P.N.「オーウェン」さんからの投稿
- 評価
- ★★★★★
- 投稿日
- 2023-11-27
この神山征二郎監督の「ふるさと」は、岐阜県の山奥にある徳山村を舞台に、ダム工事のために、まもなく故郷を捨てなければならず、ボケの初期症状にも悩まされている老人が、自然の中で子供と対峙することで、心をなごませ、ふるさとの山野を眺めながら、息を引き取っていくまでを清冽に描いた、叙情性豊かなドラマだ。
前半では、モスクワ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した加藤嘉のボケの演技が、圧倒的に素晴らしい。
このじいの胸には、大自然を相手に男として生きてきた誇りと情熱がたぎり、隣家の少年にアマゴ釣りの秘訣を伝授することによって、生命の灯を燃焼し尽くすのだ。
獲物を釣りあげた時、じいは倒れたが、最後の力を振り絞って”男の在り様”を少年に伝えて、息絶えたのだ。
アメリカ映画の「黄昏」や「老人と海」を思わせる老人と子供との、男と男の心の触れ合いを描いて、静かな叙情性を湛えている。
そして、目にしみるばかりの緑、川のせせらぎ、自然の美を捉えた、豊かな映画であったと思う。