名簿売買、特殊詐欺、ベンチャー投資、外国人犯罪組織など、日本の裏社会で実際に起こっている犯罪をリアルに描いた映画『JOINT』で描かれる、いかにも現代的な犯罪の手口はとてもショッキングだ。詐欺犯罪の闇を細部までリサーチして臨んだのは、これが長編デビュー作となる小島央大監督。ニューヨーク暮らしから東京大学の建築学科へ。そして映像の世界に飛び込んだ異色の新鋭にお話をうかがった。
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デビュー作にしてこのジャンル=クライム・ムービーを選んだのはなぜでしょう?
■小島央大監督:描いているのはヤクザの世界に違いなく主人公の石神武司は半グレ(暴力団に属せずに犯罪行為を行う輩)ですが、そんな中途半端な人間が環境に流されながら生きていくうちに、やがて自分の生きるべき道を発見していく――というのは、決して自分の世界観とかけ離れている訳ではないんです。僕が大学の建築学科で学んでいた4年生の時、将来の進路に悩む中で映像制作のおもしろさを見つけていくその過程が印象的で。あの頃の自分は中途半端だったなぁと思うんですよ。社会に出て、生き方を見つけていったことがこの映画と共鳴している。ヤクザの世界は決して身近ではないけれど、例えばファンタジーでもSFでも、ストーリーの本質さえ距離感が近ければいいかなと思うんです。逆に、なぜみんな(初めての作品のテーマとして)日常とか身の回りの話にこだわるんだろう、と思っちゃいます。
これまでに映画をたくさん観てきましたか?
■小島監督:3歳から13歳までアメリカで暮らしました。レンタルして映画を観る習慣が生活の中にあったので、毎日1本は観てました。本を読むことも、もちろん。映画づくりを志すようになってからは、さらに意識して観るようになりました。犯罪映画とか、参考になりそうなのをたくさん。マイケル・マン監督やニコラス・ウィンディング・レフン監督など、トーンがちょっと暗めのノワール映画が好きなんです。
中心にいるキャラクターは従来のヤクザとは違う“ネオ・ヤクザ”な連中ですが、どんなものを参考にしたりリサーチしたりしましたか?
■小島監督:フランスの低所得者たちを描いた犯罪映画やゲットーを舞台にした映画など、その世界観を参考に。もちろん、実際の現代的な犯罪もリサーチしました。車を走らせながら電話詐欺をするとか、今っぽいですよね。“現在進行形”の犯罪はどんなものか、一定の距離感を保ちながらも事情通から詐欺の現状を教えてもらえたりしました。
俳優たちの会話や立ち居振る舞いがとても自然ですが、台本はどこまで書き込まれていたのですか?
■小島監督:厳密な脚本はない状態で撮影スタートしました。ただし展開の肝になるセリフは必要ですから、それらは脚本に忠実に。あとの会話は、実はアドリブも多いです。そうすることによってナチュラルな、ドキュメンタリーっぽさが出たと思います。
主人公・石神武司を演じた山本一賢さんは、演技経験がないとは思えないほど存在感バツグンですね。
■小島監督:これまでに短編映画をいくつか撮ったんですが、ある時オーディションに参加してくれたのが山本さんだったんです。醸し出すオーラが凄いし、情熱が漲っている感じの人。結局、短編では相応しい役がなかったので出演に至らなかったんですが、将来、長編映画を撮る時にはぜひ出てもらおうと思っていました。長編にキャスティングできる人になかなか出会えるものではないですから、幸運でした。
ほかにも個性的で“本格的”な風貌の出演者たちが集結しています。彼らをどのようにして見つけたのでしょう?
■小島監督:約半数の方はオーディションです。ネットの掲示板で募集して、400人くらいの応募がありました。残りの半分は山本さんたちの知り合いか、紹介です。ほぼ演技未経験者ばかりなんですが、皆さん個性的な方ばかりで。例えば(荒木役の)樋口想現さんは普段はバスケットボール選手なんですが、少しヤクザっぽい味付けを施せばそれらしく見えてきて……。そんな人たちばかりだったので、自然に振舞ってもらえたらタカチになると。無理せず、その人らしいヤクザっぽさが出せればいいかなと。ヤクザだけじゃなく、ベンチャー企業の社員っぽさだったり、株の売買をやってる人っぽさも含めて。
刺青を彫るシーンは神聖さすら感じて衝撃的でした。
■小島監督:あれ、本当に彫ってるんです。5時間くらいかかりました。(荒木役の)樋口さんが実際に「刺青を追加で彫りたい」というタイミングだったので。
監督はこれからもこの路線を進むのでしょうか? それとも次回作はガラッと違う雰囲気のものに?
■小島監督:社会性のあるテーマがやりがいを感じるので、若い男女の青春映画ってことはないですね(笑)。
観た人に感じてもらいたいのはどんなことでしょう?
■小島監督:みなさんが思い描くヤクザ像を更新したい気持ちです。新しい形の犯罪映画だと感じてもらえればいいですね。そんな中にも義理とか人情もあって、根っこの部分は変わらないんだってところも。これは自主映画に違いないですが、「商業映画にも負けないよ」という心意気も感じ取ってもらえたら嬉しいです。
【取材・文】川井英司