P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★☆
- 投稿日
- 2024-06-12
この東映映画「現代任侠史」の冒頭で、着流し姿の高倉健が、飛行機のタラップを降りてくる。
この作品は、公開当時、そのシーンのみが話題になったそうだ。
今観ると笑えるのは、高倉健が降りる寸前、スチュワーデスが彼に日本刀を渡すところだ。
現実には、絶対にあり得ないことなのだが、映画なら許されるという不思議なシーンなんですね。
この作品の全体の印象は、何か任侠映画の出がらしという感じがしましたね。
ただ、映画史的には重要な点があると思う。
堅気になった健さんと、彼を取材に来たジャーナリストの梶芽衣子とのロマンスが、「冬の華」などの後年の健さんの主演作とつながっていることだ。
この「現代任侠史」が製作されたのは、1973年。
当時の東映においては、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズの大ヒットにより、いわゆる"実録路線"の絶頂期にあたり、実録路線に敢えて参加しなかった健さんにしたら、新境地を目指した彼なりの狙いがあったのだろうと思う。
かつて「網走番外地」などの作品で名コンビを組んだ石井輝男監督が、この作品の演出を手掛けたのも、そのあたりに事情があるのではないだろうか。 また、脚本を従来の任侠映画とは無縁だった、橋本忍に依頼したところにも、その意気込みの一端がみてとれるんですね。 物語は、関西のヤクザ団体から先兵役を引き受けた、組の親分の安藤昇が、関東との約束を取りつけた矢先、銃弾を浴びてしまう。 堅気の健さんは、親譲りの名刀を携えて、お定まりの殴り込みをかけるというものだ。 しかし、一連のパターン化された物語と描写に、任侠映画がはらみ持っていた切迫感と情感は、もはやない。 実録路線に対する一種の"アンチテーゼ"が、任侠映画の悪しき焼き直しに転じてしまっているんですね。 脇役として成田三樹夫、夏八木勲、小池朝雄、内田朝雄、辰巳柳太郎というように、錚々たる顔ぶれが揃っている中で、健さんに代わって二代目総長となる郷鍈治が、印象に残る存在感を見せていましたね。