日時:11 月 23 日
場所:新所沢レッツシネパーク シアター1
登壇者:東出昌大、沖田修一監督
芥川賞&文藝賞を W 受賞したベストセラーを沖田修一監督が映画化!『おらおらでひとりいぐも』が全国公開中だ。「ひとりだけれど、ひとりじゃない。」桃子さんが辿り着いた賑やかな孤独とはーー?75 歳、桃子さんの、あたらしい”進化”の物語75 歳でひとり暮らしをしている主人公“桃子さん”役には映画『いつか読書する日』以来 15 年ぶりに映画主演を務める田中裕子。そして桃子さんの「娘の時代」「妻の時代」を蒼井優が二人一役で務めます。メガホンをとるのは『南極料理人』『横道世之介』『モリのいる場所』などを手掛け、数々の国内外の映画賞を受賞してきた沖田修一監督。東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎ら豪華俳優陣も集結し、可憐でたくましい桃子さんの日常を描く。11月23日、公開後イベントが実施された。主人公・桃子さんの夫・周造役の東出昌大、そして沖田修一監督が登壇。二人とも埼玉出身、さらには所沢で本作の撮影を行ったことから、新所沢レッツシネパークでの舞台挨拶は大いに盛り上がった。
63 歳で作家デビューし、芥川賞と文藝賞を W 受賞した若竹千佐子のベストセラーを映画化した『おらおらでひとりいぐも』の公開を記念し 11 月 23 日(祝・月)、沖田修一監督の出身地である埼玉県所沢市の新所沢レッツシネパークにて舞台挨拶が開催。沖田監督と、埼玉出身の東出昌大が登壇し、会場は大きな盛り上がりを見せた。コロナ禍において、声援は禁止、舞台上には飛沫防止の透明なシートが置かれた状態でのトークとなったが、満員の観客は割れんばかりの拍手で沖田監督、東出を迎える。この街で育ち、この映画館で人生初めての映画となる『グレムリン』を見たという沖田監督は地元の温かい歓迎に感激の面持ち。
東出は、田中裕子と蒼井優が現在と若い頃を 2 人 1 役で演じた主人公・桃子の夫・周造を演じたが、最初にオファーを受け、台本を読んだ際の印象について「『すごい台本だなぁ…』と思いました。もともと、沖田組に憧れがあっていつかご一緒できればと思っていたところ、大女優で大先輩である田中裕子さんも出演されると伺って、『これはぜひ!』と一も二もなく飛びつきました」と振り返る。沖田監督は周造役について「周造って、都会の中の故郷という“山”の印象があって、まず大きな人にと思ってまして、原作に“美男子”とあり、身体が大きくてそういう印象の東出さんがぴったりだと思って、どうしても出てほしくてお願いしました」と東出にオファーを出した経緯を明かす。
期待を胸に飛びこんだ沖田組の現場の印象について東出は「監督が映画少年のように嬉々として現場にいて、プロポーズのシーンで、監督がカメラ横で『ふん!ふん!ふん!』ってうなずいてて(笑)、(撮影の)近藤龍人さんが撮っている画じゃなくて、役者のお芝居をご覧になってるんですね。そういう温かさ、映画愛が沖田作品に通底する朗らかな温かさなんじゃないかと思いました」と述懐。特に食事のシーンの周造の食べっぷりが魅力的だが、沖田監督は「東出さんが大衆食堂で食べるシーンは印象的です。たくさん食べてほしいと思っていたんですが、東出さんが口からワカメが出るくらい、たくさん食べてて面白かったです(笑)。(ワカメが)気になるのでもう 1 回撮ったんですけど、でもやっぱりワカメが出ている方が面白いんですよね。現場で東出さんも『こっちのほうがよくない?』という顔をしてた気がします」と印象的な食事のシーンを挙げる。
東出は「飯島奈美さん(フードスタイリスト)は、見た目だけの高級さとかではなく、本当においしそうで、そして実際においしい食事をご用意してくださるんです。業界で食事のことを“消えもの”と呼ぶんですけど、飯島さんの食事は消えものじゃなく、物語を代弁する重要なアイテムとして存在するので、そのお力を借りました」と語った。
昭和の時代の桃子を演じた蒼井優とは『スパイの妻』に続いての共演。東出は「『スパイの妻』とは真逆の印象でしたが、周造はあんまり蒼井優さんを意識するという芝居ではなかったと思います。その中で毎回、しゃべり方も空気感も違うし、レンズの前でもいつも自由でいる蒼井優さんで、その姿に尊敬の念と共に、動きのきっかけや心を動かされるお芝居の力をいただきました」と振り返る。
一方、現在の桃子を演じた田中裕子については「以前から映画や CM で拝見していた姿がお美しくて、何なんだろう? と思ってました」と語り、特に周造が桃子の手を取るシーンについて「田中さんは長回しでずっと現場にいらしたんですが、僕はカイロをポッケに忍ばせて、それが幸いして手が温かかったんですね。田中さんの手は冷え切っていて、その手を温めることが出来たのが周造としても嬉しかったです。あのシーンは、田中さんが感極まる瞬間もあったんですけど、監督は『ここは感極まるほうじゃなく、2 人の長い年月の…』と演出をされているのを見て、いいシーンだなぁと思っていました」としみじみ。沖田監督も「田中さんのお芝居を見て、ひとりでグッとなっていました」とうなずいていた。
最後の挨拶で東出は「田中さんは、芝居が終わると必ずこちらに向き直って一礼してくださるんです。その姿勢に俳優としてのすごさを感じました。沖田作品に通底する人間らしさ、温かさみたいなものは、役者が自分の人生や経験から想像し、人ってこうなんじゃないか? と思ったりしながら『こう見えればいいでしょ?』じゃなく、『その人物であろう。そうなりたい』と思ってぶつかっていくことをしたくなる台本だからこそ、みんなそういう芝居になるんじゃないかと思います。本当に沖田組に参加できることは、幸せな時間でしたし、幸せのおすそ分けみたいなことがお客様にできていれば嬉しいです」と語りかける。沖田監督は改めて「映画を作り続けて、またここで舞台挨拶できたら嬉しいです」とふたたびの“凱旋”を約束。ポスタービジュアル同様のこたつ席での和やかなフォトセッションを行い、温かい拍手のなかでトークイベントは幕を閉じた。