『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』と『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』でベルリン、ヴェネチアを2作連続してドキュメンタリー映画で初めて制した名匠ジャンフランコ・ロージ監督最新作『国境の夜想曲』が2月11日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次公開となる。『国境の夜想曲』はジャンフランコ・ロージ監督が 3 年以上の歳月をかけて、イラク、シリア、レバノン、クルディスタンの国境地帯で撮影した。ここでは 2001 年の9.11 アメリカ同時多発テロ、2010 年のアラブの春に端を発し、最近ではアフガニスタンからの米軍撤退と、今に至るまで侵略、圧政、テロリズムにより、多くの人々が犠牲になっている──。
本作のエンドロールと本編の途中でも流れる印象的な曲「我が祖国(Mawtini)」。作詞を手掛けたイブラヒム・トゥーカンはパレスチナの著名な詩人で、作曲のムハンマド・フリーフィルはレバノンの作曲家であり、現在のシリア国歌の作曲も手掛けている。「我が祖国」はアラブでは広く知られた歌で、1934年にパレスチナで詩が書かれ、パレスチナ民族解放の象徴のように語られてきた。パレスチナはその後いくつかの曲が国歌として制定されたが、人々は「我が祖国」を愛唱しつづけ、パレスチナの実質的国歌とも言われている。また、イラクでも1924 年にイギリス人将校が作曲した国歌に始まり、いくつもの曲が国歌とされてきたが、2004 年のサダム・フセイン政権崩壊後に連合国暫定当局代表が「我が祖国」を国歌と定め、現在に至るが法的な根拠はないとされる。サッカーのワールドカップなどではイラク国歌として選手たちが「我が祖国」を歌っている。またシリアとアルジェリアでも、パレスチナを支持するため国歌に準じるものとして扱われていた。アラブ全域で高い人気を誇り、数多くのミュージシャンが本曲をカバーし、Youtube で「Mawtini」の曲名で検索するとカバーアーティストの多さと再生回数に目を見張る。本作ではヨルダンの歌唱コンテストで優勝した Saja Al-Maghasba という女性ミュージシャンが 2012 年に発表したカバーバージョンを使用している。
「♪♪我が祖国よ 栄光と美しさ、崇高さと壮麗さ それがあなた(祖国)の丘にある 生命と解放、歓喜と希望 それがあなたの空にある」「私たちは決して望まない 永遠に続く屈辱も みすぼらしい人生も だから取り戻す」という歌詞が印象に残る。本作の中でジャンフランコ・ロージ監督は、政治風刺劇が演じられ、紛争で傷ついた人々が身を寄せる精神病院の場面で、紛争のニュース映像とそこに入院する患者たちのクローズアップとともにこの歌を流している。それはどんな意味を持つのだろうか。紛争に明け暮れるアラブの悲しみと未来への希望をロージ監督はこの歌に託しているかのようだ。まもなく冬季オリンピックが開幕する今、各国の国歌を聞く機会が増えるだろう。平和の祭典でもあるオリンピックの中だからこそ、スポーツでの戦いではなく、内戦、紛争、テロが繰り返し行われている中東の地に、本当の平和が来る日を祈るのも一興ではないだろうか。
【本編映像】アラブを横断して様々な国で愛される歌を特別解禁!2/11(金・祝)より公開『国境の夜想曲』
https://youtu.be/ozlugM-myzc