白鷺 作品情報

しらさぎ

明治も末のある年のこと。浜町河岸の料亭辰巳屋には、差し押さえに立ち廻った債権者たちの声が無情にひびいていた。その最中、一人娘のお篠は、自分が幼い時から親しんできた伊達白鷹画伯の「春近し」と題する名品を待合・砂子にあずけに出た。こうして白鷹画伯の一幅だけは債権者の手から救われた。お篠は小篠と呼び名をそのままに芸者となった。面倒を見る砂子のお女将・おとりは、小篠にご執心の船成金・五坂熊次郎に小篠を取りもとうとの算段をしている。小篠も、嫌な奴とは思っても、大事なお客とあれば、三度に一度は勤めねばならない。だが、白鷹画伯の愛弟子・稲木順一の文展入選の祝いで座敷に呼ばれ、ともに「春近し」に見入ってから、お篠の心は急速に順一に傾いていった。順一が、苦しんだ酒の介抱のお礼といって持参した色紙には、清水にたたずまう一羽の白鷺が描かれてあった。「あなたの印象です」と順一は言った。彼の心にも、小篠が宿ったのである。この二人の様子に気づいた五坂は、おとりに矢の催促。おとりは、「ご前さんからはお前に大変なお金が出てるんだよ」と、小篠に引導を渡した。がっくりとうなだれた小篠は、消えいるように五坂の寝室へ歩き出した--。小篠を待つ順一の部屋の襖がスーツと開いた。顔青ざめた小篠が音もなく入って来て、隣の部屋へ--。が、そこには誰もいなかった。その頃、小篠は五坂の寝室で自分の喉をついていたのだ。小篠の死出の衣裳となった長襦袢には、かつて順一が心をこめて描いた白鷺の図柄が、色も鮮やかに染めぬかれていたという。

「白鷺」の解説

新派の舞台でお馴染の泉鏡花原作悲恋物語の映画化。衣笠貞之助と「赤線の灯は消えず」の相良準が脚色、「大阪の女」の衣笠貞之助が監督、「共犯者」の渡辺公夫が撮影した。「娘の冒険」の山本富士子・野添ひとみ、「おーい中村君」の川崎敬三、「母の旅路」の佐野周二らが出演。

公開日・キャスト、その他基本情報

キャスト 監督衣笠貞之助
原作泉鏡花
出演山本富士子 川崎敬三 入江洋佑 佐野周二 清川玉枝 信欣三 見明凡太朗 小夜福子 武内聖二 小泉朋子 上田吉二郎 高松英郎 野添ひとみ 三宅邦子 東野英治郎 賀原夏子 竹里光子 町田博子 橘公子 細川ちか子 村田知英子 大美輝子 田中三津子 白井玲子 角梨枝子 種井信子 清水谷薫 南左斗子 瀬古佐智子 水木麗子 中条静夫 丸山修 南方伸夫 花布辰男
制作国 日本(1958)
上映時間 97分

ユーザーレビュー

総合評価:5点★★★★★、1件の投稿があります。

P.N.「水口栄一」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2020-12-21

白鷺を観たのはもう何年も前のことだ。だが山本富士子さんの印象がひじょうに強くて、よく覚えている。これは人生というものはあまりにも悲しく、そしてあまりにも愛しいという思いにさせてくれた。山本富士子さんは今は亡き母が大好きだった女優さんだ。こんなに素晴らしい女優さんを見たことがないと思ったものだ。美しいだけでなく、演技も抜群だ。

最終更新日:2024-10-17 02:00:05

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