映画『スペシャルアクターズ』上田慎一郎監督&大澤数人・河野宏紀インタビュー

映画『スペシャルアクターズ』上田慎一郎監督&大澤数人・河野宏紀インタビュー
提供:シネマクエスト

2018年最大の話題作『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が、新たに手がけた長編映画『スペシャルアクターズ』(2019年10月18日公開)。この作品の製作にあたり大きなプレッシャーから気絶しそうな日々を送ったという上田監督は、その経験から“緊張すると気絶してしまう”売れない俳優というキャラクターを生み出し、緊張の中ギリギリで演技を続けていく姿を描いている。主役に選ばれたのは、10年の俳優生活のなか、わずか3回しか芝居の仕事をしたことがないという大澤数人。自身が演じた主人公と同様に、ギリギリの緊張感の中で映画撮影に臨んだという。今回は上田監督と主演の大澤数人、そして主人公の弟役を演じた河野宏紀に作品について話を聞いた。

今回は監督と宣伝プロデューサーを兼任しているとのですが、なぜ宣プロもされることになったのでしょうか。今作ではどのような宣伝を行っていく予定ですか?

■上田慎一郎監督:松竹のほうから宣伝プロデューサーをやってみないかというお声がけをいただいたからです。自主映画ってもともと監督が宣伝プロデューサーもやっているようなものなので、特に違和感はないんです。作り手が一番その作品のことを理解しているし、熱を持って愛していると思うので、作り手が届け手として宣伝プロデューサーを務めるというのはアリだと思いますね。

前作の『カメラを止めるな!』では毎上映後に舞台挨拶をされていましたね。今回もそのような活動はされるのでしょうか?

■上田監督:前作では公開後2週間くらいは正式なイベントとしてやっていたんです。その後はキャストのみんなが率先して自主的に“ゲリラ舞台挨拶”として参加してくれたんです。

今回もそのような“ゲリラ舞台挨拶”はされるのですか?

■上田監督:前回は新宿K’sシネマと池袋シネマロサという単館2館スタートだったんで、フットワーク軽くやれたんですけどね。今回は140館以上という規模でシネコンでの上映も多いので、気軽にゲリラは難しいところがある。でも、できる限り調整していきたいと思っています。

『カメラを止めるな!』を越えるために、どのような宣伝を考えられていますか?

■上田監督:『カメ止め』の時も、よく考えれば当たり前のことを「そこまでやる?」ってレベルでやっていただけなんですよね。舞台挨拶100日以上連続でやるとか上映後にサイン会をしたりとか。だから今回も、シンプルに当たり前のことを「そこまでやる?」ってレベルでやっていきたいと思っています。公開までできる限り多くの方に見てもらって、口コミを広げたいなと思っています。



マスコミ試写などでも毎回監督が挨拶されているそうですが、映画を観た方の反応はどうでしたか?『カメ止め』の時と違いがありますか?

■上田監督:評判はすこぶる上々です。試写の後も一回一回「面白かったよー!」と声をかけてくださる方も多いですし、熱い長文の感想メールまで送ってくださる方も。手応えを噛みしめている感じですね。

大澤さん、河野さん、今回のワークショップに参加して、自分が主役・準主役に選ばれた時の率直な感想を教えてください。

■大澤数人:選ばれた時は、キャストみんな横並びの配役だと聞いていたので、主役という意識がなかったんですよね…。いっぱいセリフがあるなー、って感じで…。

■上田監督:選ばれた時には特に主役って伝えてはないんですよね。数人は撮影中に僕が現場で「頼むでー、主役なんやからさ」って声をかけた時に、自分が主役なんだって気づいたそうで。「嘘やろ」って感じですよね(笑)。

■大澤:誰にもそんなこと言われなかったから…。まさか自分が主役なんて、って感じで…。

河野さんはいかがでしたか?

■河野宏紀:オーディションを受けるからには一番になりたいといつも思っているんですけど、今回数人くんを最初に見た時に「この人にはかなわないな」と思いましたね。まったく僕と違うというか…。負けたくないなーというのが正直なところではありますが。

ぼーっとしたお兄ちゃんとまっすぐで強引な弟という、いいコンビネーションでしたよね。

■上田監督:まあ、そうですね。この二人のバランスの悪さがいいと思ったんです。背中が丸まった気弱な数人と、前のめりで尖ったところがある宏紀。オーディションで二人が並んだのを見た時に、「ああ、この二人の話を作りたいな」と思ったんです。

監督の中では、この二人が中心だと最初から決まっていたということですか?

■上田監督:早い段階で、この二人をツートップにした話になるのかな、という感触はありましたね。


ワークショップでは具体的に何をやるのでしょうか?

■上田監督:オーディションではエチュード(即興劇)をやりました。オーディションってやっぱりみんな装ってきているので、彼らのキャパをオーバーさせて本人の素が出るようなエチュードをやりました。後は、3分以上の自己紹介をやってもらったりとかね。自己紹介って、1分を超えると話すことがなくなってくるんですよ。1分を超えたあたりから、本人の素がはみ出てくる。3分自己紹介は、この二人はもっとも喋れていなかったですね。(大澤に)どういう話をしたか覚えてる?

■大澤:うーん…。…寒いですねとか…、雪が降ってますねとか…。

■上田監督:(笑)。永遠のような3分間でしょうね。まあ、それをうまくこなせる人を選ぶわけではなくて、言葉が出てこない感じや、答えを必死で考えている感じとか、その不器用さがいいなあと思ったんですよね。その必死さを映画の中にドキュメントとして取り込めたらいいなと考えていました。

大澤さんは映画の中でもずーっと眉毛が八の字というか、困った顔をしてましたよね。

■上田監督:いきなり長編映画の主役に抜擢されるわけですからね。すごいプレッシャーと緊張だと思うんですけど、その彼の戦いが映像からもはみ出てきていると思うので、そのあたりを撮りたかったというのもありますね。

監督、脚本作りの際にかなりスランプに陥られていたそうですね。クランクイン2ヶ月前にあらすじが変更になったということですが、プロットが決まってからはスムーズに脚本ができたのですか?

■上田監督:いやー、まったくそんなことはないですね。クランクイン2ヶ月前からプロットを再検討し始めて、台本の初稿が上がったのがクランクインの1ヶ月前。初稿ができた時も不安だらけで、二稿で“緊張すると気絶する”という設定を追加したんです。この設定ができてから、物語が走り始めたという感じですね。

撮影ぎりぎりまでストーリーを練りこまれていたのですね。今回、役者さんのキャラクターに合わせた当て書きということですが、演じやすいという感じはありましたか?

■大澤:うーん…。演じやすいってことは、一度もなかったですね…。経験がないので、とにかく毎日必死で…。

■上田監督:数人の場合はキャラクターを探るっていうよりも、ただただ毎日の撮影に必死だったっていうことだよね(笑)。それで良かったんだと思う。宏紀は自分のキャラクターをどう思った?

■河野:僕の演じたキャラクターは、けっこう飄々としているんですよね。実際の僕はそんな感じではないんですけど。実は、自分の内面では臆病だったり暴れていたりしていて、そういう内面を上田さんが見てくださって、ああいったキャラクターになったのかなあと感じましたね。

撮影現場はどんな雰囲気でしたか?

■上田監督:現場経験が浅いキャストも多かったので、前半の方はちょっとピリピリしていたかもしれないですね。でも中盤以降はチーム感が出てきて、みんなで一緒に作っている感じがしてきたと思います。

■大澤:…僕の心の拠り所は霊能者を演じた仁後亜由美さんと、アクターズのシナリオ担当の田上を演じた上田耀介くんでしたね。いっぱい話を聞いてもらってました。
■河野:僕は多磨瑠様役の淡梨さんとよく話してました。

ムスビル教祖・多磨瑠様役の淡梨さんもいいキャラクターでしたね。

■上田監督:本人はめちゃめちゃお調子者なんですよ。飲み会の時とかは一番しゃべっていますね。

■河野:けっこう熱い部分もあるというか、役者としてどうしたいとか、そういうことをしゃべっていましたね。

■上田監督:確かに、熱い奴だよね。撮影の際にも「気持ちを作りたいんで」と集中する時間を作ったり、自分を追い込んで撮影に臨んでいましたね。


大澤さん、河野さん、上田監督をどういう監督だと思いますか?

■大澤:え、うーん。…えーと、…サービス精神がある監督だと思います。

■河野:映画のために生まれてきた方なんだなあと思いました。かっこいいんですよね、映画をすごく知っていて。

よくみなさんで映画の話をするのですか?

■上田監督:ワークショップで、こういうテンションの映画を作りたいんだ!っていう映画をみんなで観たりしましたね。僕の演出には、ここは役者に任せて自由にやってもらおうという時と、「ここはこういうカメラワークで、こう役者が動いてアップになって、そしてパーンとセリフが来る!」みたいに、ケレン味たっぷりに撮りたい、という時の大きく分けて2パターンがあるんですよね。そういう演出に関しては、自分の好きな映画の記憶の中から出てきているところがありますね。

監督が映画を作る上で一番大事にしていることはなんでしょうか?

■上田監督:うーん…、一言で言うなら、夢中になることですかね。「大切なことは役者の芝居をしっかり撮ることだ」とか「自分らしく撮ることだ」とか自分に言い聞かせないとダメってことは、そのことにとらわれているんじゃないかと思うんです。夢中で撮っている時に初めて一番自分らしくなると思っているんです。夢中で撮っている時、何も意識せずに言葉が勝手に出てくる状態、ゾーンに入っているような状態で撮影できるのがベストなんだと思います。

作品について饒舌に語る上田監督と、取材慣れしていないためか言葉を一つ一つ選びながら答える大澤さん、言葉は少ないながらも俳優としての向上心や前向きさを感じさせる河野さん。気弱な兄と尖った弟、その二人を見守りサポートする父親、といった雰囲気がぴったりの三人(とは言え、上田監督と大澤さんは実は同い年なのだが…)。監督にとっては『カメ止め』の呪縛を越えるための、大澤さんと河野さんにとっては長編映画での初の大役にチャレンジした作品であることがうかがえた。彼らの真剣に挑む様子が作品にも滲み出たドキュメントである本作も、『カメ止め』同様、スタッフ・キャストの熱い想いのつまった、多くの観客から愛される映画と言えるだろう。

取材・文:松村 知恵美

最終更新日
2019-10-14 12:00:27
提供
シネマクエスト(引用元

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