2017年1月21日公開の映画『沈黙-サイレンス-』に出演している塚本晋也が、長崎県にある日本二十六聖人記念館で記者会見を開いた。塚本は同作品で長崎の外海地区がモデルとなったトモギ村の敬虔なカトリック信徒・モキチを演じている。
上写真:繫延あづさ
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黒い装いで登場した塚本は、テレビ、新聞、雑誌など、長崎のメディアが多数集まった会見場で「(マスコミの数が)凄いですね」と驚いた様子。「2009年に役が決まった時、少しでも『沈黙』の世界に近づきたい、舞台となるトモギ村を見てイメージを固めたいと思い、外海や遠藤周作文学館を周りました。今回、映画が完成間近となった2度目の長崎では、遠藤周作さんが足を運ばれた場所を訪れて、さらに見識を深める旅をしたい」と挨拶した。
塚本は『タクシードライバー』を観て以来、今作で監督を務めたマーティン・スコセッシのファン。今作では、テレビドラマで英語を話す役を演じていたことでオーディション参加を打診され、即答で「もちろん」と答えたのが始まりとなった。遠藤周作の原作は、「高校時代に『野火』も含め日本文学を読みまくったのですが、あろうことか『沈黙』は読んでいませんでした。すぐに書店に行き読んだ。様々な側面のある非常に興味深い小説で、今まで気づかなかったのがかなり恥ずかしいと思った」と述べた。
敬愛するスコセッシ監督とのオーディションでは、「監督と台詞の掛け合いをする機会がありました。監督はもの凄く演技が上手で、自分も名優になったように感じた。それはまるでジャズのセッションのようで、この経験があれば受かっていなくてもいいと思えたくらいだった」と振り返る。巨匠との現場では、「あまり演技指導はしないんです。その代わり、何度も何度も撮る。5回・6回なんてレベルではなく、カットによっては100回くらい。それがもうビックリでしたね。ただ、役者をすごく信用していて、すべて委ねるんです。極端に言うと『好きにしていいよ』と。役者が出したものを最終的に監督が汲み取って、映画の血肉にしていく」と、その演出術に驚いたという。
「自分にとってこの作品は?」と問われた塚本は次のように熱く語った。
「殉教シーンの撮影で、万が一、死んでしまってもまあいいか、と思えるほどの映画。それほどの思いで取り組んだ。答えるのは難しいですが、一言で言うと最高の映画です」
演じたモキチの役作りについて、「自分のキャラに近いのはキチジローですが、敬虔な信徒であるモキチを演じるに際しては、自分が信じるスコセッシをスコセッシ教として崇める気持ちと、戦争がまた起こってしまうかもしれない現在に、未来の子供たちに祈りを捧げる気持ち。この2つを心に持って」挑んだという。さらに「モキチ役では50kgを切るまで痩せなくてはならなく、栄養士がついていたものの、かなりギリギリまで痩せて辛かったです。立ち上がるのも、何かをつかまなくてはならない感じだった」と、精神面だけではなく、肉体面でも過酷な役作りだったことも明かした。
最後に、2018年の世界文化遺産登録に推薦されている「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」に対して思いを語り、会見を締めくくった。
「まさに隠れキリシタンが生きた場所。遠藤周作さんの小説では、隠れキリシタンのことを“弱者”、殉教した方を“強者”、棄教してしまうもう一つの“弱者”を描いています。考えさせられるのは、何が強くて、何が弱いのか、読んでいてそれがわからなくなるんです。殉教とは、自分がとやかく言えることではなく、その当時、その時を生きた方々の尊厳があったのだと思います。では隠れの方が弱いのかというと、僕には弱いと思えない。信念を曲げずに、隠れてでも信仰を守ろうとした方々で、自分の考え方に近い。そんな方々が生きた場所は、とても綺麗で美しい場所。だからこそ、世界遺産に指名されたことは素晴らしいことだと思います」