P.N.「kamakurah」さんからの投稿
- 評価
- ★★★☆☆
- 投稿日
- 2025-03-20
広瀬すず、杉咲花、清原果耶、奇跡のトリプルキャストが話題の映画『片思い世界』は『花束みたいな恋をした』の坂元裕二脚本・土井裕泰監督コンビが再びタッグを組んで、旬の女優たちをどう魅せてくれるか、という映画ファン必見の一本である。今でなければ撮れない3人の「現在」がどうスクリーン映し出されているか、そここそが注目されるべき作品となっている。
とりわけ注目は広瀬すずである。年明けて、まずはNetflixで是枝裕和監督の『阿修羅のごとく』で、かつて風吹ジュンが和田勉演出で完璧なキャラクターデザインを体現した四女役に挑み、その勢いそのままに根岸吉太郎監督により指名され『いきてかへらぬ』で中原中也、小林秀雄を翻弄する伝説の女性長谷川泰子に扮したことで、今、間違いなく女優として大きな転機にあることを知らしめた。そのことを重ねると、本作での役どころはきわめて重く、おそらく今回が最後の制服姿になるのではないかと思われる。早くから果敢に取り組み始めている自身のイメージの刷新増幅が開花し、実を結ぼうとしているこのタイミングでの本作公開は、いつか振り返った時、広瀬すず最後の少女像として記憶に刻まれるものとなるかも知れない。同世代で学年一つ上の杉咲花はすでに役柄の幅としては先行して広げている感があるし、清原果耶にはまだしばらくの間がある。そのように思い深めて画面を見つめていると、広瀬すずにとどまらず三人三様の女優の「旬」が自ずから炙り出され、物語の進展とともに見えてくるものが広範で興味深いものとなる。トリプルキャストが「奇跡」と称される所以である。
これに大河ドラマ、今年の日本アカデミー賞主演男優賞等、今をときめく横浜流星が絡んでくる。話題沸騰、確実である。加えて内実を仔細に観ると小道具の揃えも秀逸で、坂元裕二らしい仕立てに様々胸を揺らされる。作品の通奏低音のようにしてある合唱曲が作中流れるが、その作詞は坂元裕二の別名義とのこと。歌詞をしかと噛み締めたい。
思いがけず置かれた状況に悩み、そこからの踏み出し方に迷いながら、それぞれの切実な思いを抱き締めようとする若い命。そのありようを見事に演じ切った明日の日本映画を必ずや支える人気女優三様の「旬」に心揺蕩う可憐な佳品である。