『そして父になる』から4年、是枝監督と2度目のタッグとなる福山雅治を主演に、是枝組初参加となる名優・役所広司を迎えた本作は、監督が近年描いてきたホームドラマから一転し、かねてより挑戦したいと考えていた法廷を舞台にした心理サスペンスです。勝ちにこだわる弁護士・重盛(福山)が担当することになったのは、死刑がほぼ確実な殺人事件。容疑者は、二度目の殺人を犯した男・三隅(役所)。三隅の供述は会うたびに変わり、動機は一向に見えてこない。やがて浮かび上がってきたのは、被害者の娘・咲江(広瀬)の存在だった。なぜ殺したのか?本当に殺したのか?二度の殺人を犯した男の深い闇。その先に待ち受ける三度目の殺人とは―?映画史に残る心震える心理サスペンスが誕生しました。
本作は第74回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門へ選出され、現地時間9月5日(火)に福山雅治、役所広司、広瀬すず、是枝裕和監督が公式会見やレッドカーペットに参加しました。公式上映後には満席の会場から割れんばかりの6分間に及ぶスタンディングオーベーションが起きるだけでなく、カナダで開催中の第42回トロント国際映画祭ではマスターズ部門に出品されるなど、本作は日本だけではなく世界中から大きな注目を集めています。
そしてこの度、本作の大ヒットを記念して、9月19日(火)に公開記念舞台挨拶を実施いたしました!率直な感想、鋭い質問が多々飛び出し、大盛り上がりのイベントとなりました。
Q:4年前の『そして父になる』以来の再タッグですが、お互いに変わったなと思うところはありましたか?そして『三度目の殺人』に続く、是枝監督×福山雅治さんの再タッグは今後も実現しますか?
福山さん
「変わったなと思うこと…監督も僕も歳を取ったなぁということですかね。先日、テレビ放映されていた『そして父になる』を観ていたんですが、そんなに時間が空いていないと思っていたら結構とったなぁと思いましたね。(笑)(三度目のタッグについて)監督に過去のインタビューを読んだときに、「80歳まで撮るとしたら撮る本数は限られてしまうので、これからも積極的に撮っていきたい」と仰っていたので、その中で1本とは言わず何本も出たいと思います。」
監督
「僕も思っていますよ。いつか福山さんにはすっごく悪いヤツをやらせてみたいです。(笑)犯罪者とかどこかで撮りたいとも思いますし、これまでもいくつか企画のキャッチボールはやっているので、それが実現すればいいなと思っています。」
Q:ヴェネチア国際映画祭のレッドカーペットや記者会見に参加されていましたが、現地での観客の反応はいかがでしたか?イベントに参加した感想や思い出深いエピソードなどあればお聞かせください。
是枝監督
「緊張しながら公式上映で観客の方と映画を観ていたとき、(福山さん演じる)重盛が鳥のお墓を壊して掘り起こすシーンで、客席のイタリア人の方が声を上げたんですね。きっと敬虔なクリスチャンの方だと思うんですけど、そういうところをビビットに感じて、面白いなと思いましたね。」
福山さん
「会場の空気が硬質で、悪い意味の硬さじゃなく、すごく集中しているような緊張感を感じました。終わった後は、少しずつ拍手が来るのかなと思っていたんですが、終わるか終わらないかくらいのタイミングでどっと来て、いい反応で良かったですね。」
Q:映画を観終わった後、モヤモヤした気持ちになりました。結果的に誰が殺したのかわからないからなのかな、と思いましたが、意図があっての事なのでしょうか?監督の狙いが知りたいです。
是枝監督
「狙いですね。主人公の重盛は、はっきりと真実が掴めないままに判決が出て、裁判所を出た後にモヤモヤしていると思うんですね。でも彼も司法のシステムだから、次の裁判に行かないといけないというその主人公の心理を、皆さんにも感じて劇場を出ていただきたかったので、モヤモヤしているのなら成功したのかなって思いますね。」
福山さん
「僕もモヤモヤしていました(笑) 3度目を観た時に”三度目の殺人”の解釈が、2度目観た時と違うぞ!って思ったんです。スタッフを通して、監督に聞いてもらったら「まだその向こうがあるんですよね…」と仰られていたようで、僕はまだわからないんですよね(笑)」
Q:映画を拝見させていただきましたが、19歳の僕には難しい映画でした。1度目は監督の作る映画の世界観を感じながら観ましたが、次観るならどの角度から観るとまた違った面白さが出ますか?
福山さん
「若い時に観た映画ってその時はその時の解釈があるんですよね。大人になってみると、「こういう意味だったのか」って理解したり。だから彼(質問者)も大人になったら解釈が変わるんじゃないかな。」
是枝監督
「映画の最後で広瀬さん演じる咲江が「ここではだれも本当のことを離さない」というセリフがあります。もう一回見返したときに、この登場人物は誰も本当のことを話していないんじゃないかと思いながら観るとまた見え方が違うかもしれません。トロント国際映画祭へ行ったときに、現地のマスコミの方が「三度目に殺されたのはTruthなんじゃないか」と仰ったんです。海外のタイトルは“The Third Marder“で決して人が殺された意味にはならないので、面白い解釈だなと思いましたね。」
Q:雪のシーンで、ふたつの足跡がそれぞれ別のところに歩いていくんですが、意味はあるんですか?
是枝監督
「足跡は意図があるように見えるでしょう?(笑)あれは動物の足跡なんです。地上からは見えなくて、カメラで上から撮ってから気づきました。後から消すこともできたんですが、意味があるように感じるなと思って、敢えて残しました。」
Q:建築士なので、是枝監督の作品はいつも階段に注目して観ています。今回は弁護士事務所の階段と、法廷の階段を注目していたのですが、意味はあるんですか?
是枝監督
「あの法律事務所は階段で選びましたし、法廷は入り口に入っていくところにある階段で決めました。実は階段が好きで、特に螺旋状であったり、石で出来ている階段が好きなんです。いろんな角度が撮れたり、光の入り方が違ったりして、とってもワクワクするんですよ。」
Q:今回の映画で三隅の娘、重盛の娘、被害者の娘、最後のシーンの親子の娘、計4回女の子が出てきたんですが、意図はありましたか?
是枝監督
「重盛が三隅に対してどうやって距離を詰めて、階段を登っていくのか、って考えたときに、ひとつが雪景色で、ふたりとも同じ原風景を持っていることと、もうひとつはふたりとも子供関係で失敗していることにしたんですね。”(容疑者への)理解や共感はいらない”っていっていた重盛が、その共通点を突破口にして、ガラスを隔てた距離から三隅に近づけるように設定を作ったんです。」
最後に、「新作を撮るたびに、こういう時間を作ろうといつも思っているんですよ。家に帰って、映画を思い返すきっかけになるようなお土産をもっていただきたくて。ですから、この映画も楽しんでいただけると嬉しいです。」と監督が今回のイベントへの想いを述べ、また福山さんも「最後に観客の方に直接質問をして、雪とか階段とか娘とか、皆さんの考えを明かしていただいて嬉しかったです。物語の本筋に向かうべく、どこかを補強するべく、すこしずつ積み重なっていくものが映画ですが、そのような細かい部分も届くんだなぁと凄く感じて、イタリアでも届くことがあったし、日本でも届いていて良かったなって思いました。今日はありがとうございました!」という挨拶で、イベントは終始和やかな雰囲気に包まれながら幕を閉じました。
是枝裕和監督最新作『三度目の殺人』は大ヒット上映中!是非リピートして自分なりの解釈を見つけてみて下さい!
(C)2017『三度目の殺人』製作委員会