「これまでの映画作りに影響を与え続けた原作を映画化した、現在までのキャリアの総決算となる一作」映画『美しい星』 吉田大八監督インタビュー

「これまでの映画作りに影響を与え続けた原作を映画化した、現在までのキャリアの総決算となる一作」映画『美しい星』 吉田大八監督インタビュー
提供:シネマクエスト

1962年に三島由紀夫が発表した小説「美しい星」。地球に暮らす一家族が「自分たちは宇宙人である」という意識に目覚め、行動を起こす物語だ。SFなのか、純文学なのか? 革新的なスタイルで話題を呼んだこの作品に心を捉えられたのが、当時大学生だった吉田大八監督だ。約30年前に初めて読んで以来、ずっとこの原作に惹かれ続けていたという吉田監督が、舞台を現代に翻案してついに映画『美しい星』を完成させた。この念願の作品の公開直前にお時間をいただき、作品についてインタビューを行った。

三島由紀夫の小説を大学生の頃読んで以来、ずっと映画化を考えてこられたということですが、この作品のどこがここまで監督を惹きつけたのでしょうか?

■吉田大八監督:当時はとにかく、SF小説が好きだったんです。純文学も人並みには読んでいたんですが、「美しい星」はSF小説と純文学、どちらでもあるようでいてどちらにも属さない作品だなと思いました。その、型にはまらず越境している感じが、とにかく自由でカッコいいな、と。そのカッコよさに近づくために、いつかこの作品を映画にできたらと思うようになりました。

1962年に書かれた原作の設定を大きく変更し、舞台を現代に変更しています。脚本化で最も苦労されたところはどこでしょうか?

■吉田監督:原作は1962年を舞台として描かれていますから、そのまま映画化してしまうと、“過去の話”になってしまう。そうすると、「同時代の問題に宇宙人目線で向き合う」という原作の魅力を生かせないと思ったんです。
米ソの冷戦や核による最終戦争の恐怖など、当時の時代背景を反映した設定をまるごと現代に変換していくのは想像以上に大変な作業でしたが、原作から自分が受け取ったスピリットそのものを表現するためには絶対に必要な作業だったと思います。

主人公の重一郎と吉田監督自身が同い年の52歳で、今回映画で重一郎を演じたリリー・フランキーさんも同い年だったんですね。

■吉田監督:はい(笑)。まったくの偶然なんですけどね。初めて原作を読んだ時、52歳の主人公にはすごく年配の人というイメージがありました。ところが今回映画化するにあたって、重一郎役に名前が上がったリリーさんが52歳だったことで、リリーさんも僕も原作の重一郎も同い年の52歳なんだということにハッと気づいたんです。そこにも強い巡り合わせを感じました。

リリーさんは監督のイメージにぴったりだったのでしょうか?

■吉田監督:というか、シナリオ段階からリリーさんをイメージして書いていたので、リリーさんが受けてくれなかったら大変なことになってました(笑)。リリーさんにはこの原作の持つ精神に通じる“自由自在さ”があります。リリーさんの自由で型にはまらない軽妙な佇まいをうまくこの役に生かせたらと思いました。

暁子役にはもともと橋本愛さんを想定されていたそうですが、橋本愛さんの女優としての魅力はどこにあるでしょうか?

■吉田監督: “映画”に対する想いがすごく強くて、とても真面目な女優さんです。自分の美しさに対してもすごく客観的な意識を持っていて、その点も今回の金星人という役柄にぴったりでした。僕が彼女に求めた以上のものをこの映画に与えてくれましたね。

一雄役の亀梨和也さんはどういう方ですか?

■吉田監督:亀梨くんは、若い頃からアイドルとして第一線を走ってきた人ですよね。ひとつひとつの仕事に対して大きな責任を背負って取り組んでいる姿を見ると、人間としての鍛えられ方が違うなと思います。話しているだけでこちらの背筋がピッと伸びるというか。

テレビ局での討論シーンでの、佐々木蔵之介さんの動きなどが、とても演劇的に感じました。監督は演劇の演出もされていますが、演劇的な演出は意識されているのでしょうか?

■吉田監督:特に意識はしていませんでしたが、テレビカメラに囲まれて相手だけではなく大向こうも意識しつつ演説してるようなものなので、結果的にそうなったのかもしれません。三島さん自身も戯曲を書くし、原作の討論もかなり演劇的ですよね。

その演説シーンに、佐々木蔵之介さんの存在感がぴったりはまっていました。

■吉田監督:幸運なことに、蔵之介さんはもともと「美しい星」の愛読者だったんです。あのシーンの持つ意味を正しく汲んで、演じてくれました。撮影は大変でしたけど、お互い手応えを感じながら作り上げたシーンですね。

以前のインタビューで監督が「『気が違った状態で見えるもの』を描こうとしているのかもしれない」とおっしゃっているのを読みました。そう考えるとこの映画も大杉一家が気が違った状態になっている物語ですよね。

■吉田監督:「気が違う」というと誤解されそうだけど(笑)。ただ、確かに僕の今までの映画では、ある精神の極限でしか見えないものを扱うことが多かったような気がします。結局ずっとこの「美しい星」という小説に影響されてきたのかもしれませんね。

そこまでご自分の映画作りの指針として影響を受けてきた作品を実際に映画化されてしまった後、今後どういう作品を作っていかれるのでしょうか?

■吉田監督:この作品がとても大きな節目になることは間違いないです。ある意味、総決算として『美しい星』を作ったからこそ、新しいことを始めたいという気持ちも強くなりました。

監督が映画を作る上でいつも一番大事にしていることはなんでしょうか?

■吉田監督:僕は普段、俳優を観に映画館に行くことが多いです。だから僕も、俳優を観に来る観客のために映画を作りたいと思っていますね。俳優たちが一番輝くような映画を作りたいし、観たいです。

今回の作品は亀梨さんを観にいらっしゃる観客さんも多いかもしれませんよね。亀梨さんのファンにも満足のいく作品になっていると思いました。

■吉田監督:そうなっているといいなと思います。今回亀梨くんに参加してもらったことで、彼のファンである若い人のなかに三島由紀夫という名前に興味を持つ人も出てくると思うんです。そうやって亀梨くんをきっかけに三島作品が若い人たちに読まれていくのを想像すると、ちょっとワクワクします。

『美しい星』を「これまでの総決算」と語ってくれた吉田監督。三島由紀夫のスピリットを受け継ぎ、現代が抱える問題に取り組んだ本作は、まさしく自由な精神を持った“カッコいい”映画に仕上がっている。SFなのか、家族のドラマなのか、現代人への警告なのか、悲劇なのか、喜劇なのか…。スタイルにとらわれず、自由自在にジャンルを超えていく本作は、まさに吉田監督の自由な精神が結実した一作と言えるだろう。

【取材・文】松村 知恵美
【撮影場所】明治大学 駿河台キャンパス アカデミーコモン

最終更新日
2017-05-31 19:07:57
提供
シネマクエスト(引用元

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