海と毒薬 作品情報
うみとどくやく
昭和20年5月、敗戦の色はもはや隠しようもなく、九州F市にも毎晩のように米軍機による空襲が繰り返されていた。F帝大医学部研究生、勝呂と戸田の二人は、物資も薬品もろくに揃わぬ状況の中で、なかば投げやりな毎日を送っていた。だが勝呂には一人だけ気になる患者がいた。大部屋に入院している“おばはん”である。助かる見込みのない貧しい患者だった。「おばはんは、おれの最初の患者だ」と言う勝呂を、リアリストの戸田は、いつも冷笑して見ていた。そのおばはんのオペ(手術)が決まった。どうせ死ぬ患者なら実験材料に、という教授、助教授の非情な思惑に、勝呂は憤りを感じながらも反対できなかった。当時、死亡した医学部長の椅子を、勝呂たちが所属する第一外科の橋本教授と第二外科の権藤教授が争っていたが、権藤は西部軍と結びついているため、橋本は劣勢に立たされていた。橋本は形勢を立て直すために、結核で入院している前医学部長の姪の田部夫人のオペを早めることにした。簡単なオペだし、成功した時の影響力が強いのだ。ところが、オペに失敗した。手術台に横たわる田部夫人の遺体を前に呆然と立ちすくむ橋本。橋本の医学部長の夢は消えた。おばはんはオペを待つまでもなく空襲の夜、死んだ。数日後、勝呂と戸田は、橋本、柴田助教授、浅井助手、そして西部軍の田中軍医に呼ばれた。B29爆撃機の捕虜八名の生体解剖を手伝えというのだ。二人は承諾した。生体解剖の日、数名の西部軍の将校が立ちあった。大場看護婦長と看護婦の上田も参加していた。勝呂は麻酔の用意を命じられたが、ふるえているばかりで役に立たない。戸田は冷静だった。彼は勝呂に代って、捕虜の顔に麻酔用のマスクをあてた。うろたえる医師たちに向かって「こいつは患者じゃない!」橋本の怒声が手術室に響きわたった……。その夜、会議室では西部将校たちの狂宴が、捕虜の臓物を卓に並べてくり広げられていた。その後、半月の間に、次々と七人の捕虜が手術台で“処理”されていった。
「海と毒薬」の解説
太平洋戦争末期、米軍捕虜八名を生体解剖した事件を二人の研究生の目を通して描く。原作は遠藤周作の同名小説、脚本・監督は「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」の熊井啓、撮影は楢山節考」の栃沢正夫がそれぞれ担当。
公開日・キャスト、その他基本情報
公開日 | 1986年10月17日 |
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キャスト |
監督:熊井啓
原作:遠藤周作 出演:奥田瑛二 渡辺謙 成田三樹夫 西田健 神山繁 岸田今日子 根岸季衣 草野裕 辻萬長 津嘉山正種 千石規子 黒木優美 戸川暁子 大石真理子 ワタナベ・マリア 牧よし子 高山千草 山田孝子 岡田眞澄 ギャリー・イーグル 田村高廣 平光淳之助 |
配給 | 日本ヘラルド |
制作国 | 日本(1986) |
上映時間 | 123分 |
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ユーザーレビュー
総合評価:5点★★★★★、3件の投稿があります。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2023-11-18
この「海と毒薬」の原作は、第二次世界大戦末期に、実際にあった米軍の捕虜に対する生体解剖実験をもとに書かれた、遠藤周作の問題作で、熊井啓監督は、企画から15年かけて、この作品の映画化を実現。
この原作の小説は、キリスト教的な問題意識で書かれた作品であったが、映画はそれよりも、非人間的な大学の内部の醜い権力闘争が、事件の引き金になっているということを焦点に描いている。
核心になっているのは、熊井啓監督の基本的な理念でもある、ヒューマニズムである。
非常に緊迫感のある社会派ドラマという実りを示した作品だと思う。
重厚なモノクロ映像で、話としては非常に重いが、見応えのある、いわゆる問題提起をした秀作だと思う。