旅の重さ 作品情報

たびのおもさ

「ママ、びっくりしないで、泣かないで、落着いてね。そう、わたしは旅に出たの。ただの家出じやないの、旅に出たのよ……」。十六歳の少女が、貧しい絵かきで男出入りの多い母と女ふたりの家庭や、学校生活が憂うつになり、家を飛び出した。四国遍路の白装束で四国をぐるりと廻って太平洋へ向う。宇和島で痴漢に出会い、奇妙なことにご飯をおごってもらう。少女は生まれて初めて、自然の中で太陽と土と水に溶けていく自分を満喫した。足摺岬の近くで、旅芸人・松田国太郎一座と出会い、一座に加えてもらった。少女は一座の政子と仲良くなり、二人でパンツひとつになり海に飛び込んだりして遊ぶ。一座には他に、色男役の吉蔵、竜次、光子など少女にとっては初めて知り合った人生経験豊かな人間たちである。やがて、少女は、政子に別れを告げると、政子が不意に少女の乳房を愛撫しだした。初めて経験するレスビアン。政子は、少女の一人旅の心細さを思って慰さめてやるのだった。ふたたび少女は旅をつづける。数日後、風邪をこじらせ道端に倒れてしまった。が、四十すぎの魚の行商人・木村に助けられた。木村の家に厄介になり、身体が回復するとともに少女の心には木村に対して、ほのかな思いが芽生えてきた。ある日、木村が博打で警察に放り込まれた。やがて木村が釈放された夜、少女は彼に接吻したが、木村は少女の体まで求めようとはしなかった。少女はみじめな思いで家を飛びだし、泣きながら道を走り、転び、倒れたまま号泣するのだった。思い直して家へ戻る途中、近所の娘加代が自殺したのを知った。「私には加代が自殺した原因がわかるような気がする。私もこの旅に出なければ自殺したかも知れない……」。加代が火葬された日、少女は木村の家へ戻り、夜、静かに抱かれた。不思議な安息感があった。次の日より、少女と木村の夫婦生活が始まった。そして、少女も夫といっしょに行商に出るようになった。「……ママこの生活に私は満足しているの。この生活こそ私の理想だと思っているの。この生活には何はともあれ愛があり、孤独があり、詩があるのよ」。

「旅の重さ」の解説

母親との生活に疲れ、四国遍歴の旅に出た十六歳の少女の数奇な体験と、冒険をオール・ロケで詩情豊かに描く。原作は、覆面作家として話題をよんだ素九鬼子の同名小説の映画化。脚本は「約束」の石森史郎監督も同作の斎藤耕一、撮影も同作の坂本典隆。

公開日・キャスト、その他基本情報

公開日 1972年10月28日
キャスト 監督斎藤耕一
原作素九鬼子
出演高橋洋子 岸田今日子 富山真沙子 田中筆子 新村礼子 森塚敏 山本紀彦 谷よしの 三谷昇 三國連太郎 横山リエ 中川加奈 園田健二 砂塚秀夫 高畑喜三 小野寺久美子 大塚国夫 高橋悦史
配給 松竹
制作国 日本(1972)
上映時間 90分

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ユーザーレビュー

総合評価:5点★★★★★、1件の投稿があります。

P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2023-12-22

日本のクロード・ルルーシュこと、映像叙情派の斎藤耕一監督の「旅の重さ」は、当時、覆面作家などと言われ話題を呼んでいた、素九鬼子の同名小説を映画化した作品で、主演の高橋洋子の初々しい演技が素晴らしいですね。

貧しい絵描きで男出入りの多い母親(岸田今日子)や、学校生活が嫌で家を飛び出した16歳の少女(高橋洋子)が、四国遍路の一人旅に出る。

旅の出来事が、スケッチ風な美しい映像で展開していき、ところどころに、母親に送る手紙のような、少女の瑞々しいモノローグが入り、真っ青な夏の空に吸い込まれていく。

結局、少女は中年の行商人(高橋悦史)と夫婦生活に入る。

吉田拓郎の「今日までそして明日から」が流れる中、まだ初々しい高橋洋子が、山間の田園を歩く姿が、名手・坂本典隆の流麗なカメラワークによる美しい撮影で捉えられていて、新鮮で瑞々しい感動を与えてくれますね。

身体も心も大人に移りつつある少女の不均衡な精神と、その反面にある女としての本性が見事に描かれた作品だと思います。

最終更新日:2024-01-01 16:00:01

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