P.N.「pinewood」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2024-08-20
確か渋谷のユーロスペースで観たケン・ローチ監督の本篇,今回映画オッペンハイマー原題アメリカン・プロメテウスの主演が本篇で活躍した青年だったとは後で知った
むぎのほをゆらすて
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確か渋谷のユーロスペースで観たケン・ローチ監督の本篇,今回映画オッペンハイマー原題アメリカン・プロメテウスの主演が本篇で活躍した青年だったとは後で知った
※このクチコミはネタバレを含みます。 [クリックで本文表示]
この映画「麦の穂をゆらす風」のタイトルは、英国からの支配への抵抗のシンボルとして、アイルランドに伝わる同名の歌からきているという。
「外国の鎖に縛られることは---つらい屈辱」という歌詞が、映画の多くを物語っている。
1920年代、英国統治下のアイルランド。独自のスポーツ、ハーリングさえ咎められる時代。
緑の丘が広がる静かな土地で、独立を求める男たちは、ハーリングのスティックで戦う訓練をしている。
医者の道を捨てて戦いに加わったデミアン(キリアン・マーフィー)もその一人。
英国の武装警察隊の暴力で、普通の暮らしをしていたデミアンが、戦う男に変わっていく過程が、冷徹な視線で抑制的に描かれる。
停戦の後、アイルランドは、英連邦の自治領となったが、デミアンはともに独立を求め戦ってきた兄(ポードリック・ディレーニー)とも、袂を分かつのだった-------。
社会派で知られるケン・ローチ監督は、拷問で爪を剥がされる男の痛み、家を焼かれ髪を短く切られる女の悲しみを、観る者にそのまま体感させる。
アイルランドの歴史を通して綴られるのは、戦う相手が別にいたはずなのに、いつしか同郷の者同士が争い始めるという万国共通の構図だ。 アイルランドの歴史をあまり知らないで観ていたが、みるみるうちに、その普遍性に引き込まれてしまった。 老婦人が歌う「麦の穂をゆらす風」が、実に印象的だ。 どんな目に遭っても、自分の土地から離れようとしない老婦人の強さが、かすかな希望を感じさせてくれる。 世界のどこかで繰り返されてきた悲劇と、普通の人々の痛みを思い起こさせて、この映画は、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した。
1920年のアイルランド独立戦争と条約の評価で二分した内戦を描いたケン・ローチの傑作。ローチの冷静で真摯な視点が、劇的事件に翻弄される人間を感情移入せず、また飾り気なく描いてリアリズム表現を貫徹する。「ライアンの娘」のデビット・リーン監督のような感情の振幅をドラマチックに描く演出ではなく、時代を伺わせるような、張り詰めた緊張感が勝る演出がローチらしい。
「バットマン」で注目したキリアン・マーフィーの演技が素晴らしい。日本語タイトルが昔の付け方みたいのと麦畑で振り向くマーフィーのスチールカットが印象的。