P.N.「グスタフ」さんからの投稿
- 評価
- ★★☆☆☆
- 投稿日
- 2019-10-16
デビューして2年の間に25作品程の短編を手掛けていた溝口監督は、女性とのトラブルで背中に傷を負い制作から離れていました。現存するこの最古作品で、復帰を果たしたということです。後に傷跡を見られたときに、”これくらいでないと、女性は描けません”の内容のことを言ったという、伝説的な武勇伝が有名です。しかし、残念ながらこれは文部省映画でした。貧しい小作人の主人公が、向学心に燃えるも都会に行くことを諦め、故郷の発展に尽くす決意をするストーリーで、登場人物はその建前の良心を演じるだけです。溝口らしいところは一切ありません。映画手法では、追憶したり想像したりするカットを入れるフラッシュバックぐらいです。
都会に憧れる若者に農村での活躍を期待するプロパガンダは、当時にして過疎問題があったのか、それとも関東大震災後の復興に絡んだ理由からだったのだろうか。いまでは見ることのない乗合馬車や大正末期の地方の生活様式は情緒があって興味深い。こんなテーマパークが今あったら、海外の観光客の人気スポットになるだろう。