『帰ってきたヒトラー』(15)でヒトラー役を演じたオリヴァー・マスッチが主演を務め、木村拓哉が出演し話題になった海外ドラマ『THE SWARM』(23)のフィリップ・シュテルツェル監督の最新作『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』が 7 月 21 日(金)よりシネマート新宿他全国順次公開する。
本作の原案は文豪シュテファン・ツヴァイクの傑作小説「チェスの話」。ナチス占領下のオーストリアを舞台に、ヒトラーの命令でホテルに監禁された男が、1冊のチェス本を武器にナチスとの心理戦に挑む驚愕のサスペンス映画。
このたび解禁された本編映像は、ナチスがオーストリアに進駐する直前のウィーン市街の様子を克明に描いたワンシーン。ウィーンで公証人を務める主人公ヨーゼフと彼の妻アンナの乗る車が、ドイツ軍を支持する市民で埋め尽くされた街をゆっくりと進んでいる。不安そうに車窓を見つめるアンナは「今日は多いわね、正気を失ってるみたい」と呟く。だがヨーゼフは「日曜にも騒ぎは終わる」とあまり深刻に受け止めていない様子で、「未来が見えるの?」と尋ねるアンナに「新聞のおかげさ」と吞気に答える。
しかし外を歩く市民たちの声は興奮を増していき、やがて“資産家を倒せ”、“ユダヤ人を追い出せ”といった旗を掲げた群衆に取り囲まれ、車は立ち往生してしまう。彼らは皆一様に腕章を身に着け、「ハイル・ヒトラー」とナチス式の敬礼を見せる者さえおり、辺りは異様な空気に包まれている。「新聞どおりだといいけど」と心配するアンナをよそにヨーゼフは「じき終わる」と現実から目を逸らすのだった。
この衝撃的な映像は、およそ 180 人のエキストラが参加し、実際のウィーン市庁舎の真裏で撮影された、本作のなかでも最も大規模なシーンである。本作のプロデューサーであるトビアス・ウォーカーは「人前でナチスのシンボルを見せることは法律的な面でも複雑で、ウィーン市警察本部長の特別許可が必要だったんだ。180人が行進し、当時の歌を歌い、「ハイル・ヒトラー」と叫んだ時には、悪寒が背筋を走ったよ。もちろん、その一方で本作にとっては素晴らしいものだった。本物さながらだったからね」と撮影を振り返った。
アンナを演じたビルギット・ミニヒマイアーは「辺り一面がナチスの旗や制服だらけで、恥ずかしく、恐ろしかった。人前であの撮影をするのはあまり楽しくなかったと言うしかないわ。最初から最後までとても緊張したの」と複雑な心境を明かしている。
原案「チェスの話」の著者シュテファン・ツヴァイクは、祖国オーストリアがナチスの侵攻によって崩壊していく様を憂いてこの原稿を書き上げた。そうした背景を持つ本作は、フィクションでありながらも、当時の情勢を残酷なリアリティーを伴って描き出している特異なサスペンス映画と言えるだろう。
スリルに満ちた展開から目を離せない、観る者の心をかき乱すヒューマン・サスペンス――文豪ツヴァイク最期の傑作『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』は 7 月 21 日(金)よりシネマート新宿他全国順次ロードショー。
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提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ