女性初のアカデミー賞監督賞に輝いた『ハート・ロッカー』、作品賞を始め5部門にノミネートされた『ゼロ・ダーク・サーティ』と、新作を発表する度に大センセーションを巻き起こしてきたキャスリン・ビグロー監督。徹底したリアルな描写による圧巻の臨場感、先が読めない骨太でスリリングなストーリーテリングで、常に観客を圧倒してきたビグロー監督の最新作は、1967年7月23日に起きたアメリカ史上最大級の<デトロイト暴動>渦中に起こった「アルジェ・モーテル事件」を描き出す。
デトロイト暴動発生から3日目の夜、銃声の報を受けて現場に急行した白人警官たちは、アルジェ・モーテルに居合わせた8人の若者たち全員を容疑者と断定し、暴力的な強制尋問を始める。密室と化した室内で一体何が行われていたのか。そして、被害者たちはどんな運命をたどることになるのか。キャスリン・ビグロー監督は、これまで歴史の闇に封印されていた“戦慄の一夜”を徹底してリアルに再現、映画史に残る40分間の衝撃的な映像を完成させた。
今回、凶悪な警官クラウスを演じた英国の個性派俳優ウィル・ポールターをパリでキャッチ、尊敬する監督との現場、俳優のジレンマなどを語った特別動画インタビューが公開となった。
キャスリン・ビグロー監督の大ファンだというイギリス人俳優ウィル・ポールターは、『デトロイト』で凶悪な差別主義者であるデトロイト市警の白人警官クラウスを演じている。『リトル・ランボーズ』でデビュー以来、『なんちゃって家族』(13)でMTVムービーアワードのキスシーン賞、ブレイクスルー演技賞を受賞、同年の英国アカデミー賞のライジングスター賞を手にした。その後、世界的に大ヒットした『メイズ・ランナー』(14)で、主人公の宿敵を演じ圧巻の存在感を披露。アカデミー賞3部門を制したアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督『レヴェナント:蘇えりし者』(15)ではレオナルド・ディカプリオと共演している。作家性の強い監督からのオファーが続くウィルは、『デトロイト』日本公開直後の1月28日に25歳の誕生日を迎える。本作の演技が絶賛され、ますます注目を浴びる個性派俳優、ウィル・ポールターをパリで電撃取材した特別動画インタビューが到着した。
最初に脚本を読んだ時の印象を聞かれたウィル・ポールターは、「あまりにも現在に通じる部分が多くてすごく驚いた」と正直な心情を吐露。「作品の舞台は今から50年前だ。だけどテーマとなっているのは現代と同じ問題ばかりだ。有色人種への社会的な不条理、警察の横暴、制度的な人種差別、そういう多くの問題が、脚本に反映されていた。それが とても残念で、悲しいと思った」と心中を率直に打ち明ける。
しかし、同時に「社会に訴える作品になるだろうとも思った。そういう社会問題を描く作品に参加できて嬉しかった」とこの作品に参加する意義について、熱く語っている。
(※写真は、事件当時、警備員として現場に居合わせたメルヴィン・ディスミュークス氏とのプレミアでの2ショット)
ウィルが演じる白人警官クラウスは、暴動発生時のデトロイトを巡回中に、窃盗を犯したと思われる黒人青年に背後から発砲し殺害するという、人格的にも理解しがたい差別主義者だ。事件に関わった複数の警官から生まれたクラウスという難役を演じるにあたり、徹底して「無知」になったとしている。人種差別や差別主義の原因は、差別をする人間の中にある“無知”だと気づき、役作りを始めたのだ。
「無知な彼らは感情を持った。有色人種に対する嘘や偽りをベースにね」と理解しがたい役を自ら分析し、「そういう人物を演じるため無知をうまく表現したかった」と、全く共感し得ない役にも自身の考察を重ね果敢に挑んだ。
しかし、やはり実際に役を演じるのは精神的に厳しかったという。それでも、「権力者にも差別主義者が多かった。それは現在も変わっていない。最近もアメリカで事件があった」と続け、「アメリカにいる差別主義者の存在を見せつけられた。彼らのような差別主義者は世界中にいるはずだ」と力強く語る。イギリス人である彼がこの役を演じること。そこには大きな覚悟と責任が伴ったようだ。
撮影中に苦労したことについては、「尊敬する人たちを相手に暴力を振るうシーン。みんな友達だから辛かった」尋問を受け、暴力を振るわれる共演者の迫真の演技は、それが素晴らしいほど彼を苦しめたという。一時は泣きながら演技を続けたこともあった。
一方、「共演者の演技が素晴らしければ、自分も熱くなる。追いつかなければと思わされるからね」と役者魂も垣間見せながら「(共演者が)苦しさを表現するのがあまりにもうまくて、その演技は僕の心の奥に響くほどで、ある意味同情を感じずにはいられなかった。差別主義者を演じる僕には許されない感情だ」と役柄と自身の感情との狭間で葛藤するウィル自身の姿は、劇中で見られる史上最悪の凶悪警官とは対照的だ。
最後に、尊敬するキャスリン・ビグロー監督について、「どんな時でも冷静に、物事がスムーズに進むよう最善を尽くし、この作品を監督するのには最適な人物だった」とコメントしている。
「こういう作品には大きな責任が伴うはずだ。作品で描かれたのは、それくらい重要な事件だ。何にも動じない人でなければ、監督は務まらなかっただろう」と最大の敬意を表してインタビューを締めくくった。
ビグロー監督の手腕に加え、このウィル・ポールターの迫真の演技により究極のリアリティと息もできないほどの緊迫感を見事に表現している映画『デトロイト』。50年の歳月を経ても尚、変わることのないアメリカの深い闇を浮かびあがらせる“衝撃の40分間”を、ご自身の目で確かめていただきたい。
キャスリン・ビグロー監督最新作『デトロイト』は、1月26日(金)より全国ロードショー
1月26日公開映画『デトロイト』ウィル・ポールター_インタビュー
https://youtu.be/qvRiXcsPADE