日時:6月25日(金)
場所:角川シネマ有楽町
登壇者:大東駿介、瀬々敬久監督、菊地健雄
現在絶賛公開中の映画『明日の食卓』の「公開記念トークイベント」が6月25日(金)に池袋HUMAXシネマズにて開催され、本作で尾野真千子演じる石橋あすみの夫、太一役を演じた大東駿介と瀬々敬久監督、菊地健雄(監督補)が3人揃って登壇。公開後だからこそ話せる撮影秘話や、ここでしか聞けない気心の知れた3人だからこその濃厚トークが繰り広げられた。
冒頭で、「東京の映画館で舞台挨拶やるの久しぶりやなと嬉しく思っています」と挨拶した大東。監督補の菊地は「大東さんとは(菊地が監督を務めた)『望郷』という映画でご一緒して。監督をやってからスタッフとして現場でご一緒するという珍しいパターンでした」と大東との仲の良さを早速のぞかせた。
今作が初の瀬々組となった大東は、「僕はもう嬉しかったです。菊地さんとはコロナ以前はプライベートでもよくお会いしていて瀬々さんのお話は聞いていたので、今回お話をいただいた時は嬉しかったですし、そこに菊地さんがいて下さるのもすごく嬉しかったです」と述懐。続いて今作の現場の印象について聞かれると、「(コロナの影響で)僕も撮っていたドラマがどんどん撮影中止になったり、『映画どうなるんやろ』と結構不安な時期もあって。そんななか再開しますっていう1本目がこの作品だったんですけど、そういう気持ちの中現場に入って撮影している時に『なんでこんな楽しいのかな』と思って。なかなか重苦しい現場やったんですけど。それで(瀬々組に何度も参加している)渡辺真起子さんに『なんでですかね』って聞いたら、『それは瀬々さんがめっちゃ映画が好きやからや』って言われて。本当に瀬々さんの周りは、初めて体験する活気というか情熱があって興奮しましたね!」と印象深い現場だった様子。
そんな大東の出演について、瀬々監督は「僕は菊地さんに大推薦を受けてまして。その前に『37セカンズ』という作品で、
(主人公の)障害者の方への接し方がすごくナチュラルというか、それは演技というものを超えて持ってらっしゃって。そういう方がこういう役をやった方がいいかなと。(今作に出てくるのは)不甲斐ない男性ばかりですけど、そういう人も人間なんだというふうに描きたいと思っていたので、一概に男はダメだみたいにしたくなかった。本来、大東くんが生来持ってる人間性というものが素晴らしいんだなと『37セカンズ』を観て思ったので」と起用の理由を明かした。
そして菊地から、「僕と瀬々さんは全然違う?」と大東に質問が飛ぶと「違いますね。核となる部分は重なる部分はあるけど、やっぱり(菊地は)瀬々さんを支えてきた人っていう感じがします。瀬々さんからは溢れ出る熱量みたいなのをすごい感じて、菊地さんはそれ以前にまず優しさのフィルターが一個ある。瀬々さんに優しさがないという訳じゃないんですけど、瀬々さんはそれぞれの仕事に対しての評価を現場で結構感じる。そういう熱量の真摯な愛を感じるが、菊地さんはそういう人を辛いことも含めて支えてきた大らかな優しさがある」と語る大東。対して菊地も「そうですね、その背中を見てきたので、こうなりたいという所とこうなりたくないという所はあります(笑)」と明かした。
本作では菅野、高畑、尾野が演じた三者三様の石橋家が描かれているが、原作からの映画化にあたって多くの作品を手掛ける瀬々監督は、映画化の決め手について「原作が好きか嫌いか、愛情が持てるか」と回答。「『明日の食卓』は原作の語り口が可愛くて眼差しが優しい。そういう所がいいなと思ったんです」と原作の魅力を語った。
いっぽう大東は原作について「僕は感情移入して読みました。近年だいたい僕はこういう役なので、またですねって感じでしたけど(笑)」と笑わせながら「やりがいがありましたし、子どものことを考えると色々考えることが多い。情報がこれだけ溢れている中で、自分の感性、価値観というものを何をもって自分のものとしているのかと感じました」とも。それに対し監督が「昔はもっとシンプルだった気もする…」と言うと、大東もさらに「今は“実態”以外の情報が多い。まだ僕の世代ってそこの狭間にあったんですけど、原作を読んでいたらそれ以降の子供たちというのは実態がないものが多い。それがいいか悪いかは別として、それをそばで支えていく身として、ちゃんと実態を提供する意識というのは大事だなと。特に僕の役はまさにそれをほったらかしにして奥さんを責めてた人なので、演じた太一自身も子供の実態を把握していなかった。だから(僕自身も)そうはなるまいなと思いました。恐ろしい時代ですよね」と今作が持つ深いテーマについても熱く語った。
最後には観客から、最後の大東演じる太一が母親の真実の姿を知って泣きじゃくるシーンの真意について質問が出ると、瀬々監督は「大東さん(太一)も、父親だけど子どもだっていうことを伝えたかった。みんなそれぞれお父さんお母さんなんだけど、かつては子どもだったみたいな所は結構重要」だと明かすと、観客からも「とてもいいシーンだった」という声が。大東は「(あのシーンは)本編を観たらばっつり無くなってるんじゃないかと思いながら…(笑)」と冗談を飛ばしながらも、「台本には“泣きじゃくる”としか書いてなかったんですけど、本番でお母さんに『ごめん』と無意識で謝っていた」と撮影時のエピソードを明かす。すると瀬々監督が「 (大東の息子役の)楓雅君も、あそこのシーンが一番いいシーンだったって言ってたんですよ」と明かし、それに大東が「僕は一生あの子についていきます(笑)」と返すなど、終始和気あいあいとした雰囲気のなかイベントは幕を閉じた。