風の歌を聴け 作品情報
かぜのうたをきけ
ドリーム号で神戸までと言うと、受付の男は怪訝そうな顔をした。今、東京から神戸まで行くバスはない。十年前の夏休み二十一歳の“僕”は神戸、三の宮駅前をドリーム号から降りた。僕は昔馴染みの「ジェイズ・バー」に入って行くと、ジェイは「お帰り、友だちが待ってるよ」と言う。指さす方を向くと「春休みからずっと待っていたんだ」と酔った“鼠”がフラついた足どりでカウンターにやってきた。ビールを飲んで再会を祝う二人。僕と鼠の出会いは、二人が鼠の運転する車に乗っていて横転したときだ。怪我一ツなかったツキを大切にしようと二人はコンビを組んだ。鼠の家は大金持ちで、彼は今、大学を退学している。数日後、僕はジェイズ・バーで飲み過ぎて倒れている女を家まで送って行った。翌朝、女は同じ部屋にいる僕に「酔った女に手を出すなんて最低」と言う。「何もしていない」との僕の言葉をてんで信じない。僕に放送局から電話が入った。DJが言うには“ビーチ・ボーイズ”の「カリフォルニア・ガールズ」を僕にプレゼントのリクエストした女の子がいると言う。高校時代、クラスメイトにそのレコードを借りて返していないことを思い出した僕はレコード店に入った。その店にあの女がいた。女と僕は次第に打ちとけていく。僕はかつて三人の女と寝たことがあり、その場面を思い出した。女には小指がなく、それが双子の姉と唯一の区別になっていると言う。父を憎み、金持ちを嫌う鼠は、8ミリ映画を作っている。夏休みが終りに近づく頃、鼠の様子に変化が現れてきた。ジェイは「みんな帰る所があるけど、鼠にはそんな場所がないんだ」と言う。夏の終り、それは僕には青春の終りのような予感がする。その秋、鼠から「土掘り」を描いた8ミリが送られてきた。十年後の今、僕はジェィの店に行くが、そこは誰もいない廃虚となっていた。
「風の歌を聴け」の解説
夏休みに、生まれ故郷の海辺の街に帰省した主人公の大学生と、馴染みのバーでの旧友との再会や、女の子との出会いを描く。七十九年度『群像』新人文学賞を受賞した村上春樹の同名の小説の映画化で脚本・監督は「ヒポクラテスたち」の大森一樹、撮影は渡辺健治がそれぞれ担当。
公開日・キャスト、その他基本情報
公開日 | 1981年12月19日 |
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キャスト |
監督:大森一樹
原作:村上春樹 出演:小林薫 真行寺君枝 巻上公一 坂田明 蕭淑美 室井滋 広瀬昌助 狩場勉 古尾谷雅人 西塚肇 黒木和雄 |
配給 | ATG |
制作国 | 日本(1981) |
上映時間 | 100分 |
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ユーザーレビュー
総合評価:5点★★★★★、3件の投稿があります。
P.N.「有り難う、大森一樹監督への追悼に変えて」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2022-11-22
十数年前にゆかりの場所にある映画館で鑑賞して、その存在を知り、くしくも、追悼と言う形での二度目の鑑賞となりました。
気がつくと、あれ以来、映画へのスイッチが入り、多くて週に四・五本鑑賞するまでの映画好き。
しかも、不思議な事に、ゆかりの場所を知らず知らず訪れていた。
鼠のホールと言う映画も、正に、この作品自体を象徴し、様々な技法で、表現の掘り起こし、自らを掘り下げて、大切なのは、自分の足下である事を伝える。
小林薫さんの初々しい感じと女優さんとのからみ、独特の世界観が良いですね。
例えるなら、多くの俳優陣を出世させた『阪急電車』並みの出世作品とも言える。
アゲ映画、アゲ監督。
映画と言う夢の世界、三宮もあの時代のように、景観が蘇り、この作品も、現代の方が、理解されるのではと感じる。
すべては変化し、変化したと思っても、あの懐かしい雰囲気で蘇る世界もある。
すべてが夢、人生は、ドリーム、クールな主人公のように、覚めた目で鑑賞する者が、正に、私たち主人公。
ドリームを有り難う、大森一樹監督への追悼に変えて。