しろばんば 作品情報
しろばんば
伊豆の山々が暗緑の暮色に沈んでゆく冬の黄昏時には、綿くずのような白い小さな生きものが浮漂し始める。子供たちはそれを「しろばんば」と呼んだ。伊上洪作はこの白い生きものを眺めながら、曽祖父の妾だったおぬいと旧い家の土蔵で暮していた。明日から春休みという日、洪作はおぬいから母屋の叔母のさき子が女学校を卒業して帰って来たことを聞いた。近所の人達に囲まれたさき子の姿は、洪作にとりひどくまぶしかった。さき子が遠く遠く離れて洪作には到底手の届きそうにもない女に思われた。新学期になり、さき子が洪作の通う小学校の教師になると聞いたとき、彼はかすかなときめきを覚えた。洪作はわざと教室で暴れ廊下に立たされることが多くなった。そんな時、さき子は洪作の頭をこづいた。が、洪作はさき子のこうした邪険な態度にかえって落ちつくのだった。夏休みになった。洪作はおぬいに連れられ豊橋の父母の家へいった。そこで洪作は、おぬいと父母の口論から、自分が“おぬい婆ちゃの実の孫じやない”と知り悩んだ。村では、さき子と洪作の担任の先生との噂が広がっていた。ある夕暮、洪作はよりそって歩くさき子と中川の姿を見た。さき子は洪作に気づくと彼の肩を抱き「洪ちゃんも中川先生好きでしょ」と言った。瞬間、洪作の胸に中川に対する憎悪が湧きあがった。「きらいだ!さき子姉ちゃもきらいだ!」彼は二人を残して駈け出していた。秋が去り、再び冬になった。さき子は中川に連れられ彼の任地へ去った。二人を見送った洪作には、痩身のさき子の囲りに綿くずのような生きものが群がってゆくように思えた。洪作がさき子の死を知ったのは、天城の斜面に初秋の風の鳴る翌年であった。初秋の明るい陽の中に立った洪作の眼に、はなやかな色彩に満ちたはずの伊豆の風景が、何か暗い絵具で塗られたように見えるのだった。
「しろばんば」の解説
“主婦の友”連載井上靖原作を、「二人で歩いた幾春秋」を監督した木下恵介が脚色、「雲に向かって起つ」の滝沢英輔が監督した文芸もの。撮影もコンビの山崎善弘。
公開日・キャスト、その他基本情報
キャスト |
監督:滝沢英輔
原作:井上靖 出演:島村徹 北林谷栄 芦田伸介 渡辺美佐子 畠山とし子 細川ちか子 清水将夫 高野由美 芦川いづみ 大場健二 小田島久美子 宇野重吉 初井言栄 川上正夫 山田吾一 宮崎準 河野弘 野村孝 村田寿男 田中筆子 三崎千恵子 鏑木はるな 永田勝美 坂下恵一 田添統晶 西本雄司 宮下伊作 渡辺四郎 |
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配給 | 日活 |
制作国 | 日本(1962) |
上映時間 | 101分 |
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