現代任侠史 作品情報
げんだいにんきょうし
銀座“寿し銀”の主人・島谷良一は、筋金入りの元松田組の最高幹部であったが、母の死により、約束されていた二代目の地位を捨て、やくざ渡世から足を洗っていた。良一が去ったあとの松田組は、先代の実子である初治が二代目を継ぎ、若者頭である中川、分家の船岡といった屈強な若者達で構成されていた。ある日、大阪の永井組の若者頭・栗田光男が、縄張りの競争阻止等の連合会結成を提案すべく上京した。関東懇心会の世話で関口組々長・関口が音頭をとり、各組の親分が招集されたが、永井組の関東進出、関口の松田組の縄張り乗っ取りの策略とにらんだ松田は、この提案に反対した。その頃、南方で戦死した良一の父の遺品である銘刀・備前宗近が米国の博物館に保管されていることが判明し、良一は渡米してその刀を引きとった。マスコミはこの事を大々的に報道した。ルポライターの仁木克子もその一人で、克子は良一の律儀な性格に好意以上のものを抱き始めた。一方、関口の松田に対する挑発が始まった。抗争を未然に防ごうとする船岡は激しく松田に詰めよった。窮地に立たされた松田は、ある日、良一に世話になった礼を云い残し、単身関口組へ殴り込み、凄惨な最後を遂げた。良一は殺気立つ中川を説得し、仲裁に入った栗田は何とか手打ちを行った。だが栗田は、自分の親分である永井と関口が裏で手を結んでいることを知り、最後の頼みの綱である政界の黒幕・湯浅正一のもとへ向った。一方、船岡は、自分が松田を死に追いやったことを悔み、勝気な女房・エリと二名の子分を伴って、永井と関口が密議を行っている神戸へ乗り込んだ。だが、これは関口が書いた絵図で、東名高速で関口組のダンプに襲われ全員殺されてしまった。個人の利益しか考えない湯浅の胸中を知った栗田は、死を覚悟のうえで永井と関口に詰めより、一日も早く連合会を実現させ、関口に会長の座を与える代りに、松田組から手を引くように確約を得た。栗田の力で抗争は終結したと思った良一は、上京する栗田を中川が駅に迎えに行っている間、イキのいい寿しを握っていた。その時、二発の銃声が良一の手を止めた。外には絶命した中川、駆けつけた良一の腕の中で栗田は息を引きとった……。三日後、父の死地であるペリリュウー島から帰国した良一の手には、あの備前宗近と、克子から湯浅の家に永井と関口が一堂に会しているとの電報が握られていた……。
「現代任侠史」の解説
企業化を目的に、抗争から協定への移行を図る現代暴力団絵図の実態の中で、恋と義侠心の板ばさみとなって燃える残侠の男の姿を描く。脚本は「人間革命」の橋本忍、監督は「やさぐれ姐御伝 総括リンチ」の石井輝男、撮影は「女番長 感化院脱走」の古谷伸がそれぞれ担当。
公開日・キャスト、その他基本情報
公開日 | 1973年10月27日 |
---|---|
キャスト |
監督:石井輝男
出演:高倉健 郷えい治 成田三樹夫 夏八木勲 梶芽衣子 中村英子 小池朝雄 内田朝雄 辰巳柳太郎 今井健二 林彰太郎 田中邦衛 南利明 青木卓司 丸平峰子 三益愛子 成瀬正孝 有川正治 野口貴史 川谷拓三 藤山寛美 北村英三 安藤昇 |
配給 | 東映 |
制作国 | 日本(1973) |
上映時間 | 96分 |
ユーザーレビュー
総合評価:4点★★★★☆、1件の投稿があります。
P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★☆
- 投稿日
- 2024-06-12
この東映映画「現代任侠史」の冒頭で、着流し姿の高倉健が、飛行機のタラップを降りてくる。
この作品は、公開当時、そのシーンのみが話題になったそうだ。
今観ると笑えるのは、高倉健が降りる寸前、スチュワーデスが彼に日本刀を渡すところだ。
現実には、絶対にあり得ないことなのだが、映画なら許されるという不思議なシーンなんですね。
この作品の全体の印象は、何か任侠映画の出がらしという感じがしましたね。
ただ、映画史的には重要な点があると思う。
堅気になった健さんと、彼を取材に来たジャーナリストの梶芽衣子とのロマンスが、「冬の華」などの後年の健さんの主演作とつながっていることだ。
この「現代任侠史」が製作されたのは、1973年。
当時の東映においては、深作欣二監督の「仁義なき戦い」シリーズの大ヒットにより、いわゆる"実録路線"の絶頂期にあたり、実録路線に敢えて参加しなかった健さんにしたら、新境地を目指した彼なりの狙いがあったのだろうと思う。
かつて「網走番外地」などの作品で名コンビを組んだ石井輝男監督が、この作品の演出を手掛けたのも、そのあたりに事情があるのではないだろうか。 また、脚本を従来の任侠映画とは無縁だった、橋本忍に依頼したところにも、その意気込みの一端がみてとれるんですね。 物語は、関西のヤクザ団体から先兵役を引き受けた、組の親分の安藤昇が、関東との約束を取りつけた矢先、銃弾を浴びてしまう。 堅気の健さんは、親譲りの名刀を携えて、お定まりの殴り込みをかけるというものだ。 しかし、一連のパターン化された物語と描写に、任侠映画がはらみ持っていた切迫感と情感は、もはやない。 実録路線に対する一種の"アンチテーゼ"が、任侠映画の悪しき焼き直しに転じてしまっているんですね。 脇役として成田三樹夫、夏八木勲、小池朝雄、内田朝雄、辰巳柳太郎というように、錚々たる顔ぶれが揃っている中で、健さんに代わって二代目総長となる郷鍈治が、印象に残る存在感を見せていましたね。