キネマの天地 作品情報

きねまのてんち

浅草の活動小屋で売り子をしていた田中小春が、松竹キネマの小倉監督に見出され、蒲田撮影所の大部屋に入ったのは昭和8年の春だった。小春は大震災で母親を失い、若い頃旅回り一座の人気者だったという病弱の父・喜八と長屋でのふたり暮らしだ。蒲田撮影所での体験は何もかもが新鮮だった。ある日、守衛に案内されて小倉組の撮影見学をしていた小春はエキストラとして映画出演することになった。だが素人の小春にうまく演じられる訳がなく、小倉に怒鳴られた小春は泣き泣き家に帰り、女優になることをあきらめた。長屋に戻って近所の奥さんにことのいきさつを話している小春を、小倉組の助監督島田健二郎が迎えにきた。「女優になりたがる娘はいっぱいいるけど、女優にしたい娘はそんなにいるもんじゃない」。健二郎の言葉で、小春は再び女優への道を歩み始めた。やがて健二郎と小春はひと眼を盗んでデイトする間柄になった。小春は幸福だった。しかし時がたつにつれ、映画のことにしか興味をしめさない健二郎に少しずつ物足りなさを覚えるようになった。小春の長屋の住人たちは不況下の失業にあえいでいた。そんな中で、唯一の希望はスクリーンに登場する小春だった。夏もすぎ秋になって、小春はプレイボーイとして有名な二枚目スター、井川時彦と親しくつき合うようになった。師走に入って、健二郎は、労働運動で警察から追われている大学時代の先輩をかくまったとして、留置所に入れられてしまう。その留置所生活で得たのは、かつてなかった映画作りに対する情熱だった。年が明けて、小春が大作の主演に大抜擢された。主演のトップスター川島澄江が愛の失踪事件を起こしたため、その代打に起用されたのだ。しかしその大作「浮草」で演技の壁にぶつかって、小春は苦悩した。その小春を、喜八はかつて旅回り一座の看板女優だった母と一座の二枚目俳優のロマンスを語り励ました。実は小春の本当の父親はその二枚目であることも--。「浮草」は成功した。人があふれる浅草の映画館でゆきと「浮草」を見に行った喜八は、映画を見ながら静かに息をひきとった。

「キネマの天地」の解説

松竹が撮影所を大船に移転する直前の昭和8、9年の蒲田撮影所を舞台に、映画作りに情熱を燃やす人々の人生を描く。脚本は井上ひさし、山田太一、朝間義隆、山田洋次が共同執筆。監督は「男はつらいよ 柴又より愛をこめて」の山田洋次、撮影も同作の高羽哲夫が担当。

公開日・キャスト、その他基本情報

公開日 1986年8月2日
キャスト 監督山田洋次
出演渥美清 中井貴一 有森也実 倍賞千恵子 前田吟 下絛正巳 三崎千恵子 吉岡秀隆 笹野高史 松本幸四郎 松坂慶子 すまけい 岸部一徳 なべおさみ 大和田伸也 柄本明 山本晋也 美保純 石井均 レオナルド熊 津嘉山正種 坂元貞美 広岡瞬 田中健 油井昌由樹 冷泉公裕 じん弘 山田隆夫 アパッチけん 光石研 桜井センリ 笠智衆 平田満 ハナ肇 佐藤蛾次郎 石倉三郎 粟津號 財津一郎 桃井かおり 山城新伍 木の実ナナ 松田春翠 人見明 田谷知子 関敬六 若尾哲平 巻島康一 マキノ佐代子 加島潤 星野浩之 藤山寛美
配給 松竹
制作国 日本(1986)
上映時間 135分

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ユーザーレビュー

総合評価:5点★★★★★、10件の投稿があります。

P.N.「pinewood」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-09-18

📺本篇,小津安二郎監督の撮影現場の再現描写はかなり入念だったと記憶する。ユリイカ誌本年4月号山田太一特集を読みながら本篇共同脚本家の1人,山田太一の想いを想像して見る。山田太一も監督山田洋次も松竹時代からのアンチ小津派,監督木下惠介組の山田太一は監督と一緒に松竹を退職しテレビの仕事で花開く。山田太一シナリオの笠智衆主演のNHKドラマは小津作品へのオマージュと云う。映画が切捨てて来た平凡な日常のドラマを描き込んで行くスタイルこそ,小津安二郎作品の醍醐味だ

最終更新日:2024-09-28 16:00:02

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