1990年、第70回文學界新人賞受賞、第103回芥川賞候補となり注目を浴びた河林 満による「渇水」。〈生の哀しみ〉を鮮烈に描いた名篇が、刊行から30年の時を経て映画化した。人と人の関係が希薄になってしまった現代社会に、真の絆とは何かを問いかけ、観る者を生への希望で照らし出す珠玉のヒューマンドラマ映画『渇水』は6月2日(金)より全国公開となる。
この度、下記概要にて、本作の公開直前ティーチインイベントを実施しました。
上映後の観客のもとに主演の生田斗真さん、門脇麦さん、髙橋正弥監督、白石和彌さん(企画プロデュース)が登壇。早速、生田が「楽しんでいただけましたでしょうか?この映画の撮影中、ずっと雨が降っておりました。先日やった完成披露試写会でも大雨でございました。僕はこの映画のキャンペーンは“雨男キャラ”で行こうと思っていたのですが、今日ものすごく晴れてしまいました。(笑)キャラが崩壊しました。(笑)どう宣伝すればいいのかわからないので、みなさんのお力をお借りしたいと思います。」と早速会場を沸かし、門脇が「いよいよ公開間近ということで嬉しく思います。」と、白石が「映画を見終わってからのティーチインが今回初めてなので、色々な話をできればと思います。隣の部屋で控えている時に、ラストの曲が流れて、生田さんがドアにへばりついて聞いていたのが印象的でした。(笑)」と、髙橋監督が「ようやく一般の方々に見ていただく機会がまいりまして、来週末公開になるのですが、皆様のご感想を聞いたり、ティーチインはとても緊張しておりますので、どうぞお手柔らかにお願いします。」と話した。
本作への参加の決め手を尋ねられると、生田が「日本映画界でとんでもないおもしろい脚本があるんだというのが噂になっていたようで、そんな脚本が時を経て自分の元に回ってきて、その時に感じたのは中身の良さもあるんですが、たくさんの人の想いや作品への愛情が詰め込まれた、ただならぬオーラをもった脚本でした。参加しないと後悔するだろうなと思って、即座に参加させてもらうことを決めました。」と、門脇が「台本を読ませていただいて、なんていい本なんだろうと思ったのと、白石さんと何度もご一緒しておりまして、白石さんが“門脇さんで”と言ってくださっていると言うのを聞いて、断る理由がありませんでしたね。」とそれぞれ熱い想いを語った。さらに、白石が「3、4年前に本を読む機会があって、やはり素晴らしくて、さらに髙橋監督と一緒に飲んだ時に、お人柄に人惚れしてしまって、僕が入ることで一歩でも進むのならば参加させてくださいという話になりました。」と、プロデューサーとして参加したきっかけを振り返ると、監督は「映画として、原作の魅力、社会的な魅力を含んだテーマだったので、映画にして皆さんにお届けしたいなというのがありました。本当に白石プロデューサーと生田さんが、映画の制作に参加してくれるというのが決まって、動き始まったので感謝してますし、その次に門脇さんの快諾もいただいて、自分の中で力になって、制作を始めさせていただきました。」と映画化への決め手、そしてプロジェクトの動き出しを語った。
役を演じるにあたって心がけたことを尋ねられると、「岩切は自分のせいで大切な家族と離れて暮らすことになってしまって、そのことをきっかけに、彼の人生がストップしてしまって、思考も止まっていたような気がします。自分がどこにいて、何をしていて、何のために働いていて、どうして人の家の水を停めなきゃいけないのか、そういうことに蓋をしていて、無理をしている。そういう男の悲しい、独特なオーラが滲み出てくるといいなと思ってやりましたね。」と生田が、「ネグレクトをしているという難しい役柄だったので、地に足がついていて実在感があるように、私とは遠い登場人物と感じましたが、そう見えないように演じました。彼女にもそういう行動をとってしまった理由があって、ただの悪い人ではないので、0.1秒だけでもいいので、娘たちを見守る瞳が哀しみが滲めばいいなと思って演じました。」と難役に挑んだ門脇が話した。
続いて、髙橋監督の演出について、印象に残ったことについての話になると、生田が「雨で撮影がストップしちゃった日も、撮影が思うようにいかない日も、髙橋監督はずっと嬉しそうでしたね。この映画を撮れているという幸せに満ち溢れていて、一番潤っているのは監督かなって思っていました(笑)髙橋監督の人柄に惚れて、この現場が進んでいったなと思います。」と撮影を振り返ると、髙橋監督は「映画を作ることは楽しい作業ですので、雨で恨めしい時もありましたが、映画が中止になったわけではないので、自分としても励みというか、次は面白いシーンを撮ろうという気持ちでいたのかもしれないですね。」と恐縮している様子。さらに、門脇が「姉妹二人の役者さんが台本をもらっていない状況で進んでいって、監督がおふたりにつきっきりだったので、寂しかったです(笑)でも、映画をご覧いただいた方は分かると思うのですが、あたたかい監督の雰囲気が滲み出るような現場で、楽しい映画ではないかもしれないけど、現場は居心地が良くて楽しかったですね。」と、本音をポロリ。それに対して監督は「今回は本当にいい俳優さんたちに巡り会ったので、細かく表現して欲しい、こう演じて欲しいというのは、現場では僕の中で感じなくて、生田さんは岩切だし、門脇さんは有希だし、演者皆さんの芝居が好きだったということで、言わなかったということだったと思います。」とフォローした。
一番大変だったシーン、苦労したシーンの話になると、生田が「磯村くん、そして子役のお二方とアイスを食べるシーンがありまして、長回しの撮影だったので、アイスを何本も食べて頭が痛くなりましたね(笑)特に磯村くんは食べ切らなきゃいけないという使命があったので、あの時期にはなかなか見れない、震える磯村勇斗というのがみえましたね。(笑)」と会場の笑いを誘った。そして門脇は「撮影中雨が多くて、一番最後に生田さんと対峙して家を出ていくシーンが、雨なので今日は撮れませんというのが2、3回あったので、最後ようやく撮影できた日は、清々しい気持ちでしたね。(笑) 大切なシーンだったので、撮って不安な気持ちを終わらせたいと思っていたので、撮れた時は本当に清々しかったですね。」と話すと、生田は「麦ちゃんは僕の出会った女優さんの中で一番帰るの早いんですよね。走って車に帰るんですよ。(笑)」と現場でのエピソードを披露。そして早く帰る秘訣を尋ねられると、「段取りをちゃんと組むことですね。走りながら、脱げるものは脱いでおくのは一番大きなコツです。(笑)」と話す門脇に会場からは笑いが起こった。
また、劇伴と主題歌を手がけた向井秀徳の音楽の話になると、「映画がバーンと終わって、そこから”This is 向井秀徳”のギターの音が流れてくると興奮しますね。初号試写の時に、向井さんもいらしてくださって、映画見終わった後に、飲み行こうって声かけていただいて、飲みに行きました。向井秀徳に誘われた!と思って、めちゃくちゃ嬉しかったですね。」と生田が驚きのエピソードを披露。さらに、「すごく向井さんが好きで、ライブも行かせていただいたことあるのですが、映画を見ていて、最後にジャンと音が入ると、ずっと続いていた低い気持ちが、一回冷静にこの映画を振り返るきっかけになって、試写で見た時に鳥肌が立ちましたね。」と門脇。
ここからは観客からの質問に答えるコーナーに。「撮影されていて、ハッとした、思ってもいなかった変化のあったシーン、もしくは忘れられないシーンはありますか?」という観客からの質問に、生田が「若い女優二人とのシーンは印象的で、二人は宿でもずっとふたりで寝泊まりを一緒にしていて、関係性が出来上がっていくんですが、僕たちは会話はなるべく避けていたところ、彼女たちの心がつながっていって、一心同体になっていく瞬間を見た時は、とてもピュアなものをみたような、ハッとする気持ちになりましたね。」と、門脇は「私も姉妹との、娘とのシーンですかね。現場に入るまで、現場中も、不安だったのですが、二人が河原で遊んでいるシーンを眺めていた時に、それでも家を出ていくんだ、この姿を見ても家を出ていく人なんだなというのが、役を一掴みできた時でしたね。」と、姉妹のシーンをあげる二人。そんな門脇に、生田が「いま思い出しましたが、麦ちゃんの登場シーンは、僕と磯村くんが彼女に声をかけるんですが、そこに佇む門脇麦のなんとも言えない説得力、本物がいるという感じでしたね。まさかその数時間後に走って帰っていく人とは思えない、艶かしい綺麗さがありましたね。(笑)」と振り返る。白石は「滝のシーンですかね。パキーっと晴れていて、生田さんが神々しかったですね。滝も監督は場所をこだわっていて、美しく撮れていて、髙橋さんはもってないようで持っている人なんだなというのを感じましたね。」と話すと、髙橋監督は「お二人が出ているシーンですが、現場でも編集をしていてもハッとしたのが、生田さんが門脇さんに一言申す時に、門脇さんの「水の匂いがする」という芝居は、最初拝見した時から、ハッとして、編集中も既に見ている世界なのに、すごいな、この二人の丁々発止と思っていましたね。」と役者陣を大絶賛。
また、髙橋監督と白石さんの印象を聞かれると、生田が「この映画に参加することを決めてから、「(髙橋監督は)本当に優秀だよ」というのを本当に沢山の方から言われまして、映画を撮っているという現実を噛み締めている監督をみているのが幸せでしたね。」と、門脇が「髙橋監督はとにかく柔らかい暖かい雰囲気があって、その中でも緊張感もあって、どのようなモチベーションで撮っているか、そういう熱って絶対に伝わるので、その中で仕事をしているのが幸せでたまらなかったですね。白井さんも何度もご一緒していますが、チャーミングな監督ですが、血まみれのシーンとかすっごい笑って撮っていますね。(笑)物申したいことが腹の中に沢山ある人で、そういう話を具体的にやるんじゃなくても、感じるので、ものすごくエネルギーを感じる人ですね。」と今度は監督と白石プロデューサーを役者陣が大絶賛。
16mm フィルムで行われた撮影に関しての質問になると、生田が「フィルムで撮影すると、8分しか撮影できないんですね。そのリミットが来ると、フィルムチェンジの時間が来て、時間がかかるから待つんですよ。その待っている時間がすごく好きで、待ち時間の間に撮影部や照明部とコミュニケーションできるのがたまらなく好きで、フィルム映画を映画館で観る機会が少なくなってきているので、フィルムでしか刻めない味とか香りを楽しんでいただきたいですね。」と満面の笑顔。さらに門脇も「フィルムってだけでテンション上がりますよね!自分がずっと観てきて大好きな映画のあの監督も役者さんもフィルムチェンジっていう時間を通ったんだっていうのがすっごい嬉しいし、スタッフの皆さんが嬉しそうなのでこっちも嬉しくなりますね。」とこちらもテンション高く話した。そして、髙橋監督は「メリットで言うと、水の表現とか、光に映る水や、太陽、滝のシーンはフィルムで撮って良かったな、というのがありますし、粒子が荒れていて、ざらついていたり、映像の中で粒が見えたりするんですが、そういったところがこの映画の中では非常に有効だったと言うのがありますね。」と、本作のポイントの一つであるフィルム撮影の魅力を語った。
最後に生田が「この映画はエンタメ作品ではないし、心を抉られるようなシーンもあると思うのですが、この映画を観る前と観た後では世界が変わって見えると思います。長年かけて完成したこの映画をたくさんの人に見ていただければと思いますので、みなさんお力をお貸しいただければと思います。」と、門脇が「口コミでじわじわ広がる映画、今年絶対ナンバーワンですよね。インタビューも言葉選びが難しかった作品ですが、だからこそ、おひとりおひとりの口コミで本当の良さが伝わってくる映画だと思うのでお願いします。」と、が「現代人って岩切のようにどこか心の中が渇いていて、愛が足りなくて渇いて、色々な状況で渇きがあると思うんですよね。この作品は、河林さんが書いた作品を、髙橋さんによって映画化された時点で化学反応が起きていて、渇いた心にちゃんと水を届ける作品になったと言うのを観るたびに感じています。小説はビターな終わり方なのですが、映画は観て良かったな、もうちょっと人間とか社会を信じてみようかなと言う作品になっているので、是非応援していただければと思います。」と、髙橋監督が「御三方が言い尽くしていただいたのですが、いい原作、いい脚本、16ミリフィルムで撮られて、スタッフ、キャストの皆さんが全身全霊をかけてつくっていただいたので、そういう良い芝居が観れる、良い映像だったと言うことを周りの方々に広めていただければと思います。本当に僕だけではなくて、スタッフキャストが一丸となってつくった映画なので、そこを感じ取っていただければと思います。」と話し、イベントは幕を閉じた。
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©「渇水」製作委員会