代には淡島千景がインタビューの中で監督の演出術を廻る興味深いエピソードが縷々語られて,本篇の小津安二郎監督にも言及が。テイクを何度も繰り返す小津演出に就いての戸惑いも在った見たいだが,お人形さん見たく操る理由では無くて非常に的確だと。監督によって無言の怖さとかいろんな演出術が有る様だが優れた監督陣に恵まれ

生きる歓び:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

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ルネ・クレマン監督の作品としては、「太陽がいっぱい」に続いてのアラン・ドロン主演であり、ヒロインのバルバラ・ラスは、ポーランド生まれの当時はまだ新人だった。

彼女はこの映画の後、オムニバス作品「二十歳の恋」で、名匠アンジェイ・ワイダが監督したワルシャワ篇に出演していましたね。

アラン・ドロンがなんともおかしみのある味わいを見せ、「太陽がいっぱい」とはがらりと変わった役柄を演じていて、嬉しくなりましたね。

ユリスは、何も知らずにファシスト党に入ってしまい、手配中のアナーキストと間違われたことから、次第に正義感に目覚めていくんですね。

ユリスが高い建物の鐘楼の尖塔によじ登り、持っていたアナーキストの旗を縛り付けるのですが、その時のパノラマ状に見えるローマの街が、とても印象的でしたね。

生きる歓び:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

ルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演の「生きる歓び」は、ルネ・クレマン監督がイタリアへ渡って撮った作品で、第一次世界大戦後の混乱したヨーロッパを、喜劇的な手法で描いた佳作だ。

主演のユリスにアラン・ドロンが扮し、彼が恋するフランカには、バルバラ・ラスが扮している。

戦争の終ったローマは、ファシストの黒シャツ党が勢力を伸ばし、その一方、アナーキストによるテロが続発するといった、物情騒然な世相だった。

そんな中、兵役から帰って来た青年ユリスは、知らず知らずのうちに、意外な立場に追い込まれていく-------。

土曜の夜と日曜の朝:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

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工場では上司からいたぶられ、家に帰れば無気力でテレビばかり見ている両親にやり切れない思いをさせられ、安い給料を酒と女に注ぎ込んでいるのだ。

しかし、その不平不満のはけ口をどこへもっていったらいいのかというように、土曜の夜、酒場へ行って酔っ払い、パブで出会った若い娘を好きになるが、彼女は身が堅い。
それで工場の同僚の家へ行って、同僚の留守中にその奥さんと寝たりするのだ。

そして、同僚が夜勤になったのを幸い、その奥さんとの情事は激しさを加え、遂に彼女は妊娠する。
二人の関係は同僚に知られ、アーサーは同僚の弟の兵隊仲間にたたきのめされる。
そして、見舞に来たシャーリー・アン・フィールドに全てを告白し、気持ちを理解してくれた彼女と結ばれる。

カレル・ライス監督は、この”怒れる若者たち”の一人である主人公を中心に、現代のイギリスの”階級社会の閉塞感”を小市民生活の中で、リアルに描いていると思う。

カレル・ライス監督の視線は客観的で厳しいが、映画的に見て、そのショットの感覚が、まるで記録映画的なドキュメンタリーを観ているような斬新なタッチで描かれていて、感心させられた。 もちろん、この映画に生々しい、リアルな現実感を与えているのは、主人公を演じたアルバート・フィニーのふてぶてしさの中にも、ある種の哀しみをにじませた演技があったからこそだと思う。

土曜の夜と日曜の朝:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

この映画「土曜の夜と日曜の朝」は、イギリスの”怒れる若者たち”を代表するアラン・シリトーの同名小説をもとに描かれた社会派ドラマの秀作だ。

主人公は、イギリスの地方都市ノッティンガムの工場で働いている旋盤工であり、不良じみたこの青年と、彼を取り巻く周囲の人々の日常生活を、克明に描いただけの映画だ。
しかし、その日常生活の捉え方の中に込められた実感の切実さは、今観ても、驚くほどの普遍性を持っていると思う。

この主人公のアーサーを演じるのは、「トム・ジョーンズの華麗な冒険」「オリエント急行殺人事件」「ドレッサー」など英国を代表する演技派俳優・アルバート・フィニーで、このアーサーは工場で働きながら、絶えず苛立ち、不平を言っている青年だ。

「ちくしょう、なんてつまらない仕事だ、なんてつまらない人生だ、みんな押しつぶされているんだ、しかし俺は押しつぶされやしないぞ」と------。
彼はまさしく、”怒れる若者たち”の一人なのだ。

終身犯:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

アメリカ精神のバック・ボーンである”絶対自由人の伝統”を尊重しながら、しかもそれをどうしたら今日の組織化された社会に適応させていけるのか、という今日のアメリカ精神の基本的な問題点の一つが、ここにくっきりと浮き彫りにされていると思う。

そういう意味では、もう一歩のところで、”高度な思想劇”にもなり得るほどの秀作だと思う。

終身犯:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]

この映画「終身犯」は、獄中で鳥獣学の権威となった男の実話を、限られた空間を生かしたジョン・フランケンハイマー監督の見事な演出と主演のバート・ランカスターの渋い名演で見せる秀作だ。

このバート・ランカスターの主人公は、若い頃、殺人犯として入獄するが、ちょっとした気に入らないことでカッとなり、獄中で看守を殺して終身刑になる。
この二度の殺人に、この男が全く罪の意識を示さないことが、まず第一にアメリカ映画的だ。
彼はただ、この事態を個人の正当な復讐に、国家権力が更に報復をして返しているくらいにしか考えていないように見える。

日本映画で刑務所ものと言えば、そんな経過で囚人になった者が、いかにして自分の罪を自覚するに至るか、というところに狙いが合わされることになるものだが、この主人公は、あくまでも、国家に対立する者としての自分という感じ方を捨てようとはしないのだ。

彼は独房に迷い込んだ小鳥を慰めに育てたのをきっかけに、小鳥の飼育と研究に夢中になる。
そして、小鳥の病気を研究して、全くの独学で鳥の病理学の権威になる。

しかし、囚人が自分の生き方、自分の生き甲斐を独力で探求していくことを、刑務所当局は喜ばない。 規則通りの刑務所生活を彼に強制する。 すると、彼はこれまた、独学の法律知識によって当局をへこまし、マスコミを動員して当局に対抗する。 メイフラワー号以来、あるいは西部開拓時代以来の、”絶対自由人”、”絶対独立人”の伝説がこんなところに生きているような気がする。 だからといって、彼は終始ひねくれ者だったわけではなく、二つの重要な事件を契機にして、彼は人間的にも成長していくことになる。 一つは、いつも彼の方から横柄に呼びつけていた看守に、なぜおまえは人間同士の謙虚な呼びかけの言葉を使わないのかと説教されたことであり、もう一つは自分を溺愛していた母親のエゴイズムを知った時だ。

エレファント:P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-16

”我々観る者の心の奥深くに、ある種の衝撃とスリリングな戦慄を与えてくれるガス・ヴァン・サント監督の問題作「エレファント」”

優れて詩的な映像と、それと対照的な衝撃的な事件。
アメリカのどこにでもあるような、ある高校の一日を描いた、映像の詩人ガス・ヴァン・サント監督の「エレファント」は、我々観る者の心の奥深くに、”ある種の衝撃とスリリングな戦慄”を与えてくれる、非常に美しく、しかし、悲しい作品です。

どこにでもありそうな、静けさをたたえた、一見、平凡なたたずまいを見せる、郊外の高校。
アルコール依存症の父親を持つジョン、他人との人間関係がうまく出来ないミシェル、いじめを受けているアレックスたち、複数の高校生の日常が、まるでドキュメンタリー映画のように、淡々と画面に映し出されます。

そして、カメラは長回しのワンシーンで、彼ら生徒の背中を執拗に追って行きます。
時間を遡り、同じ場面を違う視点で描く事で、彼らの単調で平凡な日常は”重層的な意味”を帯びてきます。

彼ら生徒役は、全てオーディションで選ばれた全くの素人。 役名は本名で、自分自身の言葉で即興性を採り入れたセリフは、この年代の若者の、実に自然なリアリティーを感じさせて、ガス・ヴァン・サント監督の演出のうまさが光ります。 この映画は、実際に多くの死傷者を出したアメリカのコロンバイン高校の銃乱射事件を下敷きにして描いていますが、ガス・ヴァン・サント監督は、この事件の原因を描こうとはしておらず、自分なりに独自に事件を再構築する事で、問題の本質を全く異なる側面から浮かび上がらせ、生徒たちの”とらえどころのない虚ろな魂”を表現しているのだと思います。 しかし、我々映画を観る者は、既に起きた事件の中で、”若者が抱える心の闇の深さ”を感じ、その不確かで得体の知れない何かに衝撃を受けるのです。 実際に起きた事件をガス・ヴァン・サント監督の感性で再構築し、美しい映像表現で描き直す、作者のこの映画に賭ける思いはどこにあるのか? その映像の向こう側にあるものの正体に、どのようにしたら迫る事が出来るのか?


観終った後も、心の中で説明し難い、ある種の奇妙な違和感がどうしても残ってしまいます。 映像の美しさが、異常な程に際立つため、悲しさと畏怖の念だけが、心の奥深く、沈潜していくのです。

最終更新日:2025-05-05 16:00:02

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