
現代のフランスを代表する映画監督のひとり、パトリシア・マズィ監督による最新作『サターン・ボウリング』が、2025 年 10 月 4 日(土)よりユーロスペースほか全国にて劇場公開。
闇に舞うスカーフ、不穏なナレーション、怒りと涙を浮かべるアルマンの姿――。
狩猟たちの歌と祝杯が重なり、男性の暴力と支配欲が儀式のように浮かび上がる本予告解禁
この度解禁された予告編は、闇の駐車場でスカーフがひらめく不穏なショットから幕を開ける。「野生の雌オオカミがいた」「自然界の奇妙ないたずらによって」といったナレーションに続き、犬を連れて歩くアルマンの姿と「トラやヒョウと交尾を重ねた」「突然 凶暴になった」という言葉が重ねられる。やがて映像は、怒りに震え涙を浮かべる彼の表情へと切り替わる。
舞台は、亡き父の遺産である赤いネオンが灯る地下のボウリング場。警察官の兄ギヨームは、それを職も家も持たない弟アルマンに託すと告げる。だがアルマンの返答はただひとこと――「条件がある 首を突っ込むな」。緊張が兄弟を隔て、街を震撼させる連続殺人事件へと結びついていく。
さらに「“女性限定ナイト”を作り俺たちを排除している」と憤っていた父の狩猟仲間たちも、やがてアルマンに引き入れられ、ボウリング場に集う。酒を手に狩猟の歌を歌い上げる彼らの姿は、暴力と支配欲の象徴として不気味に浮かび上がる。その光景を前に、アルマンは衝動を滾らせ、内なる闇をさらに濃くしていく――といった内容になっている。
そして、同時に解禁されたメインビジュアルは、ティザー同様、赤と黒を基調とした強烈なコントラストで構成されている。逆さに配置されたアルマンのアップは、ぎらついた眼差しで観る者を射抜き、不穏な緊張感を漂わせる。赤黒の色彩、逆さの構図、そして眼差しの強度が交錯し、物語の悲劇性を一枚に凝縮したビジュアルとなった。
マズィ監督は本作について「とにかく悲劇を描いた」と語る。伝統的なサスペンスやフィルム・ノワールの骨格に、有害な男性性や暴力がもたらす悲劇を織り込み、さらに近年社会的関心を集めるネグレクトやフェミサイドの問題までも重ね合わせる。男性の抑圧と女性の排除、家庭の継承と断絶――作品に漂う不穏な空気は、現代社会の影を鋭く炙り出していく。
本作は、ロカルノ国際映画際 2022 金獅子賞 ノミネート、「カイエ・デュ・シネマ」 2022 年 ベストテン第 6 位に選ばれた、パトリシア・マズィ監督による長編第 5 作品目。そして本作がマズィ監督日本初公開作品となる。また、『落下の解剖学』などの撮影監督シモン・ボーフィスによる陰鬱で美しいカメラ、俳優の凄まじい演技によって強化されたグランジなネオ・ノワールの雰囲気は、マズィ監督がアートハウス・カルトの地位におさまらないことを示している。ニコラス・レイ、パク・チャヌク、大島渚などにオマージュを捧げながら、古典的なフィルム・ノワールの方法を踏襲し、かつてない衝撃とともに現代的な暴力の問題を炙り出す――。
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© Ex Nihilo - Les Films du fleuve - 2021