日時:4月24日(水)
場所:日本消防会館
登壇者:合田雅吏、五十嵐匠監督
幼い頃、両親が早死にし、兄弟とも離れ離れになった二宮金次郎―—。青年になった金次郎は、小田原藩主に桜町領(現・栃木県真岡市)の復興を任される。金次郎は、「この土地から徳を掘り起こす」と、”仕法”と呼ぶ独自のやり方で村を復興させようとするが、金次郎が思いついた新しいやり方の数々は、一部の百姓達には理解されるが、保守的な百姓達の反発に遭う。そんな中、小田原藩から新たに派遣された侍・豊田正作は、百姓上がりの金次郎に反発を覚え、次々と邪魔をし始める。はたして、金次郎は、桜町領を復興に導けるのか?肉体改造をして二宮金次郎役を演じた、国民的ドラマ「水戸黄門」(TBS)5代目 渥美格之進役として里見浩太朗黄門様に2003年~2010年の7年間仕えた合田雅吏(ごうだ・まさし)と、『アダン』『長州ファイブ』が東京国際映画祭に正式出品されるなど、歴史上の人物を描いた作品で評価を得てきた五十嵐匠(いがらし・しょう)監督が登壇し、役作りの一環である肉体改造の裏話や、現在も残る金次郎が使ったのぞき穴からヒントをもらった話などをした。
冒頭、下村博文氏が登壇し、「元文部科学大臣という立場で出てきたので、昔の修身みたいな映画かなとマイナス印象になってしまうかもしれないけれど、そんなことは全くない。大きな時代の変化の中で、志を持って、チャレンジ精神を持って、無から有を生み出すような改革の映画。私が子供の頃は二宮金次郎が薪を背負って、本を読んでいる像がありましたが、残念ながら今は『スマホを見ながら歩くと危険だから、二宮金次郎の像を撤去する』という動きがありますけれども、今から100年前に内村鑑三が、『代表的日本人』の中で二宮金次郎を5人の中の1人に選びました。二宮金次郎がこの映画によって、改めて注目されて、二宮金次郎的な生き方を学ぼうという人が増えていくのではないかと思います。」と挨拶。
そして、二宮金次郎を演じた合田雅吏と、五十嵐匠監督が登壇。監督は、「前作の『十字架』のロケ地・茨城県筑西市の教育長が、筑西市は二宮尊徳(※金次郎は57歳から尊徳と名乗った)が復興させた場所だと話してくれたんです。調べたところ、青年期以降の尊徳がやったことはものすごいことで、660の村々を自分の資本で復興させたんです。」と本題材との出会いを説明。金次郎についての取材中に見つけた記事で、村々で夜中にこの村の人が働いているかを知るために、1軒1軒のぞき穴から見ていたという一文があり、「二宮尊徳さんがやったことはものすごく素晴らしいけれど、そののぞき穴を覗いている尊徳を映画化するのなら面白くなるのではないかと思いました。」と映画にするきっかけについて話した。
金次郎役をオファーされた合田さんは、「実在の人物を演じるというだけでハードルが高いものなんですけれど、しかも偉人と言われる方。さらに、僕が小田原の出身なので、小田原の偉人ということで、3段階ハードルが上がっていまして、監督とお会いした時は『嬉しい』という気持ちが一番だったんですけれど、それ以上に自分にできるのか?自分が合っているのかと不安だったんですけれど、金次郎の生家にある資料館に、金次郎の実物大の銅像が建っているんです。183cmと僕と同じ身長で、体重は80kgから90kgあったと言われています。ただ、銅像の顔が、僕の亡くなった祖父に似ていたので、親近感が湧いたんです。役作りをするにあたって、共通点を探していくんですけれど、それを見た瞬間に肩の荷がおりました」と述懐した。
監督は、金次郎役を合田さんにオファーした理由を聞かれ、「郷土出身ということが第一にありました。また、お百姓さん役というものは土臭く思うけれど、合田さんはそういう作業をしたとしても土臭い、泥臭いというのが薄まるのではないか?観客が共感しやすいのではないか?というのと、身長。そして一番の要因は、役者生命を懸けて臨むと言ってくださったことです。全身全霊を注いで二宮尊徳を演じて頂いて、嬉しく思っています。」と答えた。
監督は、「今まで実在の人物ばかり撮ってきました。戦場カメラマンの沢田教一さん(『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』(1997))、アンコール ワットで亡くなった一ノ瀬泰造さん(浅野忠信主演『地雷を踏んだらサヨウナラ』(1999))、金子みすゞ(田中美里主演『みすゞ』(2001))、(松田翔太主演)『長州ファイブ』(2006)など。」と話し、今回二宮金次郎のどの部分を映画化したのか聞かれると、「史実ということがあるから、大きい史実は曲げられないけれど、エンターテイメントにするにはある程度変えなくてはいけない。柏田道夫さんの脚本は、家族愛を含めて非常に共感できる脚本になっているので、ドラマチックな作品になっていると思います。」と脚本の柏田さんの手腕を絶賛。
合田さんは、金次郎の妻・なみを演じた田中美里さんとのシーンは、「江戸時代の夫婦像、本作の中の夫婦像。その中で、妻としてどうあるべきかというのを、初日のファーストカットからきっちり作ってきていただいた」と感謝の意を述べ、敵役の豊田正作役の成田浬さんは「僕も全身全霊を注いだんですけれど、(その次の作品があったので)髪の毛だけは注げなかったんですけれど、彼は本当に自分の頭を剃って、中剃りにして演じてもらいました」と話した。
自身の役作りに関しては、「金次郎は体重80〜90kgある人物でしたが、お話をもらった時、僕は70kgちょっとしかなかったので、撮影までに体重を上げなくてはいけないということで、トレーニングと食事で7、8kgくらい増やして撮影に向かったんですけれど、撮影のスケジュールが決まったところ、『断食のシーンから撮ります』と。話が違うなと思ったんですけれど、スケジュール的にやらざるをえなかった。時間をかけて落とすと、今度戻らなくなってしまうので、最後の1週間、食べなきゃ落ちるだろうと思って、プロテインとサプリと野菜だけで過ごしたら、7kgくらい落ちました。そして、2日間成田山で断食のシーンを撮ったら、監督に優しい声で、『3日間空けてあげるから戻してね』と言われ、ボクサーのように3日間で5kg位戻しました。一つ教訓になりました。『人間やればできます!』」と話し、会場の笑いを誘った。
監督は、「クランクインの時断食のシーンで合田さんが5kg位落としてくれた。それと成田さんとあと二人侍役の役者は中剃りをしてくれた。それを目の当たりにしたスタッフは締まるんです。」と相乗効果があったことを力説した。
最後のメッセージとして、合田さんは「クランクインする時に1つの目標を決めました。それは、『100年後にも残る作品にしよう』ということです。金次郎の想い、仕法は全く色褪せていないです。本作は教育映画や道徳映画ではないです。エンターテイメントです。観て面白かったら、人に伝えてください」と話した。
監督は、「二宮尊徳が今生きていたら何をするかなと思うんです。(今の世の中、)分度、推譲、至誠、勤労というものがなくなってしまったように感じて、今回の映画も声高には言っていないんですけれど、この4つが底流に流れているんです。ぜひ観て感じていただければと思います。本作は、恵比寿ガーデンプレイスの東京都写真美術館ホールで1ヶ月上映しますけれど、合田さんが言ったように、100年続く映画というのは、シネコンで1週間2週間で上映が終わるようなものではあってはならないと思い、製作委員会で車を買ったんです。この二宮金次郎号は、レベルの高い12000ルーメンの映写機と6メートルのスクリーンを積んでいます。公民館でもホールでも本作を観たいというところに運転して行って、積小偉大で全国にこの『二宮金次郎』を届けようと思います。ぜひご協力ください」と熱い想いを語り、舞台挨拶は終了した。