1月16日公開の映画『バーバリアンズ セルビアの若きまなざし』から、イヴァン・イキッチ監督のオフィシャルインタビューが到着した。
今作は、経済的に低迷し、混沌とした空気が蔓延する現代のセルビアで生きる若者の姿を描いた作品。コソボ紛争中のセルビアで多感な時期を過ごしたイキッチ監督は、「自分たちのような“忘れられた世代”の憤りを描きたい」と脚本を執筆。キャストには現地の不良をそのまま起用し、台本を渡さずに演じさせるという演出でドキュメンタリーのようなリアリティを生み出した。
巨匠エミール・クストリッツァに続く新世代のセルビア人監督が、長編映画デビュー作に込めた思いとは? 撮影秘話とともに語る。
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この映画を撮るきっかけは?
まず、社会の組織に属せない人間について長い間考えていた。例えば、自分自身の理想に反した人間になること、また、そういった人はどのような社会で形成されるのか。そして社会のシステムに組み込まれた人がどう変わっていくか、逆に何があっても変わらないところはあるのか。映画を通してこういった疑問を解消したかった。
最初に脚本を書き始めて登場人物を決めるにあたって、まずは社会からつまはじきにされている不良少年のプライベートな問題やストーリーを映画の中で表現することにしたんだ。これらの全てのきっかけやストーリーを映画にするために、2年間の準備期間が必要だったね。
脚本自体を書くのには1年ちょっと、脚本を書き終えて映画を完成させて公開に至るまでに4年間。脚本を書き終えてから撮影に必要な予算を集めるには1年ぐらい。
なぜ不良少年たちにスポット当てたのですか?
セルビアの社会では、一生懸命働けば何かを得られるということは経験上あり得ない。例え一生懸命働いたとしても、結局は意味がないんだ。ベルリンの壁崩壊後、東欧の多くの国において、資本主義はたくさんのシステムを犠牲にしてきた。映画に登場する街でも、この10年間で全ての工場が廃業に追いやられた。なので、基本的に仕事が本当にないんだ。荒れ果てた砂漠に置き去りにされた状態さ。
働く機会に恵まれない彼らのような若者は、学校に行っても意味がない。セルビアの社会は残酷なんだ。映画の中で少年たちはまともに働くよりも携帯電話や武器などを売った方がお金になることに気付く。それはそれでロジカルだよね。
何も持っていない10代の少年たちにとっては、すごく大変な状況だと思う。だから僕はそのチャンスに恵まれない若者の現実を描きたかったんだ。
素人の役者を起用しようとした理由は?
若者ならではの行き場のない感情を描きたかったから、役者ではなく同じ怒りを抱えた素人を起用した方がよりリアルだと思った。この映画の方向性を考え始めたときから、ベースとしてそう考えていたよ。僕はもともとドキュメンタリー出身だから、ドキュメンタリーとフィクションを掛け合わせたかったし、それは今回のような作品にはぴったりだったんだ。彼らは独自のエネルギーと真実を運んでくれるんだ。お陰で最終的にとてもリアリティのあるタッチに仕上がったよ。
素人の役者を起用して苦労したエピソードは?
最初から、予測不可の問題続きさ。演技だけじゃなくて、犯罪絡みの苦い思い出もあるよ。メインキャラクターの一人は武器の所持で捕まって、撮影中6ヶ月間も拘置所にいたから、僕たちは彼が出てくるのを待たなくちゃいけなかったんだ。他にも、映画に出るはずだった子が、窃盗で捕まって戻って来られず、作品に出演できなかったりね。
あとは黒人選手役で出るはずだった少年が突然ガーナに帰ってしまって、人を入れ替えなきゃいけなくなってしまったり。フラッシュも撮影前夜にバイク事故を起こして、顔面から地面に直撃。手術して完治するまでに1ヶ月かかった。本当に最初から予期せぬこと続きだったね。終わってみると笑えるエピソードだけどね。
不安を抱えアイデンティティに悩む若者へ、監督からのメッセージを。
若い時は誰もが理想を掲げ、それを表現したいと思っている。どのような環境の中にいたとしても、不安に打ち負かされないように地に脚をつけて戦わなければいけない。そうしないと、自分がどうなりたいか見失ってしまうからね。社会は君たちを揺さぶり、常にたくさんの問いを投げかけるけど、その答えを出すのが人生なんじゃないかな。