P.N.「グスタフ」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★☆
- 投稿日
- 2019-11-01
名作群の谷間にある作品だが、戦後の不振の時期のものとは一線を画す。まず「西鶴一代女」や「雨月物語」で渾身の熱演を見せた田中絹代が、傲岸な未亡人を軽く流して演じて、中年女性の色気と性(さが)を漂わす名演を見せてくれる。愛人に好意を寄せる娘に抱く嫉妬を内に秘め、母として廓を切回す大人の貫禄が味わい深い存在感を表出している。三角関係を主軸とする脚本は、溝口本来の良さを生かしきれず未消化な物語に終わるが、廓で働く女性たちを突き放しながら熱く見守る溝口監督の演出力は、健在だ。久我美子の演じる娘雪子の性格描写に、もっとはっきりしたものが欲しいところ。その欠点を補って余りあるのが、宮川一夫のキャメラワークだ。溝口監督の演出意図を具現化した奥深い映像を見せて、役者のいる空間を生活感溢れる舞台にしている。田中絹代の独り舞台を演劇的な趣向で映画作品に昇華させた。溝口、田中、宮川を堪能できる映画。