箱の中の羊 感想・レビュー 1件

はこのなかのひつじ

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P.N.「鎌倉の隠居」さんからの投稿

評価
★★★★
投稿日
2026-05-11

 冒頭、「遠くない未来、、、」とクレジットされ自分自身の生活圏が映し出されて虚構性希薄な導入だった。
 ここのところ是枝監督は深刻な社会問題にコミットした作品が続いていたこともあり、「近未来」が舞台となって、ここ数作とは幾分立て付けが異なっている。
 死者を思い続け、それがなにがしかの形で具現化される「近未来」設定は、すでにさまざま作品がある。本作は、そうした枠組みを足がかりとしての、悲嘆の乗り越えがひとつの主題である。是枝監督当て書きとのことである綾瀬はるかが、その微妙複雑な母親像を説得力ある演技で表現している。
 伝統的旧来社会の価値観で生きる余貴美子扮する母親は、娘がとりわけこだわる中庭の記念樹を守り続けることにもヒューマノイドの採択にも強く反対する。夫の職場には理解しようとする空気が流れている。その中にある古老の職人役の田中泯が、職場に来たヒューマノイドに自然体で語って聞かせる「樹木の時間」のエピソードは、物語に深みをもたらしている。
 終盤、契約関係となっていた両親それぞれに慰撫と乗り越えをもたらしたヒューマノイドは、密かに内蔵されたGPSを取り除くことで束縛から解放され、他のヒューマノイドたちと協働して自身らの終の棲家を希求する。彼らに必要なのは、大樹を利活用した居住空間と簡易な水車によりもたらされる電力のみである。ただ、ヒューマノイドたちは、人間の子どもたち数人を、現実社会では誘拐・失踪とされるものの、おそらく現況の救済目的で囲い込み同道している。彼らとの共存は、どのように維持されるのか。映画は、その結末は観る側に託した。
 ヒューマノイドたちの自活を、人間社会への柔らかな反発反抗なのだと受け止めるなら、そうした進化系と人間との拮抗対立は、遠い昔スタンリー・キューブリックがすでに『2001年宇宙の旅』(1968年MGM)で提起し、半世紀以上経過した今でも「解」には辿り着いていない。近時、あっという間にAIが人間社会を席巻し、是枝監督が、このたび主題としたように「遠くない未来」での日常化がより現実味を帯びる中、それを発明し、運用する側の人間は、共存のためのマスターキーを未だに見出せずにいる。キューブリックからの時間を踏まえれば、ことの深刻さはより深いものとなっている。そう捉えると、本作もやはり社会問題にコミットしている作品とするべきなのだろう。

最終更新日:2026-05-13 16:00:01

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