Wの悲劇 作品情報
だぶりゅーのひげき
劇団「海」の研究生・三田静香は、女優としての幅を広げるため、先輩の五代淳と一晩過ごした。翌朝彼女は、不動産屋に勤める森口昭夫という青年と知り合う。「海」の次回作公演が、本格的なミステリーに加え、女性であるがゆえの悲劇を描いた『Wの悲劇』と決定した。キャストに、羽鳥翔、五代淳と劇団の二枚看板を揃え、演出は鬼才で知られる安部幸雄である。そして、事件全体の鍵を握る女子大生・和辻摩子役は、劇団の研究生の中からオーディションによって選ぶことになった。オーディション当日、静香の親友・宮下君子は、芝居の最中に流産しかかり病院にかつぎ込まれた。子供を産むと決心した彼女を見て、静香は自分の生き方は違うと思う。摩子役は、菊地かおりに決定した。静香には、セリフが一言しかない女中役と、プロンプターの役割が与えられた。意気消沈して帰宅した彼女のもとに花束を抱えて昭夫がやって来た。静香がオーディションに受かるものと信じて祝福に来たのだ。彼の楽観さにヒステリーを起こす静香だったが、結局、二人は飲みに行き、その晩、静香は昭夫の部屋に泊まった。翌朝から、彼女は気分を切り変え、全員の台詞を頭に入れ、かおりの稽古を手伝うなど積極的に動く。一方、昭夫はある空家に静香を連れてくると、ここで一緒に住もう、結婚しようと申し込むが、静香は女優への夢を捨てる気になれなかった。大阪公演の初日の幕があがった。舞台がはねた後、誰もいない舞台で摩子を演じている静香を見た翔は、声をかけ小遣いを渡す。彼女にも静香と同じ時期があったのだ。その夜、お礼に翔の部屋を訪ねた静香は、ショッキングな事件に巻きこまれる。翔の十数年来のパトロン・堂原良造が、彼女の部屋で突然死んでしまったというのである。このスキャンダルで自分の女優生命も終わりかと絶望的になっていた翔は、静香に自分の身代りになってくれ、もし引き受けてくれたら摩子の役をあげると言い出す。最初は首を横に振っていた静香だったが、「舞台に立ちたくないの!」という一言で、引き受けてしまった。執拗なマスコミの追求も、静香はパトロンを失った劇団研究生という役を演じて乗り切った。翔は、かおりとの芝居の呼吸が合わない、と強引に彼女を降ろし、東京公演から静香に摩子役を与えた。静香の前に、事件のことを知った昭夫が現われた。「説明しろ」と詰めよる彼に静香は一言もなかった。東京公演。舞台袖で震えていた静香に、翔の叱咤が飛ぶ。静香の初舞台は、大成功をおさめた。幕が降りた後も鳴りやまぬ拍手と、何度も繰り返されるカーテン・コールが女優誕生を祝していた。客席の最後列では、精一杯拍手を送る昭夫の姿もあった。劇場を出た静香は、レポーターに囲まれるが、昭夫の姿を見つけ駆けよろうとする。そこに、事件の真相を知ったかおりがナイフを手に現われ、静香めがけて飛びこんできた。静香をかばい刺された昭夫は、救急車で運ばれた。数日後、引越しをするためアパートを出た静香は、昭夫に連れられてきた空家に立ち寄る。そこには、空家を他の契約者に譲った昭夫がいた。もう一度二人でやり直そうという彼に、静香は、そうしたいけど今のボロボロの私が、昭夫に甘えてもっと駄目になってしまうと言う。そして、芝居を続け、ちゃんと自分の人生を生きていくために一人でやり直すからと、涙をこぼしながら微笑んで去って行った。昭夫はその背中に大きな拍手を送るのだった。
「Wの悲劇」の解説
女優をめざす若い劇団の研究生が、ある事件に巻き込まれて主役を演じ、本当の女優になっていく姿を描く。夏樹静子原作の同名小説を、本篇の中の舞台劇におりこみ、「湯殿山麓呪い村」の荒井晴彦と「野菊の墓」の澤井信一郎が共同で脚本を執筆。監督は澤井信一郎、撮影は「愛情物語」の仙元誠三がそれぞれ担当。
公開日・キャスト、その他基本情報
公開日 | 1984年12月15日 |
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キャスト |
監督:澤井信一郎
原作:夏樹静子 出演:薬師丸ひろ子 世良公則 高木美保 志方亜紀子 清水紘治 南美江 草薙幸二郎 堀越大史 西田健 香野百合子 日野道夫 野中マリ子 仲谷昇 梨元勝 福岡翼 須藤甚一郎 藤田恵子 蜷川幸雄 三田村邦彦 三田佳子 |
配給 | 東映 |
制作国 | 日本(1984) |
上映時間 | 108分 |
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ユーザーレビュー
総合評価:5点★★★★★、1件の投稿があります。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-02-20
日本映画でこれほど理詰めに展開される作品も珍しいと思います。
夏樹静子さんの原作による劇中劇の登場人物にしろ、全ての人物やセリフがクロスワード・パズルのヒントのように、見事に配置されていて、映画が終わってパズルが完成されてみると、薬師丸ひろ子の女優開眼という全体図が、クッキリと浮かび上がってくるという寸法なんですね。
実際、この映画を見ていると、ドラマを楽しむことより、薬師丸ひろ子が現実の等身大の彼女から、女優という一オクターブ上がった存在へと変身するさまを見ることのほうが、よりスリリングですね。
そして、薬師丸ひろ子に背伸びをさせ、追い詰め、選択をさせ、ジャンプさせる脚本が、実にうまいと思います。
彼女を泳がせていると見せかけて、巧みに彼女を操っている澤井信一郎監督の演出も、実に見事だと思いますね。