芥川賞作家綿矢りさの小説を原作に、大九明子監督により映画化された『勝手にふるえてろ』(12月23日公開)。主演を務めた松岡茉優さんに話を伺った。
第30回東京国際映画祭にて、観客賞と、本年度から新設された東京ジェムストーン賞を受賞された感想をお聞かせください。
■松岡茉優:東京国際映画祭のコンペティション部門に選出していただけたことがうれしいです。最初は、社会派の作品ですとか、切り込んだ内容の多い中で、女の子のただただもがき苦しんでいる映画がコンペティションに選ばれて良いものかと不安でしたが、いざ蓋を開けてみると、見てくださった観客の方による投票で決められた観客賞をいただけて、これはもしかしたら、主演女優賞ですとか、監督賞、脚本賞よりもうれしい受賞ではないかとチーム一同喜んでいます。このような賞をいただき光栄に思います。本当にありがとうございます。
宝石の原石のような輝きを放つ若手俳優に贈られる「東京ジェムストーン賞」の記念すべき第1回を受賞されたことについてはいかがでしょう。
■松岡茉優:今後、受賞者の私たちの活動が、東京ジェムストーン賞のあり方に少なからず影響するかと思いますので、第1回をいただいたからには、第2回、第3回と、この賞を取っていきたいと、俳優の皆さまが思ってくださるように精進していかなければと思っています。いつか宝石になれるように頑張っていきたいと思います。
この映画で演じられた24歳のOL「ヨシカ」は、ひねくれていて、自分勝手で、夢見がちな役でしたが、この役には共感できましたか?
■松岡茉優:ヨシカは劇上のヒロインだからこそ、キャラが濃いめで作られていますけど、その行動一つひとつを細かく見ていくと、すべての女の子に当てはまるのではないかと思っています。私にも「ここまではやらないけど、この気持ちはわかるなぁ」とか「あー、これを言いたかったんだ、よくぞ言ってくれた」というシーンがありましたので、全国の多くの女の子に共感してもらえると自負しています。
妄想に大爆走するヨシカという役作りでこだわったことはありますか?
■松岡茉優:そうですね。映画のヒロインですから、キラキラしていて誰もが応援したくなるような、恋にまい進する女の子というのがスタンダードだと思うのですが、この映画のヨシカに関しては、決して良い子ではなく、どちらかと言えば性格の悪い方で、口も悪い。でも、そんな彼女でも好きになってくれる人が現れて、その人のために変わろうとするあたりは、人としてあるべき姿のように思えました。
自分に自信を持ててないとか、嫌なことを言われて「もしかして私って……」と思っている方にこそ、この映画を見ていただいて、それでも好きだって言ってくれる人がきっと現れるのではないか、どんな女の子にもピタッと合う人がきっとどこかにいるはず、と期待をもってもらえたらうれしいです。性格の良い悪いが善悪ではないですし、渡辺大知さんが演じられた「二」という役が、それを物語ってくれています。
渡辺大知さんは持ち前の明るさと繊細さを生かして、本当に包容力のある二という役を演じてくださっています。ヨシカとニの微妙な関係性がどのように描かれているのかご注目ください。
ヨシカが感情をぶつけて歌うシーンがあります。すべて現場で歌った歌声を使われているということですが、こちらのシーンを振り返ってみていかがですか?
■松岡茉優:脚本をいただいたのと同時期に「アンモナイト」の歌詞を渡されまして、これを劇中で歌うのかと最初は驚いたのですが、原作を読んだり、脚本を読んだりする中で、アンモナイトはヨシカそのもので、ヨシカのテーマソングであり、ヨシカの叫びであり、ヨシカの応援歌だと思い、大好きになりました。
ヨシカだけでなく、生きづらさを感じていたり、私みたいなものは絶滅すればいいんだと思っていたりする女の子は少なくないと思うんですよね。私もわりとその一人。だから、作品の要所要所で歌ってつづったこの歌が皆さんの応援歌になっていればいいなと思っています。
ヨシカがたどって来たいろんなシーンが、歌によってひとつにつながるので、2回目に見た時は、随所のシーンでヨシカの思いがあふれ出てきて感傷的になりました。
■松岡茉優:ありがとうございます。勝手にふるえてろは仕掛けのある映画で、物語の中盤にあることがひっくり返る作りになっています。そのきっかけにもなっているのが歌のシーンです。その部分を楽しんでいただき、もし気になって2回目を見ていただいた時は、また別の角度から見ることができると思うので、そういった部分でもこの映画を楽しんでいただけたらうれしいです。
ヨシカは身の周り人々に、少々ブラックでありながらも小気味良いあだ名をつける天才ですね。松岡さんがご自身に、お名前に伴ったものではないあだ名を付けるとしたら何かありますか?
■松岡茉優:なんだろうなぁ、なんでしょうね、難しいですね。親友の橋本愛には「器用貧乏」って呼ばれたことがありますね……。
橋本愛と共演しました『リトル・フォレスト』という映画で山にこもってパンをこねるシーンの撮影だったと思うのですが、おいしく膨らませるこね方があり、橋本はそれを完璧にできる役でしたので、前日から練習して、本番でもうまくいかなくて何度もチャレンジしていました。その間、私は橋本からこね方を習う役なので体育座りで待っていたのですが、こうじゃない? って一度やってみたらできてしまいまして、その瞬間に「この器用貧乏! 」って言われました。貧乏はつけなくてもいいだろうって思ったんですけどね(笑)。
もし、女優になってなかったらしてみたかったということはありますか?
■松岡茉優:幼稚園の卒園アルバムには妖精になりたいと書いてありましたね。周りの子は警察官とかケーキ屋さんとか、実在の職業について書いてましたので、それに比べて私はちょっぴり物心つくのが遅かったんですね。『おジャ魔女どれみ』が好きだったのですが、どれみちゃん、おんぷちゃんではなくて、妖精が好きでした。パタパタしてる妖精です。だからだと思うのですが、母は心配していました。「茉優ちゃん、妖精がいいの?」って言われた覚えがあります。でも、子役をやらせていただくようになった小学生からは、女優さんって書いてありましたね。
(映画の中で妖精になるかもしれない日を楽しみしています。)
(なるほど! 妖精役ができれば私の夢は叶いますね。いつかそんな役が訪れるように頑張ります。)
経理担当というヨシカのすごい速さで電卓を打つ姿に、かっこよさを感じました。松岡さんにもこれは負けないと思う特技などはありますか?
■松岡茉優:先日テレビ番組でやってみて、これは日本で100位以内に入れると思ったのですが、『あたしンち』という漫画は、一コマ目を見たら話の続きをオチまですべて言えます。これまで、おうちなどで友達に、このコマはこうなるからって言いながら読んでもらい「ほんとだ―! 」みたいに地味にしていたことを、テレビ番組で披露したところ喜んでいただけて、作者のけらえいこ先生もTwitterから反応してくださったこともありまして、これからはこれを特技として推し進めていこうと思っています。
また、原作とアニメの表現やストーリーの違いとか、増やされたエピソードも把握してるので、アニメの冒頭3分、3分は多過ぎるかな、2分……、1分30秒見たら話を最後まで言えます。
競う相手がほとんどいないように思われますので10位以内ではないでしょうか。
■松岡茉優:えー、そうかなぁ。あたしンちは、何度も何度も繰り返して読んでる人が多いと思うので、私はギリギリ100位だと思ってます。これは誰かと競ってみたいですね。
すてきな共演者の中でも、リアルな恋愛相手として登場されました「二」役の渡辺大知さんについて何かエピソードはありますか?
■松岡茉優:撮影現場の渡辺さんはすごく明るく振る舞ってくださいました。私は自分の役であるヨシカと向き合うことで精一杯でしたので大変ふがいない主演だったのですが、渡辺さんはスタッフさんたちの空気を明るくしてくださったり、撮影中のシーンでうまくいかないところがあると新しい提案をしてくださったり、ご自身が監督をされているのもあって、俯瞰して見るのがお上手なんですよね、大九監督とも現場で撮影の専門用語で話をしながら「ニ」という役を作られていました。
そんな渡辺さんのことを、てっきり二のような人なのかなって思っていたのですが、映画のキャンペーンで再びお会いしたら、ホントに? えーっ! 一緒に映画を作りましたよね??? っていうくらい距離がありまして、このままでは良くないと思って一緒に食事をしてみたら、お話しするまでに30分くらいかかりました。その後は質問攻めです。そうしたら、やっと扉を開いてくれました。実はとても繊細でシャイな方なんだと、キャンペーンが始まってから気づきました。
渡辺さんは二そのものだと思ってましたので意外でした。
■松岡茉優:普段、バンド活動されてる時も二のような雰囲気を醸し出されているようですが、たぶん、本来はシャイな方なんだろうなって思います。キャンペーン中にお父さまとお母さまが来てくださった時は、「帰った、帰った」と言われて、会わせてくれませんでした。後から聞いたら、本当は帰られてなかったようなんですけどね(笑)。
いとこの男の子や、年下の男の子みたいなかわいらしさがありますね。
■松岡茉優:27歳のお兄さんなんですけど、年下の私でもかわいらしいと感じる、素敵な男性ですよね。
でも、なによりも、渡辺さんの手掛けられた主題歌「ベイビーユー」が、「本当にありがとうございます」と、何度も伝えさせていただいてますが、それでも伝えきれないくらい素晴らしい曲なんです。この映画のラストは、正直、何か答えがバーンと見つかるわけでなく、むしろ見てくれた方の捉え方によってラストが変わる映画になっているのですが、あの主題歌があることによって、観客の皆さんが同じ気持ちになって帰れると思うんですよね。独りぼっちだと感じたりだとか、社会って生きづらいなって感じたりとか、誰かに愛されたいって思ったりした時には、あの曲を聴いていただくと、心から満たされると思うので、黒猫チェルシーさんのベイビーユーを、この映画のみならず、これからも聞いてほしいなと個人的に思っています。
主題歌が流れて映画が締めくくられた時は幸せな気持ちになりました。
■松岡茉優:なんかですね、渡辺さんから「これは二からヨシカじゃなくて、渡辺大知からヨシカへのラブレターです」って言われた時、ホントにズッキューンってしちゃって、これが噂の「3B」って思いましたね。モテる職業といわれるバンドマン・美容師・バーテンダーです。ヨシカへ贈っているので、ヨシカを演じた私にではないのですが、そんなことを言われたら思わず好きになっちゃいそうになりました(笑)。
これから聞くたびに――。
■松岡茉優:何かしら萌えちゃいますね(笑)。しかも、この歌詞は、松岡さんがこう言ってたものなんだなんて言われたら、何? これはプロポーズですか? って思ってしまいました。
(リアル妄想ヨシカが現れましたね。)
(でも、渡辺さんには「違います」って言われましたね。怖い怖い、3Bって怖いです。)
最後に映画を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。
■松岡茉優:ここまで映画の話を聞いてくださって本当にありがとうございます。今回私は、初めて主演をつとめさせていただきました。私にとってはまだまだ早かった主演だと思っていますが、3回目の共演になりました大九明子監督を始め、スタッフさん、キャストの皆様のお力添えをいただきまして、女の子を応援できるような、女の子の背中をツンツンと叩けるような、時には抱きしめてあげられるような、女子応援歌な映画が出来上がりましたので、ぜひ年末年始にお友達とでも、好きな人とでも、大切な人や独りででも見ていただきたいです。
いつも頑張っている自分を許してあげられるような、よく頑張ってるって自分に言葉をかけたくなるような時間になるのではないかと思ってます。勝手にふるえてろで、年末年始にデトックスしてください。ありがとうございました。
【取材・文:シネマクエスト 編集部】