クランスマン 感想・レビュー 1件

くらんすまん

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P.N.「オーウェン」さんからの投稿

評価
★★★★★
投稿日
2024-06-03

この映画「クランスマン」は、1960年代中期におけるアメリカ南部の黒人差別をテーマにした映画で、「007シリーズ」や「レッド・サン」「バラキ」などの映画で名を上げたテレンス・ヤング監督にしては珍しい社会派ドラマだ。

この物語の舞台はアラバマ州の田舎町。
ここに黒人の公民権運動が流れ込み、折悪しく、黒人が白人の人妻をレイプした事件が起こって、黒人排斥運動の暴力組織として悪名高い"K・K・K(クー・クラックス・クラン)"が動き始める。

この騒然たる状況の中で、冷静なシェリフ(リー・マーヴィン)とリベラルな白人(リチャード・バートン)が、K・K・Kと闘い、死んでいく。

ストーリーだけを追うと、いかにも常識的な感じだが、この映画は典型的なK・K・Kの白人(タイトルのクランスマンとは、この団員という意味)を一方の極に、友人を虐殺した白人を一人一人殺していく一匹狼の黒人(O・J・シンプソン)を他方の極において、その中間にいろいろな態度の市民たちを配し、その心理の揺れ動きを、手際良く描いていく構成が、実に巧みなので、この種の作品にありがちな紋切り型から免れていると思う。


例えば、シェリフにしても、単純な正義感ではなく、町の白人たちの感情を考慮しながら、自分の信念の最後の一線だけは侵すまいとしている現実主義者なのだ。 また、K・K・Kのスポンサーで、町長でもある工場主は、シェリフに向かって「俺は悪玉ではない。悪玉は制度だ」というセリフを吐けるだけの冷静さを備えている。 リベラルな白人にしても、自分の土地の中で貧しい黒人を保護しているが、それ以上はなるべく騒ぎに巻き込まれず、静かに本でも読んでいたいという優柔不断さが、かえって人間味を感じさせるんですね。 また、彼の保護下にある美しい黒人娘が、大都会の空気を吸って帰郷してから、この町の黒人デモの指導者と微妙な対立を示す。 これらの人物たちの性格はきちんと描き分けられ、それが互いに絡み合って、緊密にドラマが進行していく点で、テレンス・ヤング監督の演出は手堅さを示していると思う。 いずれにしろ、広大な国土の中に孤立しているアメリカの田舎町の閉鎖性は、それ自身、ドラマの実験室となるのかもしれない。

この映画を観て、最初に思い浮かべたのは、アーサー・ペン監督、マーロン・ブランド、ロバート・レッドフォードが出演した「逃亡地帯」で、こちらは黒人問題ではなく、脱獄囚に対するリンチが素材だったが、その町のシェリフであるマーロン・ブランドの役割は、この「クランスマン」のリー・マーヴィンにそっくりだ。 それから、エイブラハム・ポロンスキー監督、ロバート・レッドフォード主演の「夕陽に向って走れ」もよく似た環境のドラマであり、治安が強大な警察機構ではなく、個人の決断にかかっている密室状況で、大衆の狂気に一人立ち向かう保安官をヒーローにしたドラマだった。 こういうドラマは、日本の社会では作り得ないという点で、いかにもアメリカ的であり、そこにはいつも学ぶべきものがあると思う。 テレンス・ヤング監督のこの映画に、黒人問題についてのアクチュアリティがあるかどうかは疑わしいが、"アメリカの田舎町のドラマ"の典型として、興味深く観られる傑作であることだけは確かだ。

最終更新日:2024-06-13 16:00:02

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