日時:1月21日(木)
場所:スペース FS 汐留
登壇者 :役所広司、仲野太賀、長澤まさみ、西川美和監督 MC:伊藤さとり
実在した男をモデルに「社会」と「人間」の今をえぐる問題作『すばらしき世界』(2 月 11 日公開)のプレミア上映イベントが 1月 21 日、東京のスペース FS 汐留で行われ、主演の役所広司、共演の仲野太賀、長澤まさみ、そして西川美和監督が出席した。
映画『復讐するは我にあり』で知られるノンフィクション作家・佐木隆三による伊藤整文学賞受賞のルポ「身分帳」を現代に置き換えて映画化。下町の片隅で暮らす男・三上(役所)は、実は人生の大半を刑務所で過ごした元殺人犯だった。そんな三上に若きテレビマンの津乃田(仲野)がすり寄ってくる。実在の人物をモデルとした主人公・三上の数奇な人生を通して、人間の愛おしさや痛々しさ、社会の光と影をあぶり出す。
西川組に参加したかったという役所は「こういった題材で企画が通るのは、西川さんのこれまでの実績の賜物。脚本を読む前から参加したかった」と明かし「西川監督は写真よりも美人。脚本を読んだら裸のシーンが多かったので、身も心も裸にされるのかと緊張しました」とニヤリ。西川監督の演出については「スタッフに意見を言わせる雰囲気を作るのが上手い方。みんなでシーンやキャラクターについて考えるような組でした。その空気作りは監督として素晴らしい才能だと思う」とチームワークを大切にするスタイルを絶賛していた。当の西川監督は役所の起用に「10 代の頃からの憧れの役所広司さんとご一緒できて幸せでした」と喜色満面だった。
学生時代に西川監督の映画『ゆれる』に衝撃を受けたという仲野は「役所さんや長澤さんを含めた日本のトップランナーの方々と作品を作れる環境は毎日が幸せでした。俳優として 15 年経ちましたが、一生懸命仕事を続けてきて良かったと思えるくらい、かけがえのない時間でした」とシミジミ。長澤は「演じたキャラクターが、わりとドライで鋭い役柄だったので、緊張に負けないようにしようと思ったら、余計に緊張しました」と苦笑いも「撮影の合間に役所さんと仲野さんと 3 人で話すことができて楽しかった記憶があります。そんな待ち時間も楽しかったです」と撮影を振り返る。
本作は第 56 回シカゴ国際映画祭で役所がインターナショナルコンペティション部門にてベストパフォーマンス賞、作品が観客賞を受賞した。壇上ではシカゴから届いたばかりの受賞トロフィーと盾をお披露目。ベストパフォーマンス賞を受賞した役所はトロフィーを手に「作品の力があってこその個人賞。できることならばトロフィーを切り刻んでみんなで分けたい。でももったいないので僕が預かっておきます」と饒舌。観客賞受賞に西川監督は「コロナ禍で海外のお客さんの前で上映が出来ず、リアクションも掴みづらかったので、受賞のお知らせをいただいたときは嘘じゃないかと…。でもこうやって海を渡ってトロフィーと盾が届いて良かった」と受賞を改めて実感していた。
さらに壇上では演じた役柄にちなんで、仲野と長澤がレポーターとして役所に直撃質問!レポーターの仲野が「撮影で大変だったことは?」と聞くと、役所は「それはいつも取材で聞かれて我々が困る質問だよ!」とぼやきつつも「商店街を 50 メートルダッシュするのは距離感も上手くいかなくて、自分の体力の衰えを見せつけられたシーンでした」と照れ笑い。さらに仲野から「ぶっちゃけ、仲野太賀はどうでしたか?」と聞かれると、「この映画に出ていたっけ?」ととぼけつつも「彼はね、映画小僧ですね。映画大好きでカメラ大好き。なかなか素晴らしい俳優さんだと思う」と賞嘆。それにレポーターの仲野は「本人、相当に喜んでいると思います!」と嬉しさを隠せない様子。しかし役所から「彼は愛されキャラですね。可愛がられるタイプの人間を普段から演じていますね」と鋭く分析されると、当の仲野は「非常にずる賢いタイプですね!」と顔を赤くしていた。
一方、長澤は「そこに便乗していいですか?」と笑いつつ「長澤まさみはどうでした?」と役所を直撃。役所から「ものすごく綺麗ですよ!」と褒められると、「ありがとうございます!」と笑顔に。続けて役所が「綺麗なだけじゃなくてね、長澤さんが扮するテレビプロデューサーが、この(仲野)テレビマンに啖呵を切るシーンがあるんだけど、まずハイヒールで全速力で走るのがすごい。その後の演技も迫力があってすごかったですね。思わず『その通り!』と共感してしまいました」と演技もべた褒めし、長澤は大喜びだった。
最後に西川監督は「出演者の皆さんが深く作品を読み込んでいて、作品の根っこにあるものを理解して作れたと思う。力のある俳優陣と優れたスタッフが丁寧に心を込めて作った作品です」と手応え十分。劇中のセリフ「まだまだやり直しが可能だ」というセリフを引き合いに出し「その言葉を今回の作品の軸にしようと取り組みました。今のご時世、世界にやり直しが可能なのか不安に思うこともあるかもしれないけれど、みんなでやり直していけるような社会に向かって歩いていけたら嬉しい」とメッセージ。続いて仲野は「この映画は人間の善意について考えさせられると思いました。人間にはまだまだ善意はあるし、手を差し伸べることができる。今は不寛容な社会になってしまっていますが、自分たちの出来る限りの善意を感じてもらいたい」、長澤は「この映画で描いているように世の中には生きづらさを感じている人がきっといっぱいいるんだと思います。そういう人たちにこの作品を通して、自分の考え方はこれでいいんだろうか?と自問自答するきっかけを与えてくれる作品であると思います。また、人によって感じ方はそれぞれ違うと思いますが、最後にはあたたかい気持ちが残る作品になっています。最後に主演の役所も「この映画を観ていただくと、心のどこかでホッと晴れ晴れするような気持ちになるはず。気に入っていただけたら色々な方々に勧めてほしい」と広がりを期待し、イベントを締めくくった。