A24 製作、ジョナサン・グレイザー監督の最新作。アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族を描く『関心領域』が大ヒット公開中。
ジョナサン・グレイザーが斬新な映像表現で描く一筋の希望。解説動画公開
先週末より公開を迎え日本でも好調なスタートを果たした『関心領域』。アウシュビッツ収容所の隣に住んでいた同所所長のルドルフ・ヘスとその家族が壁の反対側で行われている行為から目を逸らし幸せに暮らす画のみを写し、銃声、人の叫び声などの音や気配でのみ壁の向こう側にあるアウシュビッツ収容所の恐怖が伝わる作品。ジョナサン・グレイザー監督は本作について「なぜ我々は学んでこなかったのか、なぜ同じ過ちを繰り返すのか。80年前に起きた出来事を描いていますが、現代と全く関係のない話を見せるつもりは
全くありません。」「今もアウシュビッツ収容所での出来事と同じようなことが繰り返されています。本作は決して過去の出来事ではなく、現在のことを描いているのです。」と語っており、現代社会を投影していることが示される。X では本作のテーマを受け取った感想が多く投稿され、「今を生きるわたし達に問いかける、過去の話ではなく現在の話」「現在の紛争やジェノサイドと地続きな中、自身の「関心」について揺さぶりをかけられた。」「我々も日々こうやって過ごしてるのでは?と何とも言えない身に積まされる気持ちになった。」「この世界に生きる現代人が今見るべき映画」といった声が相次ぎ、唯一無二の映画体験が盛り上がりを見せているが、一方で劇中に度々登場する不思議なイメージが一体何なのか知りたいと思っている人も多いはず。そこで、映画を観た人もまだ観ていない人も楽しめる、制作者自らが解説してくれる特別映像を解禁。
映像の前半で語られるのは撮影場所について。アウシュビッツ強制収容所所長ルドルフ・ヘス一家の物語を描くため、実際にアウシュビッツの隣で撮影を行ったというチーム。ジョナサン・グレイザー監督は「可能な限り真実に近づくことが大切だったからアウシュビッツの隣で撮影した」とリアルを追求したと語る。
アカデミー賞音響賞を獲得したサウンド・デザイナーのジョニー・バーンは、「暴力は映像では描写せずに、すべて音で表現するようにした。壁の向こう側では虐殺が行われてる。そんな空間に響き渡る音を忠実に再現するために、徹底的に調べて音作りをした」と制作の裏側を振り返る。
そして話は、劇中にサーモグラフィの映像として登場する、林檎を土に埋めていた謎の少女に及ぶ。この少女には実在のモデルがおり、アレクサンドラ・ビストロン・コロジエイジチェックという人物。アレクサンドラは監督がポーランドでリサーチを重ねている時に出会った当時 90 歳の女性。12 歳の時に彼女はポーランドのレジスタンスの一員として、度々収容者にこっそりと食事を与えていたという。その話を聞き、監督はアレクサンドラの物語を書くことを決意。(照明を使わないと決めていたため、夜でも人の形を撮影できるサーモカメラで撮影され、彼女を単なる人間ではなく“エネルギー”として描いた、ということを別のインタビューで話している)アレクサンドラは映画の完成前に亡くなったが、アカデミー賞のスピーチでジョナサン・グレイザー監督は彼女に感謝の言葉を贈った。家、ピアノ、ワンピースまで、すべてアレクサンドラの私物を借りて撮影したシーンで奏でる音楽は、実際にアウシュビッツの収容者であったヨセフ・ウルフが 1943 年に書いた「sunbeam」という楽曲。本編では黄色い日本語字幕で歌詞がでるのでその内容を注意深く読んでみてほしい。
映像の最後に監督は「私たちに似た人間でも、簡単に残虐な行為に及ぶ恐ろしさを伝えている。そんな中アレクサンドラは人間にも善意が残ってると示してくれた。そんな彼女の存在に救われたような気がした」と物語の唯一の希望の光として描いたアレクサンドラの姿に、平和への願いを込めたことを明かしている。
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