第92回アカデミー賞モロッコ代表作『モロッコ、彼女たちの朝』が8月13日(金)TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開となる。
カサブランカで女手ひとつでパン屋を営むアブラと、その扉をノックした未婚の妊婦サミア。思いがけぬ出逢いが、ふたりの人生に光をもたらしてゆくー。モロッコの伝統的なパンやインテリア、アラビア音楽など、あふれる異国情緒がドラマを彩る。新星マリヤム・トゥザニ監督が、過去に家族で世話をした未婚の妊婦との思い出をもとに作り上げた長編デビュー作。家父長制の根強いモロッコ社会で女性たちが直面する困難と連帯を、フェルメールやカラヴァッジョといった西洋画家に影響を受けたという豊かな色彩と光で、美しく描き出した。本作は2019年のカンヌを皮切りに世界中の映画祭で喝采を浴び、女性監督初のアカデミー賞モロッコ代表に選出。さらに、現在までにアメリカ、フランス、ドイツなど欧米を中心に公開され、ここ日本でも初めて劇場公開されるモロッコの長編劇映画となった。製作・共同脚本に、本年度カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に監督作が正式出品された著名監督で、トゥザニ監督の夫でもあるナビール・アユーシュ。主演に、『灼熱の魂』のルブナ・アザバルと、日本初紹介のニスリン・エラディ。
カンヌ、アカデミー賞と、世界で脚光を浴びる新星マリヤム・トゥザニ監督インタビューが到着!
本作の監督を務めたのはモロッコ・タンジェ生まれの新星マリヤム・トゥザニ監督。ロンドンの大学でジャーナリズムを学んだ後、モロッコへ帰国。初めて監督を務めた短編映画『When They Slept』(12)は、数多くの国際映画祭で上映され、17の賞を受賞した。さらに夫であるナビール・アユーシュ監督作『Razzia』(17)では、脚本の共同執筆に加え主役を演じるなど、女優としても活躍。その才能を多方面で存分に発揮している。今年、共同脚本で参加したアユーシュ監督最新作『Casablanca Beats』がカンヌのコンペティション部門に出品された。長編デビュー作となった本作では女性監督初のアカデミー賞モロッコ代表に選出されるという快挙を成し遂げている。
本作の物語について監督は、次のように語る。「『モロッコ、彼女たちの朝』は人生につまずき、逃避や拒絶に救いを求める2人の孤独な女性の物語です。2人はお互いに向き合い、思いやり、支え合うことで次第に心を通わせていきます。サミアは子どもを身ごもり、生まれてくる命に困惑する女性です。彼女の意思とは裏腹に、お腹の子は日に日に成長し大きくなっていきます。一方アブラは喪失感に苦しむ女性です。大切な人の死によってふさぎ込み、抜け殻のような日々を送っていました。2人はこの上なく美しくも過酷な出来事を通じて人生と向き合うことになります。」
イスラム教圏のモロッコでは、婚外交渉は違法であり、婚外子は社会的にもタブーとされている。本作は、監督とその両親が、見知らぬ未婚の妊婦を家で匿い、出産から養子に出すまでを世話したという実体験を元に作られた。「心の奥底で、この子を手放さずに社会や両親、家族と向き合ってほしいと願いました。私はナイーヴでしたし、恐らく今もそうでしょう。当時はこの女性が私の心の中に、こんなにも長い間居続けるとは夢にも思っていませんでした。私自身が母になるにあたり、一刻も早くこの物語を書き、伝えなければならないと感じました。しかし母になることは私の喜びでもありました。こうして物語は形を成していきました。」
また、繊細で、光と影のコントラストや質感が絵画のような美しさだと評される本作の演出について、次のように語る。「2人の出会い、そして彼女たちが変わっていく様子にフォーカスしたいと思いました。そのため登場人物たちを、劇場の舞台のように窓が1つあるだけの閉ざされた空間で撮影しました。また、感情を説明する脚本のト書きも極力シンプルにしました。」
「中庭や寝室では、絆が深まり空気がほぐれるにつれて、より明るい光が差し込むようにしました。光はこうして舞台のステージと同様に、静かにさりげなく登場人物たちの心の旅を映し出すのです。」
「映像と音を通して、私たちはこの2人の女性の体に入り込みます。肉感的に撮られた、パンをこねるシーンもその一例です。彼女たちの魂に入り込み、些細な動きの一つ一つを随所に見せようとしました。」
最後に日本の観客へ向けてメッセージが。「日本で劇場公開されることにすごく感動していて、大変光栄だし、誇りに思います。日本のスクリーンで上映されるということ、2人のキャラクターたちの真実がモロッコから大きな旅に出て、地球の反対側にある日本に届けられること、皆さんが1時間半以上それを観て彼女たちになることができることというのは、言葉以上に感動することです。とても感謝しています。」
モロッコの長編劇映画、日本初公開となる本作。これまでなかなか触れる機会の少なかった遠い国の女性たちの感動の物語を、異国情緒にあふれる旅気分とともに、ぜひスクリーンで発見したい。