この秋冬に連続して公開となる、2人のジャズトランペッターを描いた映画『ブルーに生まれついて』（11/26公開）と『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』（12/23公開）。これらの公開を記念して、都内のジャズ喫茶のマスターを招き、「2016年を締めくくるJAZZ映画2選」と題した連続上映の特別試写会が、13日に実施された。
試写会の後に行われたトークショーにはジャズトランぺッターの日野皓正氏、音楽評論家の柳樂光隆氏が登壇。伝説のミュージシャンたちとの秘話が明かされた。
トークイベントでの主なやり取りは次の通り。
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2つの作品の主役チェット・ベイカーとマイルス・デイヴィスについて
■柳樂:今日上映をした2作品とも日野さんと同じ楽器でトランペッターの作品でしたがご覧になっていかがでしたか。
■日野:（チェットとマイルスは）敵ですね、商売敵（笑）！ マイルスに関しては僕は息子という感じ。チェットは、昔から父親が好きで聞いていて、初めて彼を知った時は女じゃないかと思ったから、すごく驚いた。こんなにハスキーでセクシーな歌い手がいるのかと思ったね。
■柳樂:率直にチェットのトランペットはどんな印象ですか？
■日野:（ほとんどマイルスに影響を受けている人ですね。あの人の何がすごいかっていうと、彼は絶対音感をもっているから譜面を見なくてもすぐに吹けちゃうところ。日本のTOKUみたいな感じだよ。
アメリカのジャズ界は日本の落語界みたいなもので、アート・ブレイキー（ジャズドラマー）は僕のことを「息子！」って呼ぶし、僕のおじいちゃんはサッチモ（ルイ・アームストロング）、それで父親はマイルス。“Each One, Teach One.”っていう言葉があるんだけど、みんなそうやって繋がっていくから、僕も今度は誰かに伝えていくことがあるかもしれない。だからマイルスは僕にとってオヤジなんだよね。
マイルス・デイヴィスとの出会い
■日野:アル・フォスター（ジャズドラマー）のバンドで一緒に仕事をしたことがあって、マイルスのアパートでリハーサルをしていたんだよね。「マイルスが電話口で吹けって言ってるぞ！」ってアルが言うから一生懸命吹いたら「『Sounds good.』って言ってるぞ』って。それが最初かな。マイルスっていう人は必ず最後にひと言ひねってきたり、その時バンドにいたジョン・コルトレーン（サックス奏者）にソニー・ロリンズ（サックス奏者）が見に来てるぞ！ ってわざと伝えて焚き付けたり、ゲームがすごく好きな人だったの。
トランペットについて
■柳樂:チェットもマイルスも映画ではトランペットを吹けなくなった時期が描かれていますが、日野さんは吹けなくなったことはあるんですか。ずっと吹き続けているから、あまりチェットとマイルスの気持ちが理解できないんじゃ……？
■日野:僕は（映画みたいに）歯を折られたり、殴られるような喧嘩をしたことがないから、食べるために吹かざるを得ないんですよ（笑）。吹くことだけしかできない、そのためだけに生まれてきたんだよ。あとはゴルフとスキーもやるけど、それはトランペットのための筋力（トレーニング）みたいなものだから。
■柳樂:吹けないと思ったことありますか？
■日野:それはしょっちゅうですよ。デイヴ・リーブマン（サックス、フルート奏者）のバンドに出ていた時、デイヴが「明日、マイルスの病院に見舞いに行くんだけど何か言いたいことないか？」って言うから「僕は上の唇がしょっちゅう水ぶくれができてしまうんだけど、どうしたらいいか聞いて」って言ったの。そしたらマイルスからは「下の唇をもっと使え」っていう返事だった。「僕の奏法を見たことないのに！」と思っていたんだけど、最近70歳くらいで（そのことを）思い出して試したらすごくいいんだよ！ やっぱりマイルスは俺のオヤジだよなーって思ったね。正しい吹き方なんて学んだことがないから、中学3年生の時に新宿のキャバレーに呼ばれて吹きに行ったけど、いじめられてさ、泣きながら帰ってたんだから！（笑）
（ジャズ喫茶マスターからの質問）音楽が変わっていくことについて
■日野:マイルスは衣は違って見えるけど、吹いている中身は一緒なんだよな。僕ら（プレイヤー）も悩むんですよ。観客が求めているものもあるけど、次の時代やスタイルをクリエイトしなきゃっていう気持ちがアーティストにはあるから。たかがジャズだしされどジャズじゃない！って思うんだよね。このことについては死ぬまで葛藤すると思うな。
チェット・ベイカー、マイルス・デイヴィスとは
■日野:俺たちから見たらチェットの人生はかわいそうじゃないですか。だからあんな音が出るんだよね。寂しい人だったけど、どんな環境の中でも自分の歌を貫いて魂で演奏する人だった。マイルスについては、何やったってアートになっちゃう、新しい手法、音楽を生み出すあの芸術感覚はすごいよね。
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『ブルーに生まれついて』
2016年11月29日よりBunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿ほか全国にて順次公開
配給:ポニーキャニオン
（C）2015 BTB Blue Productions Ltd and BTBB Productions SPV Limited.ALL RIGHTS RESERVED.
『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』
2016年12月23日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
