P.N.「鎌倉の隠居」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★☆
- 投稿日
- 2026-05-16
開催中のカンヌ映画祭でワールドプレミアとなって大喝采、大称賛との現地報届いたばかりの濱口竜介監督最新作『急に具合が悪くなる』は、これまでの過去作を遥かに上まわる上質、高品質な一本である。3時間5分の長尺いささかも弛緩なく、しかしながらあくまで静謐な佇まいを貫き、きわめて深く重要な主題が観る者ひとりひとりの胸底に突き刺さる。
舞台はパリと京都。物語は、あたかも舞台劇のように進行するが、紛れもない映像作品である。往復書簡をニ国往還のドラマに仕立てた監督自身の脚本が見事。ここに長塚京三当てがきの戯曲と独り芝居を添えて、主題をより色濃く鮮明なものとしている。それに加えて長塚京三扮する清宮吾朗の孫役の黒崎煌代が自閉症の青年像を説得力豊かに演じて作品の主題をより深いところへと誘う重石となっている。
作中で日本と韓国とがその最先端にあると明言される少子高齢化問題が今後とも抱え続けられ、当面先行き不透明のままでしかないことを、エンターテイメントを主戦場とする濱口監督が真っ直ぐ向き合っている。そして、これまで以上の多面性、奥深さを生み出し、「最適解」を見出すべく腐心している監督自身の切実感が体感された。
フランス側の主人公ヴィルジニー・エフィラ演じるフランス側の主人公は、文化人類学を学び、日本の保険会社勤務の経験を有しながら現在はパリの介護施設の長を担う福祉職。対する日本側の主人公は、大学で哲学を学び、日本の学究環境を良しとできず渡仏留学後、演劇を実存手段として選択している演出家で、同役を岡本多緒が凛とした佇まいで鮮やかに演じきっている。設定は、原作となった宮野真生子、磯野真穂連名の同名書通り。それぞれの、そうした立ち位置こそが本作の肝とも言えよう。虚構でいて、内実決して絵空事にとどまらない。加えて主題はワールドワイドな喫緊課題。余命宣告された主人公の、もっと生きたい、と言う真摯で切実な希求が鋭く胸に響く。映画祭での絶賛、納得である。
