大いなる遺産(1946) 作品情報
おおいなるいさん
一八一七年の冬、テムズ河口に近い沼地で、ピップ少年は続けさまに父と母とを失い、姉とその夫ジョー・ガージェリイに養われていた。ある夕、ピップは程近い墓に詣でたところ、恐しい脱獄囚に捕えられ、翌早朝、食物を持って来いと、脅かし半分に頼まれた。ピップはその約束を果したが、脱獄囚は密告者と争っている時に追手の兵隊に捕えられた。ピップはジョーと共に逮捕される所を見たが、その囚人は彼に感謝している様子であった。その後、ピップは近くの大邸宅に住んでいる狂女といううわさのあるハヴィシャム嬢から遊び相手として呼ばれた。そこには彼と同年の養女エステラという美少女がいて、彼を案内した。誇り高く彼を見下していることは分ったが、少年ながら一目見てピップは彼女に心ひかれた。ハヴィシャム嬢はカーテンを下した真暗な客間の中に、ローソクをつけてすわっていた。あたりは白いほこりが一ぱい積り、くもの巣が張っていた。毎週一回、彼はエステラを見るのが楽しみで通ったが、満十四歳の誕生日が来て、この訪問を止めなければならなかった。鍛冶屋の弟子として働かなければならなくなったからである。かくて六年が過ぎ、ピップが二十歳になった時、ロンドンからジャガースという弁護士が訪ねて来て、彼が大きな財産の相続人に指定されたこと、ロンドンに出て紳士となると、贈り主はだれであるか将来その人自身現われるまで問わぬこと、ピップという名を絶対に変えぬこと等を告げた。ピップは承諾し、ロンドンへ赴き、ハーバート・ポケットという青年と同宿した。彼には六年前、ハヴィシャム嬢の邸で会ったことを想い出し、奇遇を喜んだ。ピップは有り余る生活費を支給され、紳士修業を残らずしたが、精神的に紳士となるには至らず、成り上り者気質を捨て切れない自分自身を認めないわけにはゆかなかった。そのころ、フランスで教育を受けたエステラがロンドンに現われ、彼女に再会したピップの思慕の情はあらためて燃え上ったが、エステラは名のある男を片端から征服するのだというのだった。その一夜、片眼に黒い布をした老人が訪れて来た。マグウィッチというのが老人の名であった。それは少年の日、彼が食物を与えた脱獄囚であった。彼こそが、ピップを相続人に指定し紳士にした慈善家であった。彼はオーストラリアで、羊で大もうけをしたのであるが、英国に帰ればお尋ね者の身の上であった。彼がピップとの再会を喜んだのも束の間、例の密告者が彼の帰国をかぎつけたので、ピップはハーバートの助けで、マグウィッチをライムハウスに身を隠させた。彼は、マグウィッチの亡命に同伴しようと決心し、ハヴィシャム嬢を訪れると、エステラも来ていて、ドランムルという紳士と結婚するというのだった。別れ去ろうとした時、ハヴィシャム嬢のすそに、だん炉の火がついて、彼女は無惨にも焼け死んでしまった。好機を見てピップはマグウィッチをボートに乗せ、英仏連絡船を待ったが、密告者が警察ボートで現われた。マグウィッチは、密告者と河中に格闘し、密告者は連絡船の外輪に巻込まれて死んだ。マグウィッチは絞首刑を宣告されたが、病気となり苦しんでいた。ピップが訪れ、彼が幼い時に別れた娘が美しく成人していること、その娘を自分が愛していることを告げると、マグウィッチは満足して息を引取った。心身の疲労で、ピップは熱病を患い、故郷のジョーの許で介抱され、意識を回復したのは丁度一カ月後であった。ピップが例の邸を訪れると、暗い客間にエステラが一人すわっていた。ドランムルが結婚を拒絶したので、義母と同じ心境に陥ったのであるが、ピップが彼女を愛し続けている気持に変りはなかった。ピップは窓を覆うカーテンを引裂くと、部屋中に陽光が満ち溢れ、その中でエステラを胸に抱くのであった。
「大いなる遺産(1946)」の解説
「逢びき」に次いでデイヴィッド・リーンが監督したシネギルド作品で、チャールズ・ディケンズの小説を、監督リーン、製作者ロナルド・ニーム及びアンソニー・ハヴェロック・アラン、ケイ・ウォルシュ、セシル・マッギヴァンが協力脚色した。キャメラはガイ・グリーンが監督し、音楽はウォルター・ゴーアが作編曲し彼自ら指揮してナショナル・シンフォニー・オーケストラが演奏している。主演者は「ウォタルー街」のジョン・ミルズ、「フランケンシュタインの花嫁」のヴァレリー・ホブソンで、それぞれの幼年時代をアンソニー・ウェイジャーと「ハムレット(1947)」のジーン・シモンズが勤め、バーナード・マイルス、フランシス・L・サリヴァン、「渦巻」のフィンレイ・カリー、「妖婦」のマーティタ・ハント、「ヘンリー五世(1945)」のフリーダ・ジャクソン等が共演している。
公開日・キャスト、その他基本情報
キャスト |
監督:デイヴィッド・リーン
原作:チャールズ・ディケンズ 出演:ジョン・ミルズ ヴァレリー・ホブソン バーナード・マイルス フランシス・L・サリヴァン フィンレイ・カリー マーティタ・ハント アンソニー・ウェイジャー ジーン・シモンズ アレック・ギネス アイヴァ・バーナード フリーダ・ジャクソン トリン・サッチャー Eileen Erskine ヘイ・ピートリー George Hayes |
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制作国 | イギリス(1946) |
上映時間 | 113分 |
ユーザーレビュー
総合評価:5点★★★★★、1件の投稿があります。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-07-01
貧しい孤児のピップ少年は、ある時、追われている脱獄囚に食べ物を与えた。
この、ささやかな発端から、波乱万丈の大河物語は始まる。
この複雑に人物が交錯し合う、豊饒な物語を短く要約することは不可能だ。
ここには夢と誠実な魂があり、運命があり、そして愛がある。
チャールズ・ディケンズの原作の精神を損なわず、映画のテンポを維持することに成功した、デイヴィッド・リーン監督の演出手腕に脱帽だ。