世紀の大スキャンダルが揺るがすロシア帝国のゆくえを描いたスペクタクル大作!『マチルダ 禁断の恋』アレクセイ・ウチーチェリ監督来日インタビュー

世紀の大スキャンダルが揺るがすロシア帝国のゆくえを描いたスペクタクル大作!『マチルダ 禁断の恋』アレクセイ・ウチーチェリ監督来日インタビュー
提供:シネマクエスト

なんという迫力、なんというエモーション。ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世と、マリインスキー・バレエ団の伝説のプリマ、マチルダ・クシェシンスカヤとの許されない恋を史実を織り交ぜながら描き、ロシア本国でセンセーションを巻き起こした話題作『マチルダ 禁断の恋』がいよいよ12月8日、日本で公開される。
ロシアでは「聖人」として崇められているニコライ2世のスキャンダルとなれば、過激に反応する向きも。安全上の理由から、出演俳優たちがプレミア上映会を欠席するという自体にまで発展。それでも公開後は210万人を動員する大ヒットに。
メガホンをとったのは、これまでもゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネートや、アカデミー賞外国語映画賞ロシア代表に選出されるなど国内外で評価の高いアレクセイ・ウチーチェリ監督。来日した監督にお話を伺った。

本作は実話をもとにされていますが、なぜ今、この時期に、この時代に、ニコライ2世とバレリーナのマチルダの恋を描こうと考えれたのですか?

■アレクセイ・ウチーチェリ監督理由は3つあります。一つ目は、ニコライの人生の知られざる1ページに興味を持ってもらえるのではないかと思ったこと。二つ目は、ドラマチックな恋はいつの時代も誰もが関心を持つテーマですから。そして三つ目は、この2人の恋の結末によってロシアのその後が決まった、まさに岐路に立つ出来事だったということです。

人生を分ける、そして歴史を変えてしまう立場にあったわけですね。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督彼がどうやって最終的な結論を出したのか。出すまでのプロセスを見るのが面白いんです。

恋する男であるだけでなく、ロマノフ家を継がなければいけないという責任もあり、それはつまりロシア帝国を担ってゆくことになるわけで、彼が本当にその器だったのかどうかはわかりませんが、その苦しみは伝わってきました。この物語を映画化するには脚本づくりが要だったと思いますが、脚本をつくる上で最も大切にしたことはなんですか?

■アレクセイ・ウチーチェリ監督脚本が出来上がるまでに2年、かなり長くかかりました。複数のライターに書いてもらってオーディションをしたんですが、最終的に選んだのは、プロの脚本家ではなく、アレクサンドル・テレコフという作家のものでした。彼が書いてくれた脚本は、ニコライ2世の一生を描く自叙伝的なものではなく、彼の人生の中の具体的なエピソードをいくつか集めて、それをクローズアップして脚本化するという手法でした。その中で大事にしたことは、ニコライ2世を観客が感情移入できるような普通の人間として描く一方、彼の選択によって、観客ひとりひとりの運命が決まるようにロシアの将来が決まったのだと伝わるような脚本にすることでした。

様々なエピソードが出てきますが、ニコライがマチルダと恋に落ちる劇場のシーンで、コスチュームの不具合が起きますが、あれは実際に起きたことですか?

■アレクセイ・ウチーチェリ監督ライバルに意地悪をされてコスチュームがはだけてしまったのは事実ですが、それをニコライが見ていたかどうかはわかりません。でも、可能性としては充分考えられます。

その後に大列車事故のシーンが続きますが、とてもスリリングでスペクタクルでした。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督事実を時系列で描いているわけではありませんが、事故そのものはありました。時期はともかくとして、あの事故がニコライ2世の最終的な選択に影響を与えていることは確かです。なぜなら、父親である皇帝アレクサンドル2世が致命的な怪我を負い、その後死んでしまうわけですから。

あそこで家長とはどういうものなのかが、家族を助けようとする父親の踏ん張りによって示されていましたね。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督もちろんニコライ2世にとって父親は重要な役割を担っていますが、母親もまた重要でした。母親である皇后マリア・フョードロヴナはニコライの考えに多大な影響を与えていたのです。けれど、もし父親が致命的な怪我を負うという事故がなければ、ニコライ2世が皇位を継承する時期は遥かに後になっていたでしょう。その後のロシアの運命が変わっていたと思います。アレクサンドル2世は48歳だったんですよ、当時。あと20年ぐらいは現役でいられたかもしれません。

ロシア革命も違うかたちになったかもしれませんね。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督予測するのは難しいですが、変わっていた可能性はあります。

ほかに印象的だったのは、マチルダに熱狂的な恋をするヴォロンツォフです。彼が登場する時に必ず炎をしょっているのが面白かったです。最初から殺気立っていましたね。穏やかなのは最初に花束を持って出てくるシーンだけでしたから。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督ヴォロンツォフという将校について、我々が創り出したキャラクターだと思っている人も多いんですが、実在した人物です。16歳でマチルダに首ったけになり、婚約者が首つり自殺をしたのも事実ですよ。確かに映画には悪役が必要ですが、実際にいた人です。

悪役というより、ただマチルダが好きで、彼女を守ろうとした。殺そうともしますが。彼女をニコライの運命から守ろうとしたのかなという気もしました。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督心からマチルダを守りたいと願っていたのは確かですが、それでも彼の狂気は否定できません。映画的にはとても面白いキャラクターです。自分の恋心でおかしくなってしまったのですから。

彼が連行される施設のフィッシャー博士とはいったい何者なんですか?

■アレクセイ・ウチーチェリ監督彼も実在の人物ですが、まず、ニコライ2世の婚約者でドイツのヘッセン大公女アリックスについてお話しましょう。彼女は血友病だったのですが、血友病の母親からは血友病の息子が生まれると信じていて、嫁いでくるときにフランス人医師を連れてくるんです。それがフィッシャー博士のモデルです。そのフランス人医師は唯一「あなたの息子は血友病では生まれない」と言ってくれる医師だったので、彼女は信頼していましたが、結局、生まれた息子は血友病だったんです。それで、皇后になったアリックスは、そのフランス人医師を追放しました。それが事実です。実際、ニコライ2世の皇后アリックスは神秘教に心酔していて、その医師を追放した後もラスプーチンという僧が現れて、彼女につきまとうわけです。皇后はそういう人でした。映画ではフランス人医師からドイツ人のフィッシャー博士に変えて登場させています。

フィッシャー博士の登場によって、アリックスの精神性の危うさも強調されたように思いました。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督そうですね、皇后は死ぬまで神秘教に心酔し、だからこそ、あそこまでラスプーチンが皇帝一家に取り入ることになって、権力を振るったわけですから。それが、ある種ロシアの運命に影響を与えましたね。

彼女と結婚していなければ…。父親は反対していたようですし、母親も違う相手を望んでいたような。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督本当は英国女王の姪と結婚させたかったようです。

いろいろな出会いが重なって、ああいう運命になったんですね。政略結婚の末路ということなんでしょうか。

■アレクセイ・ウチーチェリ監督アリックスは14歳の時にニコライ2世に出会いました。少年少女の恋という感じだったのではないでしょうか。アリックスの生誕地であるドイツの町にニコライ2世が美しいロシア正教会を建てているんですけれど、その町でもこの映画の試写会を行いました。

どんな反応でしたか?

■アレクセイ・ウチーチェリ監督会場は満席で、わたしも立ち会いました。観客から積極的に質問もありましたよ。ドイツ出身の俳優も出演していますし、ドイツでは大々的な公開になりました。反応はよかったですね。ニコライ2世を演じたラース・アイディンガーはドイツで大人気の俳優なので、興行成績もよかったです。

ラース・アイディンガーはドイツ映画賞主演男優賞を受賞した『ブルーム・オブ・イエスタディ』やオリヴィエ・アサイヤス監督の『アクトレス ~彼女たちの舞台~』に出演するなど国際的に活躍する実力派俳優。ロシア皇帝をドイツ人俳優が演じることへの批判をはねのける好演だ。
また、マチルダ役にはポーランド出身の新進女優ミハリナ・オルシャンスカが大抜擢された。美貌だけでなく、マチルダが持つ芯の強さと野心的な生き方を体現し、ウチーチェリ監督の期待に応えている。
際立つ人物造形だけでなく、大迫力のアクションシーン、エカテリーナ宮殿やマリインスキー劇場などでのロケーション撮影や、絢爛豪華な衣装とセットも必見。ぜひ、劇場の大画面で堪能したい映画だ。鑑賞後は、もしも、ニコライ2世が皇位を捨てマチルダとの愛を貫いていたら、ロシアの、そして世界の歴史はどのような展開になっていたのか…。人生の選択について考えてみるのも面白い。

【取材・文】斉田あきこ

最終更新日
2018-11-30 16:09:00
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シネマクエスト(引用元

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