漫画家・山上たつひこといがらしみきおがタッグを組み、2014年文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞した傑作コミックを、映画『紙の月』、『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督が映画化した『羊の木』が衝撃的大ヒットを記録中。2月26日には東京のユナイテッド・シネマ豊洲で大ヒット御礼舞台挨拶が行われ、元殺人犯を演じた松田龍平と監督の吉田大八が参加した。
松田が演じたのは、錦戸亮演じる主人公・月末を翻弄する、純粋さと凶暴性を併せ持ったミステリアスな男・宮腰一郎。劇中のミステリアスさも一転、司会も兼任した吉田監督の仕切りぶりに「凄いちゃんとやるんですね」と開口一番観客を笑わせる松田だったが、監督から脚本について聞かれると「読んだときに群像劇だと思った。それでいて月末だけがほかのメンバーと繋がりを持って、受刑者同士はあまり重ならない。映画全体を通して観たときにどうなるのか気になった」と独特な作劇に魅了されたよう。
吉田監督自身も「もはや理屈で説明するのを諦めたこともあった。まずは演じてもらって宮腰になってもらうほかなかった」と告白するほど、宮腰というキャラクターは何物にも収まることない特別な存在。そんな難役に松田は「宮腰の行動原理がわからず、迷いながらやっていた部分もあった。崖の場面では撮影当日に車中で待機しているときに『これだ』と思ったものがあった。そういった意味では役としても自分としても追いつめられた感じでやっていた」と当時の心境を回想。これに吉田監督は「松田龍平という俳優に委ねて、僕が甘えたところも実はあった。でも、彼ならばそれを受け取ってゴールに向かってくれるだろうという自覚もあった」と松田に全幅の信頼を置いていた。
劇中でとある人物を抑え込む演出では、宮腰が片足で押さえつけるという設定だったが、撮影現場で松田の提案によって羽交い絞めに変更されたという。吉田監督は「演者の体に正直な方がいいのは当たり前。アクションが想定したものに対して違うのは、それは彼が宮腰という役を考えた時間が乗っかったということ」と松田の意見に嬉しそうに賛成。松田は「自分の宮腰に対する想いは強かったんだと思う。意見を吉田監督が飲み込んでくれてよかった」と感謝した。
撮影は富山で敢行。撮影中に富山の友達を増やしたらしいという吉田監督からのプチ情報に松田は「日本一綺麗なカフェに連れて行ってもらいました。そこには富山中のおしゃれな方々がたくさんいた」と満喫したことを報告。地元の方にはドライブにも連れて行ってもらったそうで、クールなイメージの松田の積極的な交友録に会場からは笑いが漏れた。
また松田は撮影中の吉田監督について「ずっと見たくなるような、可愛い歩き方をする方。どこにいても監督の姿が目に入ってくる。それは監督の威厳」とリスペクトすると、吉田監督は「松田からは『姿勢がいいですね』と言われた。僕はもともと猫背だったけれど、丹田を鍛えたことによって治ったんです。どうやって治すのか、その感動を伝えた覚えがある」と思い出し笑い。丹田への意識を松田に聞くと「この映画の時の宮腰は丹田を意識していますよ」と乗っかって笑いを取っていた。
最後に松田は「普段を知っている友達から『あの映画を観てから怖い』と言われます。お客さんは僕のことを知らないわけですから、『やばい奴なんじゃないか』と思われるのが不安」と意外な心配を明かし、「大丈夫ですよ」と優しい声で会場に向けて健全をアピールしていた。