祭りの準備 作品情報

まつりのじゅんび

昭和30年代初め、高知県中村市。沖楯男(20歳)は、この町の信用金庫の外勤係であるが、毎日、東京へ出てシナリオ作家として身を立てることを夢みている。だが、母のときよは女狂いの夫・清馬と別居していて、一人息子の楯男を溺愛するあまり離そうとしない。楯男には心の恋人涼子がいるが、彼女は政治運動に熱を上げており、シナリオを書く楯男にとっては常に片思いの存在であった。楯男の隣の中島一家は、暴れ者の利広と、兄の貞一・美代子夫婦との奇妙な三角関係で成立している。利広が家にいる時は、貞一が刑務所に、貞一が家にいる時は利広が刑務所に、という具合の泥棒一家である。ある日、中島家の末娘タマミがヒロポン中毒の影響で気がふれて大阪から帰って来た。そんなタマミは町中の男たちセックスの対象となる。楯男は涼子へのかなわぬ恋の失意から、浜辺でタマミと寝てしまう。しかしあろうことか、そこへ楯男の祖父茂義が現れタマミを寝取られてしまう。数カ月後、タマミが妊娠した。父親として名乗り出たのは孫ほど年の離れた茂義だった。タマミは子供を産むと同時に正気に返った。だがその時からタマミは茂義を激しく嫌悪し、ついに老人は首を吊った。政治運動家の男に捨てられた涼子は、意外にも楯男を誘惑する。涼子への夢が破れた楯男は、一人、東京へ旅立つことを決心した。駅の待合室で楯男は、殺人容疑で追われている利広に出会った。金を無心する利広だったが、楯男の決心を聞くと途端に楯男を応援する側に回る。「バンザイ!バンザイ!」利広の歓声に送られて、楯男は故郷を旅立っていった。

「祭りの準備」の解説

南国土佐の自然を背景に、一人の少年が複雑な人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描く。原作は脚本も執筆している中島丈博の同名小説、監督は「竜馬暗殺」の黒木和雄、撮影は「田園に死す」の鈴木達夫がそれぞれ担当。

公開日・キャスト、その他基本情報

公開日 1975年11月8日
キャスト 監督黒木和雄
原作中島丈博
出演江藤潤 馬渕晴子 ハナ肇 浜村純 竹下景子 原田芳雄 石山雄大 杉本美樹 桂木梨江 三戸部スエ 湯沢勉 原知佐子 絵沢萠子 真山知子 阿藤海 森本レオ 斉藤真 芹明香 犬塚弘
配給 ATG
制作国 日本(1975)
上映時間 117分

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ユーザーレビュー

総合評価:5点★★★★★、2件の投稿があります。

P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2025-04-17

この「祭りの準備」は、脚本家・中島丈博の自伝的シナリオを、黒木和雄が監督した、青春映画の傑作だ。

高知県の地方都市の信用金庫に勤める楯男(江藤潤)は、父親と別居する母親に溺愛され、左翼のオルグに夢中な涼子(竹下景子)に片思いをしながら、東京に出て、シナリオを書こうと悶々とした日々を送っていた。

父親は、あちこちに愛人を作って、家には帰らず、暴れん坊のトシちゃん(原田芳雄)は、服役中の兄の代わりに兄嫁と寝るのだった。
発狂して、大阪から帰って来たトシちゃんの妹のタマミは、みんなのセックスの捌け口となり、彼女が妊娠すると、楯男の祖父は、自分の子だと言って、一緒に暮らすのだった。

このように、地方の濃密な人間関係に包まれた、うだるような日常が描かれていく。

やがて、浜辺に掛かった赤い布が、嵐の到来を告げ、歯車が狂ってくる。
タマミは、子供を産むと狂気に戻り、捨てられた祖父は首を吊る。
男に捨てられた涼子は、楯男をセックスに誘い、トシちゃんは、はずみで殺人を犯してしまう。

今まで眺めていただけの楯男が、今度は自分で祭りを始める番だ。
逃亡中のトシちゃんが、駅のホームの端で「バンザーイ」と両手を挙げて、上京する楯男を見送るラストは、日本映画史に残る名シーンだと思う。

最終更新日:2025-04-27 16:00:01

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