映画『神在月のこども』白井孝奈監督 インタビュー

映画『神在月のこども』白井孝奈監督 インタビュー
提供:シネマクエスト

「神無月(かんなづき)」と呼ばれる10月。日本全国の八百万(やおよろず)の神様が出雲地方に出向くため、日本全体では「神のいない月」ということで「神無月」になるが、出雲地方では「神存月(かみありづき)」と呼ばれるそう。この「神存月」に、韋駄天の末裔である12歳の少女が、神様たちへ供物となる馳走を届けるために東京から出雲へと走っていくというアニメーション『神在月のこども』が、10月8日に公開される。アニメーション映画の企画・製作・公開という一連の流れを通して観客とコミュニケーションしていくというコンセプトで制作されたこの作品でアニメーション監督を務めた白井孝奈監督に、作品やその成り立ちについてお話をうかがった。

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監督はこの作品の企画の最初の段階から参加されているそうなのですが、企画の発端はどのようなものでしょうか?

■白井孝奈監督:この企画は、私も今所属しているcretica universalという団体が立ち上げたものです。これまでは映画のプロモーションなどをやっていた団体なんですが、映画の製作過程を通して観客の皆さんとコミュニケーションしていきたいというのが、この企画を立ち上げたきっかけです。アニメーション映画を製作しながらコミュニケーションをしていくという方針になった頃、もともと面識のあった私に声がかかったんです。その段階ではまだ何も決まっておらず、私がアニメーション監督になるとは思ってもいませんでした。

白井監督は「アニメーション監督」ということですが、具体的にどのようなことを担われたのでしょうか?「原作・コミュニケーション監督」の四戸俊成監督とはどのような分担になっていたのでしょうか。

■白井監督:コミュニケーション監督って、今回我々が作った言葉なんです。この作品はアニメ映画を製作し、製作過程やできあがった作品を通して、見ていただく方とコミュニケーションを取りたい、また日本という国の魅力を発信して各地域を訪れるきっかけにもなって欲しいというような思いで作っている作品です。それで、そういったコミュニケーションに関するデザインは四戸が、アニメーションの映像に関しては私が担当するという分担を行なっています。

韋駄天の末裔である小6の女の子・カンナが、東京から出雲まで走って神に供物を届けるというストーリーです。このストーリーはどこから着想されたのでしょうか?

■白井監督:もともとプロデューサーの三島鉄兵が島根出身で、島根というモチーフを使いたいというのが最初の段階からあリマした。彼は郷土愛もすごく強くて、また日本の各地の魅力を国内外に伝えていきたいという思いがありまして。それで、各地に八百万の神様がいるという日本の文化を盛り込みたいというのと、韋駄天を登場させたいというのが最初から構想としてありました。自分としては、男の子が冒険する物語は多いけれど女の子が冒険する物語は少ないと思っていたので、12歳の女の子が東京から出雲まで走って冒険するというストーリーになりました。

主人公のカンナというキャラクターを作り上げるうえで、もっとも意識されたのはどういうところですか?

■白井監督:一目見て、意志の固い子だなっていうのがわかるようにしたいと思っていました。現代的なきれいなビジュアルよりも、ちょっと泥臭い雰囲気にしたいと。最初は眉毛ももっと細かったんですけど、デザイナーさんに眉毛をもっと太く、目の瞳孔もグッと大きくして欲しいとお願いして、目力にはこだわりました。作品自体も、日本各地を走っていくというロードムービーなので、日本らしい少しジメッとした感じというか、少し泥臭さが出るようにビジュアルを作っていきました。

カンナ役は、蒔田彩珠さんが演じられていますね。

■白井監督:彼女には意志の強い感じっていうのを出してほしいってお話をさせていただきました。もともと蒔田さんの声には芯のある雰囲気があるので、そこは思ったとおりに表現していただけました。

いろんな神様やキャラクターが登場しますが、監督の中でお気に入りの神様やキャラクターは?

■白井監督:人型の神様としては、恵比寿様がとても気に入っています。あたたかい人柄がわかるような感じで、色味もあたたかくて……。鉱物や植物などの自然物をモチーフにしたクリーチャー型の神様としては、あの須賀神社っていうところでゴロゴロゴロって転がってくる金山毘古神(かなやまびこのかみ)っていう神様がいるんですけど、打ち合わせの段階でデザイナーさんがいっぱいアイデアを出してくれて、「ここに腕あるといいかも」とか「こういう神様がいたら面白いね」とアイデアを出してくれて固まっていったんです。このキャラ作りの過程を含めて、お気に入りの山の神様です。

いろいろな昔の神様が出てきますが、古事記とか日本書記とかを参考にされたりとかしたのでしょうか?

■白井監督:いろいろな資料は確認しました。ただ、古事記とか日本書記とか出雲神話とか、それぞれにあまり踏み込みすぎても違和感が出てしまうと思ったんです。なので、それぞれの神話などを知らない人でも違和感を感じず受け入れられるよう、深掘りしすぎないように気をつけました。

今回は、東京から出雲まで、主人公のカンナが走っていくロードムービーでもあります。道中で奈良井宿や、諏訪神社など、実在する多くの場所が登場しますが、ロケハンとかシナリオハンティングとかも行かれたりしたんでしょうか?

■白井監督:何度か行きました。かなり初期の段階で、コミュニケーション監督の四戸とプロデューサーの三島と、車で東京から出雲に行ったりもしましたね。Googleストリートビューを見ながら、どのルートを通ると面白いかな、なんて相談しました。神在祭に合わせて出雲にも行きました。実在の風景は、観客の方に「この場所に行ってみたい」と思ってもらえるよう、丁寧に描いたつもりです。

今回、映画初監督ということですが、どのように感じられましたか? 製作中には「自分がこの立場でやらせてもらってることがすごくありがたいし、すごく不思議」とおっしゃっておられましたね。

■白井監督:私自身、客観的に見て、このキャリアで急に監督をやらせてもらうことはありえないことだと思うんです。それで、企画を作っていく間に自分が監督をすることに決まって、まさかという感じでしたね。

それは年齢的に若すぎるということですか?

■白井監督:年齢的にというよりも、私が今までのキャリアから考えると、段階を何段も何段も飛ばして監督になったという感じで。演出経験などもなく、この規模で公開する劇場の長編作品の監督を任せてもらえるというのは、やっぱり信じられないという感じでした。

製作が終わった今も、その思いは変わらないですか?

■白井監督:まだ公開前の段階なので、ふわふわしてるところがないとは言えないんですけども……。ただ、作業を重ねていく中で、周りのキャリアのあるスタッフが私を監督として立てながらずっと作業してくださったので、自分で監督だという自覚が自然と強くなりましたね。私が揺らいでいたらスタッフも困るので、現場に入ったら監督としてしっかりしようという意識でやっていました。

今後はどういうキャリアを積んでいきたいという、ビジョンなどありますか?

■白井監督:まだまだ模索してるところであるんですけど……。今回多くの皆さんにサポートしていただいて本当にいい経験をさせていただいたので、その中で学んだこと教えていただいたことを発展させていって作品を作っていきたいですね。

この作品の続編などは考えられているのでしょうか?

■白井監督:この作品は映画単体で完結するプロジェクトではないので、まだそういった話はないですが、色々できたらいいなとは思いますね。日本には神様がたくさんいるので、八百万の神様をビジュアル化していくと面白いなとか、色々と考えは膨らみますね。

「企画に参加していたら、思いがけず自分が監督することになってしまった」という白井監督。自分のキャリアとしては監督は早すぎると思ったと言いながらも、しっかりと作品について語る姿はまさに“監督”そのもの。「ベテランスタッフに支えられたからできた」と謙遜されていたが、作品に込めた想いを語るその表情からは一つの長編映画を作り上げた映画監督としての自信のようなものが感じられた。

【取材・文】松村知恵美

最終更新日
2021-10-05 12:10:47
提供
シネマクエスト(引用元

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