日時:6月18日(土)
場所:丸の内ピカデリー スクリーン1
登壇者:役所広司、松たか子、香川京子、田中泯、榎木孝明、AKIRA、小泉堯史監督
映画『峠 最後のサムライ』の公開御礼舞台挨拶が6月18日(土)、東京・有楽町の丸の内ピカデリーにて開催され、役所広司、松たか子、香川京子、田中泯、榎木孝明、AKIRA、小泉堯史監督がそろって登壇した。
2018年の撮影後、コロナ禍の直撃を受けての3度にわたる公開延期を経て、ついに公開を迎えたとあって登壇陣一同、胸に迫るものがあるよう。役所は満員の客席を見渡し「こんなにたくさんのお客さんに劇場に足を運んでいただきありがとうございます」と感激した面持ちで語り、さらに「宣伝部が一生懸命、3年半をかけて(プロモーションを行ない)、ようやく公開を迎えることができました」と映画の完成後にプロモーションに関わった宣伝スタッフに対しての感謝の言葉を口にする。
長くこの世界で活躍してきた香川にとっても3度の公開延期は予想外のことだったよう。「映画界にいて初めての経験でした。映画界もなかなか難しくなったなというのが本当の気持ちですが、今日は朝早くからお越しいただいてこんなにたくさんの方に見ていただけるのは本当に嬉しく思います。どうかみなさまもお元気で」と客席に優しく微笑みかける。
小泉監督も「やっと届けられるなという思いです。河井継之助が僕の手を離れてみなさんのところに行くんだなと感じています」としみじみと喜びを噛みしめた。
河井継之助という男の魅力はどこにあるのか? 演じた役所は「家庭人としての河井継之助さんは、ほとんど家にいなかったけど、それでも妻のおすが(松さん)は、継之助が家にいてくれるだけで楽しくてしょうがないという感じで『亭主元気で留守がいい』という広告がありましたが、それとは全く逆で、とにかくそばにいてくれるだけで幸せなんですね。こういう夫婦関係を築いた継之助は、男としてもとても魅力的だったんだろうなと思います」と分析する。
そのおすがを演じた松は、役所が演じた継之助について「目が輝いていて、その目でニコっとされると、男性も女性もこの人のために何かやりたくなる吸引力がある。どうしても目で追ってしまうチャーミングなところがあって、『ま、いっか』「しょうがないな』となってしまう(苦笑)。ニコっとされると『はい』と言っちゃう不思議な魅力があるのかなと思いながら眺めていました」とおすがの気持ちを代弁する。
劇中、継之助がおすがをお座敷遊びに一緒に連れて行くというシーンがあるが、継之助の母を演じた香川は「ビックリしました(笑)。武士なのに、芸者さんのところに奥さんを連れて行く…。親としては『いけないよ』と言う立場なんですけど、そういう継之助さんの性格、自由な生き方が素晴らしい魅力だなと思いました」となんとも憎めない継之助の人柄に香川も魅了されたよう。さらに「藩のことだけでなく日本中を研究して歩いて、広い世界を見ているところが魅力的。家族には優しく、奥さんとも仲良く、本当に完璧な方だったんだなと思う」と手放しで絶賛する。
田中は、継之助のそんな生き方が「うらやましい…。世界に対する好奇心を行動に移した。父親としては嫉妬するくらい素敵だなと思いました。(役を)変わってほしいくらいです(笑)」と心底うらやましそうにつぶやく。さらに「内面の苦しみ――語らずにいる深みもすごく魅力でした」と行動だけでなく精神的な部分にも多大な魅力を感じたと明かす。
榎木は「やはり、リーダーシップ」と人々を率いる力が継之助の魅力だと語り、さらに「僕は継之助の評価がまだまだ低いと思っていました。歴史は後世の人が作るものだと思っていて、坂本龍馬も西郷隆盛もそう。本や小説になって初めて、そういう人物がいたんだとなる。その意味で今回、やっと正当な評価が広まるのが嬉しいです」と笑顔で語る。榎木自身は劇中の長岡藩とは敵対する立場の薩摩(=鹿児島県)の出身だが「これまで薩摩の役はいろいろやってて、今回、(薩摩と)敵対する役は初めてで新鮮でした」と充実した表情で語っていた。
AKIRAは継之助の右腕として奮闘する山本帯刀を演じたが「継之助の『侍として美しく砕け散れ』という熱い言葉を胸に忠誠心をもって演じさせてもらったので、そういう真っ直ぐなところが継之助は魅力的だなと思います。藩を守るのと国を想うのと、家族を守るのと家族を想うのを同じように考えていた人情あふれるところも魅力的だなと思っていました」と役柄同様に継之助の“熱”に心動かされたようだった。
この魅力あふれる継之助を描いた小泉監督は、ひとりひとりの言葉に耳を傾けながら「僕はいつも『こういう人物に出会いたいな』というのが映画を作る上で大事にしていて、(今回の映画で)それ以上のものに出会えたなと思っています」と嬉しそうにうなずいていた。
小泉組の現場を経験し、そして完成した映画を見てどのような思いが胸に去来したかを尋ねると、役所は「どうして『戦争を避けたい』と思っていた人が戦争に突き進むことになったのか? それがこの作品の肝だと思います。僕たち未来の人間に日本人として人間としての美しい生き方を教えてくれている気がしました。その河井継之助さんの思いをしっかりと受け止めたいなと思いました」と真摯に語る。
松は、香川と田中が演じた継之助の両親の言葉や振る舞いや愛情――特に母親が発する「夫婦は向かい合うばかりでなく、同じ方向を向いていく」という言葉に言及し「非常に潔い、侍の妻となった覚悟みたいなものを香川さんの声・言葉で聞くことができて、『女性もカッコいい』と感じ、女性もこういうふうに一生懸命生きていたのかなと想像できて、体験できたことが幸せでした」としみじみと語る。
香川はそんな松の言葉に強く同意し「男たちは“侍魂”を持っているけれど、妻も妻なりに侍魂を持っていなければいけなかったんだなとしみじみと感じました。あの時代に生きた女たちも侍だったんだなと強く思いました」と当時の女性の強さを口にする。
田中は「まさにいま、この時期にこの映画をご覧になった方は、世界でいま起きていることとダブって感じることがあると思います。僕は『戦争反対』と声に出して言ってしまう人間なので、すごい時にこの映画がついに公開されたなと思います」と公開延期を経て“いま”この作品が公開されることの意義の大きさを口にする。さらに田中は現場で印象的だったこととして「監督の佇まいがとてもよかったです。監督が美しかった!」と感嘆。役所も「美しい人です。美しい映画しか作らない人ですから。昔の人みたいに美しい人です」とうなずく。名優2人からの絶賛に小泉監督は「僕はみなさんの美しい姿を撮ろうと一生懸命だっただけです」と照れくさそうに笑みを浮かべていた。
一方、榎木は同い年で、生まれた日も数日しか違わないという役所の「美しさ」について言及。「現場で話していて、ある日『ずっと良い役が続いてるね?』と言ったら『いや、運が良いだけですから』と。運をひきつけるのも実力のうち。カッコいいなと思いました。僕もこの作品と出会えて、運が良かったと思います」とニッコリ。この言葉に今度は役所が照れた表情を浮かべ「本当に僕は運が良いんです。いつ運が尽きるかとドキドキしながら生きています(笑)」と語っていた。
AKIRAは、初めて経験した小泉監督の現場について「撮影の日々は全て貴重な経験であり学びの時でした。完成した作品をみて小泉監督が描くワンシーン、ワンシーン、役所さんが演じる継之助のひと言、ひと言――いまの混沌とした世の中に必要なメッセージが詰め込まれた作品だと思いました」と力強く語った。
舞台挨拶の最後に役所は「この作品には本当に21世紀に生きる我々の心に響く言葉がたくさん詰まっていると思います」と語り、「二度目、三度目とまた違った感じで映画の言葉が伝わると思いますので、ぜひまた劇場に来て映画を楽しんでいただければ嬉しいです」と呼びかける。
小泉監督は「歴史上の人物は、みなさんが思い出してくれさえすれば、いつもみなさんの心にいるものだと思います。ときどきのスクリーンの中の人物を思い出していただければと思います」と語り、温かい拍手の中で舞台挨拶は幕を閉じた。