6歳から芸能事務所に所属し、ティーンモデルやおはガールとして活躍している13歳の“女優”、原菜乃華。映画『はらはらなのか。』では、この原菜乃華を主演に迎え、一人の少女が大人の入り口に立ち成長していく姿を描いている。この作品の監督を務めたのは、25歳の若手、酒井麻衣監督。この作品が商業映画監督デビューとなるという酒井麻衣監督にインタビューを行った。
『はらはらなのか。』とは、少し変わったタイトルですが、タイトルに込められた意味や思いを教えてください。
◼酒井麻衣監督:この作品では、原菜乃華ちゃんが主演女優として原ナノカという役を演じてくれています。なので、「ハラハラしたナノカちゃん」という意味で「はらはらなのか。」というタイトルにしました。実は、このタイトルで注目してほしいのは、句読点の「。」が付いているところなんです。菜乃華ちゃんには今後も、女優さんとして活躍してほしいので、“ハラハラしたナノカ”はもうこれでおしまい、これからは立派な一人の女優、原菜乃華として頑張っていって欲しいという思いでこのタイトルにしました。
監督は商業映画は本作が初めてということですが、『はらはらなのか。』を監督するまでに至った経緯を教えてください。
◼酒井監督:この映画の撮影の1年前に、粟島瑞丸さんの主催する演劇集団Z-Lionが、菜乃華ちゃん主演で「まっ透明なAsoべんきょ〜」という作品を上演されていたんです。この舞台を観たプロデューサーさんが、この舞台の世界観が私の作る映画の世界にあっているのではないかと声をかけてくださったのがきっかけです。ただ、舞台には舞台だからこその良さがあると思っているので、舞台の内容をそのまま映画化するのではなく、“子役”から“女優”へと成長している途中の原菜乃華ちゃんがこの舞台と出会い、女優としてこの舞台に立つまでを描きたいと提案して、このストーリーになりました。
初の商業映画、さらに原案となる舞台があるとなると、プレッシャーは大きかったのではないですか?
◼酒井監督:プレッシャーというのはあまり感じなかったですね。ただ、元の舞台があるのでその世界観を壊すようなことはしたくないと思ったんです。映画と舞台で形は違いますが、その中にある精神面を大切にするように心がけましたね。
粟島さんもご本人役で出演されていますが、脚本などについても相談などされたのでしょうか?
◼酒井監督:そうですね、舞台の脚本から映画用に抜粋する位置だとか、少しセリフを変えたりしないといけない部分もあったので、そのあたりを相談しました。でも、粟島さんはとっても優しくて気前のいい方なので、「酒井さんの好きに変更してくださっていいですよ」とおっしゃってくれました。
劇中ではチャラン・ポ・ランタンの楽曲でミュージカルシーンがあったり、音楽がとても印象的な作品でしたね。
◼酒井監督:私はディズニー映画やティム・バートン監督の映画が大好きで、そんな映画を観て育ったんです。だから私の映画には音楽は欠かせないもので、ミュージカルのようなシーンを入れていきたいと思っています。でも、映画の流れとは別に突然に歌を歌い出すとか、そういう風にはしたくないんですね。劇中の物語に沿った歌にしたいと思っていました。
具体的に、どういうふうに音楽を作っていったのでしょうか。
◼酒井監督:曲作りに関しては、「こういう歌詞にして欲しい」という内容の歌詞の元になるようなものと台本をチャラン・ポ・ランタンに渡して作っていただきました。
メロディも印象的で、鑑賞後も口ずさみたくなりますよね。出来上がった曲をお聞きになってどうでした?
◼酒井監督:本当に予想をはるかに超えた素晴らしい曲でした! 音楽の力でワクワクできるシーンもたくさんあるので、本当にうれしく思っています。
劇中ではナノカの憧れの生徒会長役の吉田凜音ちゃんが、自身が作ったという設定の曲を弾き語りで歌う場面もありますよね。
◼酒井監督:凜音ちゃんの曲は「おとぎ話」というバンドさんに作っていただきました。こちらの曲も同じように曲のイメージをお渡ししたり、ディスカッションをしながら作り上げていきました。
原菜乃華ちゃん、吉田凜音ちゃんというティーン女優さんが出演されていますが、大人の俳優を演出するのと、何か違いや難しさなどはありましたか?
◼酒井監督:難しさというのは特に感じなかったんですけど、自然に演じてほしいというのは気をつけましたね。撮影前に準備日を三日間くらいもらったので、菜乃華ちゃんと撮影前に即興のお芝居で練習したりしました。「大好きなドラマの録画を頼んだのにお母さんが忘れていて、ドラマを見られなかった。そんな時、菜乃華ちゃんだったらどんなふうに怒る?」というふうに、即興で演技をしてもらい、感情がどう体に起き上がるのか、再確認しながら作り上げていきました。
ワークショップのような準備期間があったんですね。
◼酒井監督:実際に撮影に入ると、撮影が進むうちに菜乃華ちゃんの演技がグングンよくなっていったんです。これは本人には伝えてないんですけど、本当に驚きましたね。でもちょっと困ったことがあって、撮影の最後頃に学校のシーンを撮った時、菜乃華ちゃんがうますぎて、教室のシーンなどで彼女だけが浮いてしまって(笑)。クラスメート役の子たちはまだ演技経験が少ない子が多かったので、その調整に戸惑いましたね(笑)。
では、監督ご自身についてお聞かせください。今後、どういう作品を作っていきたいと思っていますか?
◼酒井監督:私の意志はずっと変わらず、ファンタジー要素のある作品を作っていきたいと思っています。ただふわふわしたファンタジックな作品というのではなく、現実と幻想が混じり合ったような、映画を観た後で現実がきらめいて見えるような作品を作っていきたいですね。観てくれる人にちょっとした幸せを感じてもらったり救いを与えられるいうのが映画の力だと思うので、その映画の力を信じて、皆さんに観てもらえる映画を作り上げていきたいと思っています。
『はらはらなのか。』の最後のテロップがとても印象的でした。監督自身にはどんな未来が待っていると思われますか?
◼酒井監督:私自身の未来ですか!? そうですねー、これは目標になるんですけど、格式高い映画ではなくて誰でも親しめるようなエンターテインメント性のあるファンタジックな映画を作っていきたいと思っています。簡単に言うと、より多くの人に届くような、大きい映画館で上映されて、テレビで放映されるような映画を作りたいんです。
日本だけじゃなくて、全世界の人に届くような?
◼酒井監督:そうですね。ジブリ作品のような、毎年夏になると地上波の映画番組で放送されるような、みんなに親しまれて愛される映画を作りたいと思ってます!
体も細く小さく、女優さんのように可愛らしい雰囲気を持った酒井監督。しかし夢はとても大きく、国民的監督になりたいと語る酒井監督の笑顔からは、まっすぐな自信と未来に抱く大きな希望が感じられた。この笑顔で軽やかに夢を叶えていくのだろうなと感じさせてくれる、思わず応援したくなる雰囲気を持った酒井麻衣監督。これからの作品にも注目していきたい。
【取材・文:松村知恵美】