P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★☆
- 投稿日
- 2024-06-02
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
この1940年製作の映画「北西への道」は、1750年頃、まだアメリカが独立以前のイギリス植民地時代の東部の話で、植民地争奪戦争の敵方としてのフランス軍がインディアンをそそのかして、イギリス人植民者の農家を襲わせ、虐殺、略奪、婦女誘拐などをやらせていた。
これに対して、イギリス軍のロジャース少佐(スペンサー・トレイシー)の率いるロジャース挺身隊が、野越え山越え、川と森を越えて、すさまじい困難に打ち勝って、森の奥のインディアン集落を襲撃し、これを皆殺しにする。
しかし、帰路は予定していた食糧が得られないために、さらに難行軍になり、多くは飢え、ごく一部の隊員だけが生還する。
この映画は、そんな物語なんですね。
この映画は、戦争の残酷さと非人道性を真っ向から容赦なく描き出した、最初の映画ではないかと思う。
夜明けの静けさの中で、突如、展開されるインディアン集落への奇襲攻撃は、文字通り情け無用の皆殺し戦なのだ。
どんな種類の映画にも、人道的な配慮を怠ることのなかった当時のアメリカ映画としては、異例の残酷描写で、衝撃的だったんですね。
1960年代以後、アメリカにおいて少数民族問題が反省的に見直されるようになって以後、西部劇でも実はインディアンとの戦いは多くの場合、侵略的な皆殺し戦だったのだということが描かれるようになったのだが、それまではこんな描写はなかったのだ。 しかし、ではこの映画はインディアン皆殺しを反省する最初の映画だったかと言えば、そうではないと思う。 ここに描かれているインディアンたちは、白人を襲って頭の皮をはぐ獰猛な連中であり、彼らを皆殺しにしない限り、白人の植民者は安心して暮らすことはできないというふうに描かれているんですね。 そのためには、挺身隊の猛者たちも、ほとんど全滅に近い苦難を経験するのであって、殺すか殺されるかなんですね。 この作品が映画として優れているのは、まさにこの、敵に対して寛大である余裕など感じられなくなるところまで、殺すか殺されるかの切羽詰まった感覚を、肉体的な疲労感まで含めて表現し得ているところにあると思う。
だから、この映画は、勇者たちのヒロイズムを賛美する結末になっていたにもかかわらず、ヒロイズムには酔えない映画であるし、人道主義など吹っ飛んでしまうところまで、戦争の悲惨さを突き詰めていながら、なおかつ戦うべしと言い切っている好戦的な映画なのだと思う。 だから、その印象は、苦くて複雑で重かった。 この映画が製作された1940年は、時まさに第二次世界大戦の初期であり、アメリカが自由主義陣営リーダーとして、日本の挑戦を受けて立って戦争に突入することになる前年のことなんですね。 だから、この映画は、戦意高揚が狙いではないまでも、明らかにアメリカ人の不屈の闘志を称えることを目的としたものだが、しかし、戦争は常に"人間性の破壊"をもたらすということを、キング・ヴィダー監督は見失うことはなかったように思われます。