企画、出演者、ミュージシャンなど、新たな才能をオーディションで選出し、オリジナル映画を完成させるという新しい試み「NEW CINEMA PROJECT」。このプロジェクトの第1弾となる映画『五億円のじんせい』で見事主役の座を勝ち取ったのが、2000年生まれの期待の若手俳優・望月歩。ドラマ「3年A組」などでも印象的な演技を見せた彼が本作で演じたのは、幼い頃に善意の募金・五億円により心臓移植を成功させ命を救われた少年・望来(みらい)。自分が受け取った“善意の五億円”のプレッシャーに堪え兼ね自殺を決意した彼は、この“五億円の借金”を返してから死のうと家出をしてさまざまなバイトを経験し、さまざまな人々と出会っていく。平田満、西田尚美ら、多くの日本映画に出演する名俳優たちを相手に、見事に主演を務めてみせた18歳の望月歩に、この作品について話を聞いた。
最初に、脚本を読んだ時の感想を教えてください。
■望月歩:一番に思ったのは、純粋に面白いなということと、登場人物が多いなということですね。どんどん物語が広がっていくので、この人は誰がやるんだろうとか、僕だったらどう演じるかなーと考えながら読んでいきました。
ご自身が望来を演じるうえで、何か共通点などは感じましたか?
■望月:やっぱりこういう職業をやっていると、プレッシャーはかなりあるんですよね。だから五億円という大金をみんなから募金してもらったというプレッシャーの中で生きる望来には、共通点があるかなあと思っていました。望来の大変さを理解できるというか。
やはり、主役として映画を背負っていくにはかなりプレッシャーがありますか?
■望月:最初はただただ主役に選ばれてうれしいと思っていたんですけど、「作品の出来も僕次第だ」と実感してだんだんプレッシャーが強くなっていきました。でも、その分、しっかり準備をして撮影に臨んだので、本番の時には逆に安心して演技に取り組めましたね。
具体的にはどういう準備をしたんですか?
■望月:望来がどういう風に生きてきたのか、キャラクターについて整理するためにノートに書いてまとめたり、その時々の望来の感情の動きをノートに書き留めたりしていきましたね。いつもこういうことはやっているんですけど、ここまで徹底的にやったのは初めてでしたね。
気に入っているシーンはありますか?
■望月:いっぱいあるんですけど、僕、平田満さん演じるホームレスのいちさんのキャラクターが大好きなんですよ。いちさんと望来が過ごす部屋の中のシーンは、すごく印象に残っていますね。平田さんの包み込んでくれるような柔らかな声のトーンを間近に感じて、役としてだけでなく、僕自身もすごくあたたかい気持ちになりました。
ベテラン俳優さんのすごさのようなものを感じたということですか?
■望月:なんというか、こういう経験をしてこういうふうに過ごしてきたら、このいちさんみたいになるんだろうなあって、キャラクターに重さがあるんですよね。短い中でもきちんといちさんの人生を感じられるというか。
ご自身としては、役になりきるタイプですか? 役と自分を切り替えられるタイプですか?
■望月:どうなんだろう…。荒々しい役をしている時も特に変わらないと言われたので、多分切り替えられるタイプなんだと思います。
望来は幼い頃に心臓移植をしていますが、映らないシーンでも胸に手術の傷跡を描いて撮影に臨んでいたそうですね。
■望月:最初のうちは描いてなかったんですけど、添い寝カフェでバイトをするシーンで傷跡が見えるシーンがあるんです。その時に胸に一点この感覚があることで、望来の気持ちがわかるというか。例えば手を怪我した人が無意識に手をかばってしまうような感覚。「この感覚は大事にしたいな」と思って、それ以来撮影の時には毎日、傷跡をメイクさんに描いてもらうようにしてました。
望来の背負っているものの象徴というようなことですか? 精神的なものというよりは肉体から役をつくっていくという感じ?
■望月:そうですね、感覚の問題なんですけど、肉体から感覚にうつして、役になりきっていくという感じですね。実際に描くまでは僕も気づかなかったんですけどね。でも、この感覚に気づけたことで、より望来にすっと入れたように思います。
撮影中、もっとも大変だったことは何ですか?
■望月:うーん、早起きがつらかったですね(笑)。もともと朝が苦手なんですけど、毎日5時とか6時に起きて現場に行ってましたね。まだ撮影当時は18歳になってなかったので、夜10時前には終わらせてもらえて、そこはちょっと幸せでしたね(笑)。でもやっぱりキツかったです(笑)。
共演者はベテラン俳優さんが多かったですが、印象に残った俳優さんはいらっしゃいますか?
■望月:もちろんみなさんすごい俳優さんばかりだったのですが、平田満さんの存在はやっぱりすごく大きかったですね。他には、引越しのバイトをしているシーンで一緒にトラックに乗ったバーガー長谷川さんが、お芝居に対してワクワクしている意識がすごく伝わってきて、一緒に演じていてすごく楽しかったですね。「どうにかしてやろう」という俳優としての欲がすごく伝わってきて、僕も一緒にワクワクしちゃいました。
同世代の俳優さんとしては、山田杏奈さんが印象的な役で出演されていますね。
■望月:一応主演をさせてもらっているので、いい現場にしようと撮影前に山田さんに話しかけたりもしたんですけど、なかなかうまく話せなくて…。もともと人見知りしちゃうタイプなんで、話が三往復くらいしか続かなかったです。人見知りを直そうと頑張ってはいるんですけど、まだまだ全然ダメですね…。僕よりも、僕の子供時代を演じている子役の潤浩くんの方が、山田さんと仲良くなっててうらやましかったです(笑)。
ドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」などでも活躍されていますね。こういう単独主演の映画と、同世代が多く出演している学園ドラマのような作品では、撮影に臨む際の気持ちなどは全く違うものですか?
■望月:全然違いますね。自分的には同世代が多いと現場が楽しいんですけど、お芝居をする上では、大人の俳優さんとの演技の方が楽しいですね。
同世代の俳優さんが多いと友だちになったりもするんですか?
■望月:それがならないんですよ! 僕が人見知りだっていうのもあって、もともと仲の良かった人たちとしか話してないんですよ。僕の友だちは現場ではなく学校とか地元の友だちばっかりですね。濱田龍臣くんとかも仲がいいんですけど、現場であったっていうよりは、高校が一緒だったからなんですよね。役者の友だちが欲しいんだけどなー。頑張んなきゃなー。
お友だちと普段はどういう風に遊んでるんですか?
■望月:映画見たり、カラオケいったり、家でゲームしたり、普通の高校生や大学生みたいな感じですね。あとは、駅前でじーっと人の様子を見てたりしますね。遅れそうで急いでる人とか、ナンパ待ちしてる人とかいろいろいるじゃないですか。見ているだけでも面白いですよね。
劇中で「優しい人と優しくない人がいるんじゃなくて、優しくしたくなる人がいる」というセリフがあって、望来ちゃんは“優しくしたくなる人”と言われていましたが、ご自身はどういうタイプだと思いますか?
■望月:うん、優しくしたくなる人なタイプだと思います(笑)実際、僕、男友達からもおごってもらえたりするんです(笑)。劇中でお弁当のおかずをもらえるシーンがあったんですけど、高校時代はホントにあんな感じで、ブロッコリーとかめちゃめちゃもらってました(笑)。
劇中でさまざまな闇バイトをされていますが、ご自身ではバイトの経験はありますか? やってみたいバイトとかはありますか?
■望月:バイトしたことはないんですよ。やってみたいんですけどね。現実的に考えるとUberEatsをやってみたいかな。僕、実は今まだおこづかい制なんですよ(笑)。なかなかお小遣いだけじゃきついので、ホントにバイトしてみたいですね(笑)。
望来はお母さんにすごく愛されていて、その愛がプレッシャーで家出をしてしまったりしますが、ご自身のお母さんとの関係はどうですか?
■望月:親からのプレッシャーはまったくないですね。「あんたがやりたいようにやんな」みたいな応援の仕方をしてくれているので。ホントにありがたいです。
これからどのように活動していきたいと思っていますか? 俳優として、それ以外でも何かやりたいことはありますか?
■望月:俳優としてだと『るろ剣』に出たいんですよねー。『るろうに剣心』! 他だと『キングダム』とか『東京喰種』みたいなかっこいい作品に出たいですね。アクションも好きだし、漫画も好きなんです。
2000年生まれ、18歳という若さの望月歩くん。2014年のデビューから着実に俳優として歩みを進めている彼だけあって、俳優としての深い言葉が出たかと思えば、「朝がつらくて」「バイトしたい」というような18歳らしい等身大の答えも飛び出してくるという、予想を超えたインタビューだった。まさに“出会った人が優しくしたくなる”ような魅力を持った少年の部分と、演技について語るクールな俳優としての部分が絶妙なバランスで同居している。若手実力派俳優として、これからますますの活躍が期待されるところだ。
【取材・文】松村知恵美