日時:9月25日(金)
場所:ヒューマントラストシネマ渋谷
登壇者:伊藤沙莉、瀧内公美、福田麻由子、川添野愛、松林うらら
売れない女優マチ子の眼差しを通して、“女”であること、“女優”であることで、女性が人格をうまく使い分けることが求められる社会への皮肉を、周囲の人々との交わりを介在しながら描いていく映画『蒲田前奏曲』。本作は、4人の監督が各自の手法でコミカルに描き、1つの連作長編として仕上げていった新しいタイプの作品。監督には日本映画界の若手実力派監督が集結。最新作『静かな雨』が釜山国際映画祭上映、東京フィルメックス観客賞受賞など国内外の注目を集める中川龍太郎、長編デビュー作『月極オトコトモダチ』がMOOSIC LAB グランプリ受賞、東京国際映画祭上映の穐山茉由、『Dressing Up』(第8回CO2助成作品、OAFF2012)で日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞受賞の安川有果、最新作『叫び』が東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門監督賞に輝き、第22回ウディネ・ファーイースト映画祭では大田原愚豚舎作品、渡辺紘文監督特集が組まれるなどの渡辺紘文(大田原愚豚舎)が務める。この度、初日舞台挨拶に、出演の伊藤沙莉(『タイトル、拒絶』)、瀧内公美(『火口のふたり』)、福田麻由子(本作で、「女王の教室」で共演した伊藤沙莉と再共演)、 川添野愛(『パパはわるものチャンピオン』)及び、本作プロデュース、出演の松林うらら(『飢えたライオン』)が登壇し、本作に懸けた想いや撮影の裏話などを語った。
最初の話題は、女優・黒川瑞季役を演じた瀧内公美と、同じく女優のマチ子役の松林が出演した、#MeToo、セクハラがテーマの第3番の『行き止まりの人々』について。瀧内演じる黒川は、過去に嫌な目に遭った経験があり、その当事者である監督の開催する#MeTooに関しての映画のオーディションに参加するという設定。瀧内は、「こういう根深い問題に何も考えていない人間が携わっていいのかなとすごく悩んだんですけれど、監督が、『女性の被害を訴えたいわけではない』とおっしゃっていたのが印象的だった」と述懐。
黒川をどういう女性と捉えて演じたか聞かれ、「『強い女性でいて下さい』というのが注文だったんですけれど、最初脚本を読んだ時には、非常に危うい女性だという印象でした。彼女がなぜ危うく見えるのかを考え、悩みながらも、どうやったら彼女の強さが出るかを考えました」と話した。
オーディションシーンで黒川はパワハラを受けるが、撮影中は笑いも起きていたそう。「現場でお芝居が変わっていくと言いますか、脚本通りではなくアドリブやエチュードもありました。【宝塚】というワードにご注目いただければと思います」という意味深なコメントも。
続いて、話題は、女子会がテーマの第2番の『呑川ラプソディ』に。マチ子は女優だが、他の職業の子の方が目立っているという、松林が実生活の女子会で感じていることも描いた作品で、そのうちそれぞれの違った顔が見えてくるという話。キャリアウーマン・帆奈役を演じた伊藤沙莉は、「帆奈は一見強い女性。キャリアウーマンで、「一人で生きていける」と見られがちなんですけど、心底そう思っている人もいれば、それでなんとか柱を作っている人もいると思うので、逆に弱いのではないかというところが少しでも垣間見れればと意識しました」と役の深さを説明。
衣装についても、「帆奈が1番隠している。誰よりも色使いや柄が派手なのに、『そこは隠すんだ』というのが、帆奈という人を描くにあたり、分かりやすい衣装だなと思いました。自分の意見は言うのに、隠したいところは隠す臆病な部分が、着ている服などに現れているのではないかと思いました」と話した。
女子会で婚約を発表する麻里役を演じた福田麻由子は「麻里は、婚約発表をするんですけれど、結婚するのが夢で、『結婚が人生の幸せで、結婚したら家庭に入る』という考えなんですが、私はあまりそういう考えはなく生きたんです。女性らしさを求められることについて疑問を投げかけるような作品の中で、麻里は異質な存在。帆奈と麻里は対照的に描かれているけれど、実際演じてみると、どちらが強い意志を持って生きているではなく、お互い1つの人生を選んでいるという点では同じなのでは。最初は麻里は流されているという印象があったけれど、どっちもどっちだと思いました」と気持ちの変化を説明。
どのような部分を大事に演じたか聞かれ、「麻里は麻里なりの強さがあるという部分と、見ていて楽しい気持ちになっていただければと思ったので、麻里には全然悪気はないんですけれど、私個人としては、(伊藤)沙莉をどれだけイライラさせるかというのを楽しんでやりました」と裏話を披露し、伊藤に、「超イライラしまし!」と突っ込まれ、仲の良さを披露した。
福田と伊藤は、2005年のドラマ『女王の教室』などでも共演。本作は、女子校時代の友達とアラサーになってから会うという設定だったので、少し現実も被って、やりやすかったということはないか聞かれ、福田は「小学校の時の幼馴染みたいな感じで、今も不思議な気持ち。15年前に共演した時から尊敬していて、久しぶりに会っても役者さんとしても人としても全然変わっていなくて、尊敬していた沙莉がそのままいてくれたのが嬉しかった」と大好きぶりをアピール!伊藤は、「私も心底尊敬していたので少し照れますね。いろんな同世代がいる中で、お芝居に関してもそうだし、『今こうなんだけど、どう思う?』とポロっと言ったことに対して、すごくしっかりしているけど、すごくふんわりと話す。ふわふわしているのに芯のある言葉で私の揺らいでいる心にグンと言葉をくださる方なので、強いな、かっこいいなとずっと思っていた人。久々に大人になって、対照的な性格の役でご一緒できたのは感慨深かったです。」と返した。
キャリアウーマン・こっここと琴子役を演じた川添野愛は、「監督が女性校出身ということもあり、台本の時点で女子が女子の前だけで見せる独特の雰囲気や姿が色濃く描かれていて、リアルにできるほど面白くなると思って現場に入りました。カメラが回っていないところでも、輪になって、世間話をしながら撮影をしていました。その空気感のリアリティは出せたのかと思います」と胸を張った。
こっこを演じるにあたって心がけたことを聞かれ、「久しぶりに再会したので、最初は様子を伺いつつ、お互いの状況の探りを入れていくんですけれど、自分を曲げない人間ばかり。それぞれプライドや見栄もあると思うんですけれど、空気を崩そうとする発言をする人がいる中、こっこは空気を乱さぬようバランスをとっているという感覚が強かったです。空気を優先する人間って、内に秘めている、本当は煮えたぎっているものが強いと思うんです。そういうこっこの、4人それぞれに対して思っていることや、それぞれとの関係性だったりが顔に出てしまっているところもあるので、見ていただければと思います。」とアピール。
4作を通じた1本の長編映画として注目してほしい部分を聞かれた川添は、「完成した作品を見た時にマチ子という一人の人間を通して、いろいろな現実を私も目の当たりにしまして、ハッとさせられたこともありますし、世の中が不安定な時って特に自分のことで一杯一杯になってしまったり、人間は十人十色で、みんなで共存しているっていう意識をちょっと忘れてしまう瞬間があります。きっかけはなんでもいいと思うんですけれど、この映画を見ていただいて、この映画を通して、皆さんが大切にされていることを胸に持ちつつ、悶々としながら、帰途について頂きたいという思いです。ぜひ楽しんでください」と回答。
松林も、「第1番『蒲田哀歌』は、中川龍太郎監督に、私の弟に彼女ができた時の嫉妬の話を基に、75年前の蒲田の空襲も絡めて描いていただきました。第4番『シーカランスどこへ行く』では、渡辺紘文監督に、東京中心主義を批判していただいています。4編それぞれいろんな色があって、それぞれに思いがあってテーマがあって素晴らしい作品だと思うのですが、構えずに楽しんでいただければと思います」とメッセージを送り、舞台挨拶は終了した。