P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2025-04-17
この「祭りの準備」は、脚本家・中島丈博の自伝的シナリオを、黒木和雄が監督した、青春映画の傑作だ。
高知県の地方都市の信用金庫に勤める楯男(江藤潤)は、父親と別居する母親に溺愛され、左翼のオルグに夢中な涼子(竹下景子)に片思いをしながら、東京に出て、シナリオを書こうと悶々とした日々を送っていた。
父親は、あちこちに愛人を作って、家には帰らず、暴れん坊のトシちゃん(原田芳雄)は、服役中の兄の代わりに兄嫁と寝るのだった。
発狂して、大阪から帰って来たトシちゃんの妹のタマミは、みんなのセックスの捌け口となり、彼女が妊娠すると、楯男の祖父は、自分の子だと言って、一緒に暮らすのだった。
このように、地方の濃密な人間関係に包まれた、うだるような日常が描かれていく。
やがて、浜辺に掛かった赤い布が、嵐の到来を告げ、歯車が狂ってくる。
タマミは、子供を産むと狂気に戻り、捨てられた祖父は首を吊る。
男に捨てられた涼子は、楯男をセックスに誘い、トシちゃんは、はずみで殺人を犯してしまう。
今まで眺めていただけの楯男が、今度は自分で祭りを始める番だ。
逃亡中のトシちゃんが、駅のホームの端で「バンザーイ」と両手を挙げて、上京する楯男を見送るラストは、日本映画史に残る名シーンだと思う。